ついに古稀を超えてしまった。現代では70歳以上は少しも稀ではなくなったものの、少しは感慨もある。
そしてこの齢になってであるが、ここ数年の評論家的立ち位置のコンサルタントから中国の半導体ベンチャーで研究開発業務に復帰・・・ということになりそうである。
新卒から42年勤めた会社を上記ブログに書いた事情で退職して以来は、海外中心のコンサル生活が続いていた。
上記ブログのように日本では海外というか外部の人間の知見を事業の中枢に活用しようとする企業文化がないので、どうしても顧客は海外に求めるしかないのであるが、それでも仕事としては評論家的な気楽な?業務が多く、まあこんなロートルにプレイさせてくれる職場はないだろうから歳相応かと考えていた。
それが急転直下して研究開発の現場に復帰することになり、それもあまり経験がない半導体廻りで中国のベンチャーを顧客にしてということで、これまでのコンサル顧客であった欧州の独占企業や韓国の財閥系企業のようなノンビリした社風(ついでに云えば42年勤めた日本企業も、牧歌的雰囲気に惹かれて就職を決めたのだが)とは正反対の雰囲気の中で果たしてやっていけるのか?
まあやってみなければわからないし、失敗したところで別に失うものもない・・・と開き直れるところが古稀の図々しさだろうか。
なお10年前の還暦を超えた頃も生涯現役などと嘯いていたので、その頃のブログを引用する。
(2016年05月03日作成のブログから引用)
還暦を超えての今後の(無)計画
映画“グランドフィナーレ”を観た。
鬼気迫るマイケル・ケイン82歳、ハーヴェイ・カイテル76歳、ジェーン・フォンダ78歳と、全裸の若い女優たち(マグロ状態で並び食傷気味だが老若セレブがスイスのスパリゾートで過すという設定なので違和感がない)が対照的に描かれ、原題はyouth(若さ)である。
なお以後の記述にはネタバレも含むが、本当にいい映画というのはむしろストーリーを知っている方が愉しめるものだと思う。
今年観たというか昨年度の映画では、“完全なるチェックメイト”(原題pawn sacrifice)と“スティーブ・ジョブズ”とこの作品が面白かったが、前2作は有名人の伝記的映画でファンなら誰でも知っているストーリーであり、芝居だって前もってストーリーを知っておかないと楽しめないものが多い。
マイケル・ケインはパーマー(画像下:007に対抗して製作されたシリアススパイシリーズで、若い頃から渋かった)時代からの大ファンであり、本作は間違いなく彼の最高傑作であろうし欧州系の映画賞を多数受賞した。
ただアカデミー賞を逃したのは、今年は最初からディカプリオの涙の初受賞が暗黙の了解だった?という事情もあってちょっと運が悪かったかな。
ケイン-今はケインというと別の意味(笑)を想像するようになったが-の役は半引退状態の老作曲家・指揮者であり、無気力状態で舞台となる超豪華スパリゾートに滞在中である。
その大親友のハーヴェイ・カイテルはまだ現役にこだわる巨匠映画監督であり、全盛時に女優として発掘してコンビで多くの映画を作ったジェーン・フォンダと新作というか遺作を撮ろうとするが、彼女に“貴方はもう老いて駄作しか撮れない”と出演を拒否される。
そして彼女の出演なしではとうてい新作製作は認められないという状況で絶望したカイテルは発作的に飛び降りて・・・
このスパリゾートには様々な老いて過去の名声にすがる人物や、若く今が旬である人物が登場する。
その中でも強烈なイメージを残すのは老いてブクブク太ったマラドーナ(一瞬本人かと思うくらい雰囲気を出していた)を想起させる人物であり、テニスボールで(サッカーの)リフティングする人間業とは思えないテクニックを披露するが、少し続けると倒れて酸素吸入器が必要になるという体たらくである。
そしてケインとカイテルがスパに漬かって健康話(笑)で盛り上がっているときに、全裸のミス・ユニバース(ルーマニア女優のマドリーナ・ゲネアが素晴らしい)が入ってきて二人が人生最後の?浴場じゃなくて欲情を覚えるというシーンもなかなかひねりがきいている。
この映画では最初は無気力状態になっているケインとまだやる気満々のカイテルが対照的に描かれるが、最後はカイテルがポキッと折れてしまったのに対しそれを見ていたケインが自分の人生でやりたいことは何かと見つめなおし、そのグランドフィナーレとしてエリザベス女王主催の音楽会でタクトを振るというシーンで終わる。
俳優はいい役があれば何歳まででもやれるし、歳を重ねて重厚な雰囲気を醸し出すこともできる。
それでは他の職業・・・例えば私もその一員である一般的な勤め人はどうだろうか?
自分が研究者として一番仕事に乗っていたのは30歳から45歳くらいまでという気がするが、通常はそのあたりで一線の研究からは退いて管理業務に転じる方が多い。また官民問わずそれなりのコースは準備されているし、いわゆる“大物”研究者というのは自分では研究しない研究管理者であるというケースが大半である。
ただ私の場合はどこをどう間違ったのか、還暦を越してまだ自分でビーカーを振る生活を続けており、生涯現役などと嘯いている。
節目節目のブログから思い出してみると6-7年前に年寄りの冷や水と言わんばかりの周囲の猛反対を押し切って始めた研究は、ライフワークのつもりであった。若い頃なら三つも四つも同時に研究プロジェクトを回していたのだが、その当時はもうそんな元気もなければ使える人・モノ・金も充分ではなかったし・・・
それが還暦を前にしてなかなか完成せず会社からの評価も今一つの状態が続いていた。そこでもう社内はあきらめて海外で自分ごと(笑)この研究を買ってくれる顧客を探そうとして、米国で発表したのだが思いのほか好感触であった。
そこで会社とも話し合い、還暦を超えて以後5年以内に海外顧客(国内はNGなのは国内顧客だとどうしても今の会社の競合になってしまうため)に私ごと売り込むという暗黙の了解で研究を継続することになった。
しかしながら海外顧客(第一候補はボローニャに本拠を置く多国籍企業)との交渉を重ねてまとまり始めた段階で、急転直下でやはりこの研究を社内採用して社内事業としてグローバル展開しますという結論になった。
海外で認められると国内でも認められるといういかにも日本的な事情ではあったが、私もこの歳になって海外で見知らぬ人の間で苦労するよりは社内で気心が知れた人と仕事をするほうが成果をあげやすいことは自明である。
そこで結果オーライということで今の会社に残留することにした。経済的にもまあまあのオファーがあったし・・・
社内の旧友からは会社を脅迫した結果じゃないのと皮肉られたが、別にそういう事情ではなく、お互いが最もハッピーになる途を模索した上の結論である。
ただしその研究の社内でのグローバル展開のために陣頭に立ってほしいという要請は辞退することにした。
多分私のような年寄りが考案者・発明者だからといってエラそうに口を出せば皆から煙たく思われるであろうし、そういう実務的な事業展開の仕事はおそらく私には向いていないからである。
というわけでこれまでの研究はグローバル特許網の構築(これだけで7~8年かかりそう)を除いてすべて社内の別のチームに引き継ぎ、私は一から新しい研究を立ち上げることにした。
これまで30年以上専門にしてきたセラミックスの世界からも離れ、学生時代から新入社員の頃にかけて少し齧っただけの有機合成の研究に戻るつもりである。
そして何とか私の実験室に小さな合成装置を組み立てた。連休明けから初めての運転開始となる。
そして来年には北九州に大型設備を導入するスケジュール(獲らぬ狸であるが)になっており、そうなると年に半分以上はそちらに滞在することになる。
何年かかるか私にもわからないし、あまり考えてもいないという将来計画ならぬ将来無計画である。周囲もあきれてしまい、あと何年やるつもりですかと質問する人もいなくなった。
マイケル・ケインがこの作品で82歳なら、私もそのくらいまでには何とかしたいものであるが・・・
そして残酷な現実をカイテルに指摘したジェーン・フォンダ。78歳の御姿を出すとホラーになってしまうので、上画像は若い頃のバーバレラ(1968)から。
自分は現実を見て華やかな映画女優からTVの汚れ脇役に転身しようとする役であり、久しぶりにスクリーンで観たが鬼気迫る女優魂ではあるもののあまり見たくなかったような気もする。
自分としてはまあ現実認識ができなくてもいいさ。囲碁みたいにはっきり白黒がつく勝負事ではないので、錯覚から生じるパワーもあるかもしれないし。
とここまで書いてきて気が付いたのであるが、マイケル・ケインは人生のグランド・フィナーレとして自分の“過去の”代表作で一世一代の晴れ舞台に指揮者として臨んだのであって、これから新作を撮ろうとしたハーヴェイ・カイテルの方は現実認識ができず悲惨な結果に終わっている。
(以上引用終了)
ウーム、こうしてみると、古稀を過ぎて研究開発の第一線に復帰しようというのはハーヴェイ・カイテルみたいになる可能性(ましてや私には上記ブログのような”前科“がある)もあり、マイケル・ケインみたいに“昔の名前で出ています”という路線の方が安全かも。
まあ安全第一というのもつまらないので、思い切って跳んでみるつもり。