前回の続きです。
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【感想】
◯アタッチメント(愛着)の重要さ
「アタッチメントは自立性や自律性(自制心)等の育成のために重要」
との指摘がありました。乳幼児期の愛着が子どもの人生にどれ程の影響を及ぼすかについては、本ブログ記事「人の一生を左右する乳幼児期の愛着形成の大切さ」を参照ください。
◯愛着形成に必要な甘え
みつるくん(9ヶ月)のお母さんの“後追い”は、不安感が高まった時に、母親という安全基地に避難しようとする大切な行為です。不安になってもお母さんが居てくれるという経験を繰り返すことで、子どもが世の中に対する絶対的な安心感を得られるのです。愛着形成は1歳半までが適期とされ、この時期に母親が子どもの求めに応じてやらないと、愛着不全に陥る危険があります。
また、ひろのりくん(2歳7ヶ月)については、「コロナのために保育園が休園中の頃は、それまで以上に『ママがいい』と言って聞かなかった 」「弟のはじめくん(6ヶ月)が生まれたばかり」とのことで、急な休園や弟の出現のために不安感が増していたのではないでしょうか?そのような時の子どもへの愛情は絶対に必要です。
また、愛着形成は、初めから複数の人間との間に行われるものではなく、ある「特定の人」(一般的には母親)から始まり、その養育者への信頼が得られた場合に、そこを心の安全基地として、一人で行動してみる、嫌なことも頑張ってみる、他の人と交わりをもつ等の探索行動を始めることができます。しかし、ひろのりくんのように、生活環境や家族環境に大きな変化が生まれ不安感が増すと、子どもは自分が最も信頼する安全基地に非難しようとします。その安全基地としての対象が母親ならば、その対象を子どもに与えるべきでしょう。つまり「パパいや」と拒絶された父親であっても、「ママがいいんだね」と共感してあげて母親に来てもらうと良いと思います。
また、子どもも内心は「『パパいや』と言ってパパに嫌われないかな」という心配があるかも知れませんが、父親が自分の気持ちに寄り添ってくれたことで、その心配も払拭されると思います。一方の父親も「勝手にしなさい!」と言って決裂するのではなく、子どもの愛着行動(安全基地を求める行動)を尊重した結果の判断となれば、自身のストレスが溜まることもないでしょう。
もちろん何時も「ママ、ママ」では忙しい時間は回らなくなるので、日常生活の中で実践可能な「安心7支援」で継続的に愛情注入をして、“安心感の貯金”をしておくことが必要になると思います。
◯社会のルールを教えない「甘やかし」
「食べさせて」と、自分でできる行為を自分でしようとしないちひろくん。
このちひろくんの場合は、映像での表情や親御さんの相談内容を見る限り、特に何らかの問題を抱えているとは思われず、下表「愛着理論の全体像」で言うと、「充電場面」ではなく「活動場面」にいると考えられます。
つまり、この子に今、“子どもを受容する母性”を与えることは不適切であり、必要なのは社会的自立を促すための“見守る父性”だと判断できます。この働きがないと、子どもが将来社会で生きていくためのルールや常識を身に付けることができません。即ち、萎縮・内向・抵抗等の問題を抱えた「充電場面」でのお世話は正しい“甘えさせ”である一方で、問題なく一人で「探索行動」できるはずの「活動場面」でのお世話は“甘やかし”になるのです。
我が子が今どちらの場面にいるか?については、その時の子どもの表情や生活背景(生活環境や家族環境の変化等)から判断できると思います。
また、私が特に思うのは、自分の力で取り組もうとしないのは、普段から、任せられ、見守られ、褒められ、成長する“喜び”を経験していないためではないかということです。その「喜び」は、父性の「見守り4支援」(①任せる②見守る③諭す④褒める)によってもたらされますが、それを知っている子どもは、目が輝き、高い意欲で物事に取り組むものです。
もちろんお母さんであっても、場面に応じて父性にギアチェンジして、子どもが自分の力で取り組む際のがんばりを見つけようと意識するとできると思います。逆にギアチェンジできないと「仕方ないわねえ。今だけ特別よ」となし崩しになってしまうかも知れません。
◯過干渉を防ぐ父母両性の支援の“順序”
①子どもからのSOSがあった時に
②親がそれに応答する
という「順序」が大切、という指摘がありました。
実は母性の働きである「安心7支援」や父性の働きである「見守り4支援」の中にも、この「順序」が記されています。
まず「安心7支援」から。
「子どもからスキンシップを求められた時には、その求めに応じる」
「子どもから声をかけられた時には、子どもを見る」
「子どもから話しかけられた時には、子どもの話をうなずきながら聞く」
次に「見守り4支援」。
「諭す(子どもからSOSを求めてきた時には、子どもに穏やかな口調で教え励ます)」
つまり、これらはどれも「子どもからSOSがあった時」という条件付きなのです。専業主婦で比較的時間がある方であっても、基本的に子どもの「SOS」があるまでは手出しは必要ないと思います。
精神科医の岡田尊司氏によれば、今の日本に愛着不全の子どもが現れ始めたのも、戦後高度経済成長期に父親が仕事に出かけ、専業主婦となった母親が子どもと密着し過ぎたたために、いつも叱ったり、過干渉を行ったりする等したことがきっかけだったと言われているのです。
◯忙しい時にもできる「養護」と「教育」
私が今回の放送の中で最も興味を惹かれたのは、このイラストです。なぜなら、全てのお母さん方が直面する悩ましい場面であると思うからです(手を離せないのは下の子が理由であるとは限りません)。
どうしても手をかけられない時には、①始めに「やってほしいんだね」等と子どもの気持ちに共感して子どもの気持ちを受け止め、②その後に「でも今手が離せないから後でね」と親の事情(社会のルール)を伝えることで、子どもは「自分の気持ちは聞いてもらえた。拒否されたのではない」と認識できるのですね。
これは、前回紹介した鯨岡先生の「問題を抱えている子には①養護(受容)→②教育(指導)」の原則そのものです。
(小さい文字は一度タップして黒地画面にすると拡大して見ることができます)
おそらく、お世話上手な親御さんは、無意識のうちに、優れた指導スキルを駆使しているのでしょう。脱帽です。