◯親の“過干渉”が子どもを愛着不全にする
「もう宿題はした?」「早く食べてしまいなさい!」「ゲームなんかしている場合じゃないだろ?!」
  
神経質な親御さんは、あれこれ子どもに指示したり、何かにつけて子どもの行動を修正したりします。子どもを自分の思い通りに動かそうとしているのです。すると、子どもは「親の愛を失いたくない」という思いから、親の要求するとおりに行動しますが、その一方で、いつも「親は自分の行動に満足しているだろうか?」と親の顔色を伺いながら生活するようになります。
   その結果、「いつ親から嫌われるかもしれない」という不安やストレスに悩まされ、場合によっては、親から嫌われないために「いい子」を演じ続ける「いい子症候群」に陥る場合もあります。 そういう子どもは、成人後も、いつも他人の顔色を伺い相手の気分を害さないように怯える「不安型」の愛着不全に陥るリスクを抱えることになるのです。
 
 これらのような事態に陥らないようにするためには、どのような養育をすればいいのでしょうか。以下に、子どもへの過干渉を防ぎ、子どもの自立を促す支援の方法を紹介します。

以下内容目次
子どもの自立を促す「見守り4支援」の支援方法
「見守り4支援」は“父性”の働きによる支援
. 
父性の3つの働き
4. 「見守り4支援」の実際例
5. 「見守り4支援」は問題を自分で解決するたくましい子どもを育てる支援
6. 「見守り4支援」はSOSを発信できる子どもを育てる支援
7. 「見守り4支援」は自己責任意識を育む支援
8. 「見守り4支援」は子どもを応援する支援

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

子どもの自立を促す「見守り4支援」の支援方法
  
さて、先のような親の過干渉を防ぎ、子どもの自立を促す支援方法、それが、「見守り4支援」です。4つの支援とは、以下のようになります。

① 「子供に任せられるかどうかを決める」
② 「一度子供に任せると決めた活動中は、子供を見守る」
③ 「子供からSOSを求めてきた時には、優しく教える」
④ 「子供が上手にできた時には、子どもを褒める」

 それぞれの内容は以下の通り。

①「子供に任せられるかどうかを決める」

 子どもの自立に必要な活動、例えば、手伝い、公共交通機関の利用、買い物の支払い等や、子供が熱中している活動、例えば、遊び、趣味等、は子供の実態に合わせて任せてみましょう。特に反抗期は、本人の主体性に任せるよう意識しましょう。もちろん、怪我に繋がりそうなことは除きます。

②「一度子供に任せると決めた活動中は、子供を見守る」
 子供に任せると決めた事は、声をかけるのを我慢して、子供が試行錯誤しながら活動に取り組む様子を見守りましょう。本人の主体性を侵害しないことは、本人の安心感を守るうえで大切とされていますが、そもそも「見張る」では、子供は安心して活動できません。微笑みながら観察する、それが「見守る」です。
 ただし、怪我に繋がりそうな時や、必要な躾に関わること等、やむを得ない理由で中断させる時は、穏やかに理由を伝えて止めさせます。

 ③「子供からSOSを求めてきた時には、優しく教える」
 子供からSOSを求めてきた時は、それをきちんと受け止めて優しく教えます。加えて、その時は、「…しなさい」のような、上からの“指示”や“命令”のような言い方ではなく、「…してみてはどうかな?」等のような、“提案”の言い方で伝えると、本人の主体性や意欲が保たれると思います。たとえ、それが指導の言葉であっても、穏やかな口調の方が望ましいです。なぜなら、子供を萎縮させてしまっては、その言葉も子どもの心には届かないからです。
 因みに、昨今、いじめ被害を親に相談することなく自ら命を断つ子供が増えていますが、いじめ被害を親に相談できない要因にとして、親からの「強くあれ」「自分の力で解決すべし」等というプレッシャーを挙げる専門家もいます。自力でやり通すことは大切なことですが、「それでもSOSを求めれば親はいつでも優しく受け止めてくれる」 と子供が認識するようになれば、最悪の事態も防ぐことができるのではないでしょうか。

 ④「子供が上手にできた時には、子どもを褒める」
 本来、「見守り4支援」は、子供に社会的自立を願う支援です。一つのことを自分の力でやりぬいた子供を褒めることは、その子にとって大きな自信になり、自立への大きなステップになります。
 また、取り組んでいる途中であっても、褒める機会があれば褒めましょう。子供の更なる実行エネルギーとなるでしょう。


(温かく見守る眼差しが大切)

「見守り4支援」は“父性”の働きによる支援
   親が子どもとの間に適切な距離をおき、子どもに任せ、子どもの求めに応じて様々なソーシャルスキルについての助言を与える「見守り4支援」の働きは、父親が子どもに世の中のルールや責任を教え、社会に適応できる力を養う“父性”の働きと、“子どもが社会へ自立するための指導を行う”という点において共通するものと考えます。そこで、ここでは、「“父性”の働きとは、『見守り4支援』の行為によって、親子間の適切な距離を保ち子どもを見守り、子どもに社会のルールや厳しさを体験させ、子どもの求めに応じて助言を与えること」と捉えることにします。

 なお、“母性”の働きについては「安心7支援」をご参照ください。
 因みに、母性が不足すると親子間の心理的距離が遠過ぎる「回避型」愛着不全に、父性が不足すると親子間の心理的距離が近過ぎる「不安型」愛着不全に、それぞれ陥るリスクが高まると考えられます。父母両性のバランスを適切に保つことは、子どもが健全に成長するうえで必要不可欠なのです。
 
. 父性の3つの働き
 父性の働きは「親子間の適切な距離を保ち子どもを見守り、子どもに社会のルールや厳しさを体験させ、子どもの求めに応じて助言を与えること」とお話ししました。
 実はこのことに関わって、本来の父親の役割が3つある(「愛着の話 No.52 〜「父性」の3つの役割①〜」「愛着の話 No.53 〜「父性」の3つの役割②〜」参照)と考えられています。
子どもを母親から離し外界へと導くこと(2、3歳頃の課題である「母子分離」の手伝い)
②子どもの遊び相手になること
③子どもに世の中の常識や厳しさを教えること

 この③については、上記の「子どもに社会のルールや厳しさを体験させ、子どもの求めに応じて(社会的スキルについての)助言を与える」働きと同じです。更に①と②は、子どもを受容することで距離が近くなりがちな母親と子どもとの「距離を保つ」ことや、その活動を「見守る」働きと同じです。

4. 「見守り4支援」の実際例
  
では、「我が子が自分から宿題に取り組まない」という想定で「見守り4支援」(以下①〜④)による具体的な支援を考えてみましょう。

    いつもなら、つい「早く宿題やりなさい!」と注意したくなるところですが、そこを何も言わずに我慢して子どもに“任せる”、そういう覚悟が必要です(①)。ただし、それまで口を出していたのであれば、「今日からは何も言わないから自分の力でがんばってみなさい」と断っておく必要があります。そうしないと、場合によっては子どもが「見放された」と誤解して、親の気持ちに反した行動をとる恐れがあるからです。
  
その後は、何も言われない子どもがどういう行動を見せるのかを楽しみに“見守り”ます(②)(この意識だけで親のストレスはかなり軽くなります)。なお、ここで要注意なのは、決して“見張る”のではないということです。“見守り”と“見張る”との違いは親の表情に表れます。親からマジ顔で見張られていると、子どもは、親が自分を否定的に見ている事を察知して、緊張し意欲は減退します。“見守る”という行為は、“微笑みながら見る”というイメージです。

   さて、
“やる気”というものは、人から強制されると萎んでしまうものですが、言われないでいると、自分に委ねられることになるので、“自己責任”の意識から自分から始める子が多いものです。そこが「過干渉養育」との違いです。その時に、「自分から始めてえらいね」という親からの褒める言葉(④)が次回への意欲につながります。
   
しかし、仮に宿題をしないまま寝てしまったとしましょう。それでも干渉はせずに子どもに任せます(①)。次の朝になって、慌てて宿題をやり始めるのか、そのまま学校に行くのかを見守りましょう(②)。朝に慌てて宿題をやった場合、子どもにとっては、「遅刻するかもしれない?!」という“時間との戦いの場”になります。しかしその地獄のような時間は、子どもにとってこの上なく貴重な経験になります。なぜなら、心理学上、人間というものは自分にとっての“不利益”を感じない限り本心から行動を改めようとは思わない生き物だからです。
   
ただし、その慌てる様子を見ても「ほら見なさい。自業自得だよ!」等とは言いません。これは相手を“責める”言葉であって、“諭す”言葉ではないからです。この子どもの緊急事態に“責める”言葉をかける事は、火に油を注ぐようなものです。“責める”言葉をかけて来た相手に対しては、「ちくしょう!後で見ていろ!」と反発心を抱かせるだけです。この時に、敢えて“諭す”言葉をかけるとするなら「(冷たい言い方ではなく、穏やかな言い方で)やっぱり前の日のうちにやっていた方が良かったかな?」(③)くらいでしょうか?もちろん、何も言葉をかけずに、子どもの様子を見守り続ける(②)のでもいいと思います。
  
さて、地獄のような朝を過ごし、学校では先生に叱られ、「決められた期日までに課題をしなければならない」という社会のルールを経験した子どもは、前の日とは違う行動をとる可能性が高いです。
もしも、反省して夜のうちに自分から取り組んでいたようなときには、今後の定着のためにも必ず“褒める”言葉が必要です(④)。逆に、今朝の苦しみさえ忘れているような場合には、「(穏やかな言い方で)また今朝のように慌てることが無いようになるといいね」等の“諭す”言葉(③)が必要です。ちなみに、「……になるといいね」という言葉は、子どもの気持ちに共感する言葉なので、子どもは親からの“プレッシャー”ではなく“励まし”と受け止めます。その“励まし”としての“諭し言葉”を受けた子どもは、きっと慌てて宿題に取り組むでしょう。
   そして親はその様子を“見守り”(②)、頑張っているようであれば、出来るだけ早く「がんばってるね」と褒め言葉をかけます(④)。この「がんばっている様子を見逃さずに早めに一度褒める」というのがより上手な褒め方のポイントです。その事で子どものやる気に再び“意欲”のエンジンがかかるのです。“見放し”てしまうとそれが出来ません。“見守っている”からこそできる褒め方です。もちろん宿題をやり終えた時にも必ずほめます(④)。

5. 「見守り4支援」は問題を自分で解決するたくましい子どもを育てる支援
   昨今は、ちょっとした困難でも心が折れ意欲を失ってしまう、“打たれ弱い”子どもがふえてきているようです。本来、子どもが自分自身の力で困難の解決方法を考えなければならないところを、過干渉な親が「転ばぬ先の杖」を用意し過ぎて、子どもの代わりに問題を解決してしまうこともその一因だと思われます。今回の「見守り4支援」は、そんな“自己解決力”の育成にも役立ちます。
   また、自分に任せられる体験は、まるで“擬似実社会体験”です。実社会と同じように、様々な困難が降りかかる状況下で、親の助けを借りずに「こんな時はどうしたらいいだろう」と考え工夫する態度は、将来子どもが自立して職に就いた時にこそ生きて働くでしょう。

6. 「見守り4支援」は自分からSOSを発信できる子どもを育てる支援
   子ども達の生活の中には、「どんなにがんばっても、自分一人では解決できない」と感じることがいくつもあります。しかし、そんな時に、親の方から「大丈夫?」と声をかけてもらわないと「SOS」を言い出せないようでは自立した人間とは言えません。それは「困っていれば誰かが助けてくれるだろう」と思っている甘えた人間です。「どうしてもできない」と自身で判断し、自分から「SOS」を発信できる人間こそが自立していると言えるのです。
   また、ある専門家は、「世の中の親は、子どもに『強くあれ』と願いすぎる。そのために、自分がいじめられた時に“自分の弱さ”を親に知られたくないと思い、親に相談できずに命を断つケースが多い」と指摘しています。そうならないためには、勇気を出して自分から「SOS」を出すことの重要性を子どもに教えるとともに、実際に子どもが発信したSOSを親が受け止める態度を普段から示しておくことが必要です。そのための「③諭す(子どもからSOSを求めてきた時には子どもに穏やかな口調で教える)」なのです。

7. 「見守り4支援」は自己責任意識を育む支援
   活動を自分に任せられた子どもは、自分が頑張れば利益を得ることができますし、逆に怠ければ不利益を被る事になります。そこに、親との軋轢(あつれき)は生まれません。完全な“自己責任”の世界になります。つまり、どんな結果が生じるかは自分の行動次第になるため、自分の非を人のせいにはしないのです。逆に、親から口うるさく言われ渋々やった子は、自己責任を学ばないばかりか、親に対する反発心を増幅させ、思春期に猛反撃をすることもあります。
 
8. 「見守り4支援」は子ども目線で応援する支援
   
これまでお話ししてきたように、このサポート方法は、「見放す」ではなく「任せる」、「見張る」ではなく「見守る」、「怒る」ではなく「諭す」、そして「褒める」と言う、いわば子ども目線で温かく“応援”するためのサポートです。その目的を親が常に意識しておくという事はとても大切なことです。
   
なぜなら、心の何処かに「子どもをちゃんとさせよう」という“支配的な意識”があると、表面的には「見守り4支援」を行っていても、知らず知らずのうちに、親の表情や言動が厳しいものになってしまい、子どもが親の顔色をうかがいながら生活することになってしまう恐れがあるからです。