精神科医の岡田尊司先生のベストセラー著書「愛着障害~子ども時代を引きずる人々~」(光文社新書)は、今の荒廃した日本社会を改善するうえで、実に示唆に富んだ多くの情報を提供してくれます。

  なぜ岡田氏が「愛着」の考え方を重要視するのか、氏の著書からその理由についてお話しします。

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母子間の「愛の絆」作りは1歳半までがベスト
「愛着」とは、母親と子どもの心の中に形成される「愛の絆」のことである。
   乳幼児期、特に愛着形成が最もスムーズに行われる生後6か月(子どもが母親を見分け始め、更に母親という“安全基地”を頼り始めて人見知りも始まる頃)から1歳半の間に母親がいつも近くにいて適切な養育を受けた子供は母親との間に愛着を形成し、母親に対して絶対的な安心感を抱くことができる。
   但し、愛着は子供が生まれた後の、支援者による養育環境によって決定づけられる“後天性の性質”を持っているため、仮に上記の間に安定した愛着を形成できなかったとしても、その後親の養育態度を望ましいものに改めることによって、愛着を改善することは可能である(但しあくまで“ベスト”なのは、生後6か月から1歳半の間)。その「望ましい養育態度」については、本記事の最後を参照のこと。

愛着がもたらす母親という「安全基地」
   愛着を形成するということは、子どもが母親のことを「この人が自分が困った時に必ず助けてくれる、自分にとって特別な人」と信頼することであるが、それは母親という「安全基地」を得ることを意味する。何かストレスを抱えた時には、その「安全基地」に避難して安心感を回復し心の傷を癒すことができる。

母親という「特別な一人」の存在の大切さ
   また、愛着を形成をするうえでは、子供が社会に適合する上での第一歩となる「特別な一人(オンリーワン)」の存在が重要になる。
一般的には母親がその役割を果たし、それ以外の人間が養育しても愛着の形成は行われにくいとされる。
   その一方で、上記の1歳半の間に、保育所等の施設に預けられるなどして、「特別な一人(オンリーワン)」の存在を得られなかった子供は、自分にとっての「安全基地」を持てなくなる場合がある。「安全基地」を持てないということは、溜まったストレスを解消できなくなるために、非常に不安定な精神状態に陥り、後に紹介するような様々な問題行動を引き起こすことになる。この状態に陥った人を一般的には「愛着障害」と呼ぶ。

 ◯人の一生に影響を与える愛着
   しかも、愛着は「第二の遺伝子」と呼ばれ、その人の生活の様々な面について、一生にわたって影響を及ぼす。
“生活の様々な面”とは、例えば、人間関係能力、知能、自立性、異性関係、結婚生活、各種依存症、身体的健康、更には寿命に至るまで多岐にわたる。
   つまり、安定した愛着が形成され絶対的な安心感を得た子供は、成長するにつれて、これらの“生活の様々な面”において、安定した結果や成果を収める。逆に、愛着が十分に形成されなかった子供は、“様々な問題”を引き起こす確率が高くなる。それが、愛着不全が引き起こす問題現象として最も危惧される点である。
   その“様々な問題”とは、例えば、鬱や不安障害、アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症、境界線パーソナリティ障害や過食症等の精神的トラブルや、離婚や家庭崩壊、虐待やネグレクト、結婚や出産の回避、ひきこもり、非行や犯罪等の社会問題といった、昨今毎日ニュースで報道される深刻な問題ばかりである。

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  なお、愛着が不安定な状態を、一般的には「愛着障害」と呼んでいますが、あくまで環境による後天的な要因によるものですので、本サイトでは「愛着不全」と呼ぶことにします。

   なお、気になる“愛着形成の方法”や、1歳半までの愛着形成が十分にできなかった場合の“やり直しの方法”については、「【愛情の基本】 〜子どもとの愛着を形成する“母性”の働き『安心7支援』」(→ https://ameblo.jp/stc408tokubetusien/entry-12365150177.html)を参照ください。