先日ご紹介した「HSC子育てあるある〜うちの子はひといちばい敏感な子!〜」(1万年堂出版)のP91に、本著監修者の明橋大二心療内科医からの、次のようなメッセージが掲載されています。

「子ども達は人間関係が更に広がり、ささいなことで、ひどく傷ついて家に帰ってきます。(中略)どんなに辛くても親が子どもに降りかかる全ての苦難をとってしまうことはできません。どんなに心配でも『子どもは自分の運命は自分で切り開いていける』と信じましょう
『どうしてこんなことで傷つくのか?』それさえ分からないこともあります。もしそうだとしても、『気にしすぎ』とか『訳わからない』等と否定するのではなく『あなたはそう感じたんだね』『辛かったんだね』と気持ちを受け止めましょう
 学校生活では競争させられる場面がどうしても増えてきます。人と比べられることが苦手なHSC。勝ち負けや優劣にこだわるよりも、楽しむことが大切だとぜひ伝えていきましょう」

 さて、このメッセージについて、私の考えとリンクする点がいくつかあるので、以下にお話ししたいと思います。

「あなたはそう感じたんだね」について
 以前私が長期の国の特別支援教育研修に参加した時の講義で、当時中京大学の鯨岡峻先生の「『養護』と『教育』の働き」というお話を聞きました。その内容が以下のスライドです。
(岩手県立大学看護学部講義スライドより)

 先の「あなたはそう感じたんだね」「辛かったんだね」と子どもの気持ちを受け止める働きは正にこの「養護」です。一方、「気にしすぎ」と告げるのは「教育」です。どちらの働きに重点を置くかは感覚過敏の子どもに接するうえでとても重要です。

 ここでのポイントは、両者の“バランス”と“順序”です。
・バランス→「教育」≦「養護」
・順序→①「養護」②「教育」
 なお、私の経験上から、特にこの「順序」が大きな意味を持つと感じています。問題を抱えた子どもは、他者から否定されることが多いため、初めに自分の気持ちを受け止めてもらう言葉をかけられると心を開くことが多いです。逆に、先に“お説教”(教育)から入ってしまうと、その後にどれだけ子どもをフォロー(養護)しても、子どもは口を貝のように閉ざしてしまうことが往々にしてあります。
 ここでは、この望ましい「順序」の例として、「遊びに夢中になって次の行動に移れないでいる子どもへの働きかけはどうあれば良いか?」ということを考えてみたいと思います。(場面設定は「HSC子育てあるあるうちの子はひといちばい敏感な子!」より)





 このようなケースでは、以下の支援が望ましいと思います。
①先ずは「砂遊び(ブランコ)楽しそうだね」という共感(養護)から。
②次に「あと3分にする?それとも5分にする?」という指導(教育)〜ポイントは2者択一にして子どもに決めさせること。子どもがどちらを選んだとしても、親にとっては構わないような2択にするのがポイントですが、子どもにとっては「自分の意思で決めた」という満足感が生まれ、気持ちが落ち着くのです。(「自己決定法」→イヤイヤ期指導参照)

◯「人と比べられることが苦手なHSC」について
 メッセージにもあるように、学校では友達と比べられることが多くなる分、せめて家庭では、ストレス無く過ごせる環境を作ってあげたいものです。
 その意味から、親による「安心7支援」の中の「子どもの中にある良さを探して褒める」がとても大切になります。なお、褒める観点は、本ブログのダイジェスト記事「【褒め方】〜生活意欲を高めるために、“子どもの中の良さ”と“努力”と“人への貢献”を褒める〜」の中の「2. 子どもの“中”の良さをほめる」を参照ください。

「子どもを信じる」について
 そして、HSCの親御さんにとって最も重要な意味を持つ「子どもを信じる」について。
 HSCの親御さんは、他の子と比べて、様々なことで神経を使うことが多いと思います。しかし、HSCの子どもにとって最も大切な“親の笑顔”を無くさないためにも、「この子はきっと自分の人生を切り開いていける」と信じて、大らかな気持ちでいたいものです。
(「HSC子育てあるあるうちの子はひといちばい敏感な子!」より)

 ここで言う「子どもを信じる」とは、子どもと距離を置いて活動の様子を“見守る”ことに他なりません。なお「見守る」のは、子どもの社会的な自立を願う父性の働き(「見守り4支援」)です。一般的に、我が子が自分の人生を切り開いていけるかどうか心配になり手助けをしがちなのは、子どもを受容する母性の働き(「安心7支援」)を持っている母親ですが、そんな母親に対して「きっとあの子は自分の運命を切り開いていけるはず。ここはあの子を信じて見守ろうじゃないか」と促すのが父親なのです。
 子どもの健全な成長には、父母両性の働きが必須です。母子家庭や父子家庭のお宅では、親御さんが場面に応じてどちらの働きに重点を置くかを決めましょう。この「場面」については、以下の表「愛着理論の全体像」を参照ください。

HSC指導は子育ての基本
「この子はきっと大丈夫」と親が信じることができるようにするためには、普段から、子どもの気持ちを受け止めたり、子どもの中にある良さを褒めたりして、子どもが自分で人生を切り開いていくだけのエネルギーを注いであげるようにすることが必要です。
 一方で、愛着の考え方に照らせば、非HSCの子どもが、自分の人生を歩んでいく、つまり「探索行動」を行うためのエネルギーを必要とするのは、基本的にその子が「萎縮、内向、抵抗」等の問題症状を見せた時です。
(各場面名について、これまでの「場面①」と「場面②」について、各々「充電場合」と「活動場面」に変更)

 しかし、「うちの子はHSCではないから」と油断していると、いつの間にか愛情が不足してしまい、いざ大きなトラブルが起きた時に立ち直ることができない、ということが起きないとも限りません。
 感覚の敏感さは大なり小なり誰もが持っている特質ですから、普段からHSCの子どもでも探索行動が出来るだけの愛情エネルギーを与えるくらいの気構えで子どもに接していることが大切だと思います。感覚過敏指導は子育ての基本なのですから。