今回もEテレ「すくすく子育て」より、イヤイヤ期第二弾!
【今回のテーマ】
イヤイヤ期での親の具体的な関わり方はどうあればいいか?
 
【助言専門家】
青山学院大学准教授 坂上裕子(発達心理学)
お茶の水女子大学教授 宮里睦美(保育学)
 
【相談①】
≪相談内容≫
「イヤイヤ期の我が子を見守りたいけれど、うまくいかない!」
(ネットなどで「イヤイヤ期はできるだけ見守るのが良い」と知ったので、イヤイヤをした時には気持ちが切り替わるまで待つようにしているが、仕事の日の朝などは時間が無いし、仕事から帰ってくると疲れてしまう。)
 
≪助言≫
・「見守る」=「何もしないで見ているだけ」ではない。イヤイヤ期における「見守る」とは、「子どもの気持ちを読み取り、子どもの気持ちを立て直す手助けをすること」。
・イヤイヤをしている子どもは、気持ちの中がグチャグチャになっていて、自分で感情を立て直すことが難しい。子どもは、自分の気持ちを立て直す手助けを欲している。「この子は今どういう気持ちなんだろう?」「何をやりたいんだろう?「どうしたいんだろう?」ということを子どもの様子を見ながら読み取ることが本当の意味での「見守る」。
具体的には…
・朝食の時、パンを目の前にした子どもが「パンがいい」と言い始めた。お母さんは「今日はパンだよ」と子どもに説明。すると子どもは「一方的に要求を押し付けられた」と感じる。そこで、「そうだったの、ご飯が食べたかったのね」と、一度子どもの気持ちに共感してあげると、子どもは「自分の気持ちを分かってもらえた」と安心する。その後で、「お母さんも会社に行けなくて困っているの」と親の状況を伝えると、子どもも耳を傾けてくれるようになる。「…したい」という子どもの言葉を「…したいのね」と繰り返すだけでも効果がある。
・着替えの時、「親が今日はこれを着よう」と子どもに提示すると、子どもが「それはイヤ」と言う。「イエスかノーか」と聞くと、子どもは「ノー」と言うので、子どもが答えを選べるようにすると良い。例えば「どれを着る?」や、「ご飯と着替えとどっちからやる?」と対象や順番を自分で決めさせる。子どもが主体的に決めていい状況を作ると、「自分で選んだものだからやる」という意識が生まれる。
・子どもの要求に対して、「そうかぁ」「なるほど」等と“相づち”を入れると、子どもは自分の気持ちを受け止めてもらえたと思いやすい。
 
≪母親の反応≫
 着替えの時、「この中のどれをはく?」と聞くと、子どもはその中になかった洗濯中のズボンをはきたいと言い出した。それに対して私が「あれをはきたいのね。でも今、洗濯しているから無いんだ」と説明。すると、子どもは「これでいい」と我慢することができた。すかさず「選べたね。えらい!」と褒めたところ、その後子どもは、「自分ではく」と言ってテキパキと行動した。自分で決めるチャンスを与えられたことで気持ちが落ち着いたようだった。
 
【相談②】
≪相談内容≫
子どもの気持ちを受け止めてばかりだと子どもがわがままにならない?

≪助言≫
・「受け入れる」と「受け止める」は違う。「受け入れる」は子どもの言いなりになること。「受け止める」は、子どもの言いなりにすることではなく、子どもの気持ちに共感してあげるだけのこと。それだけで子どもは親の言うことを聞くことができる。さっきのお子さんは、「あれをはきたいのね」と共感してあげたら「これでいい」と、今あるもので我慢していた。あれは子どものわがままでは無い。
・自分の気持ちを受け止めてもらった経験をした子どもは、自分以外の人の気持ちを受け止めることができるように成長できる。
 
【相談③】
≪相談内容≫
「毎日のイヤイヤにイライラしてしまう。どうしたらいい?」
(イライラして怒ってしまったり、「早くして」を多用してしまう。)

≪助言≫
・親としてきちんと向き合おうとするからこそイライラする。
・困った状況を笑いに変えることも一つの手。
《実践例》
  1. 「ママもう笑うで~!」作戦⇒親子の対立が煮詰まったら、「そんなイヤイヤ言うんやったら、もうママ笑うで~!」と大笑いして重い雰囲気を変える。
  2. 「ご近所さんごっこ」作戦⇒親子の対立(部屋の片づけができなくて外出ができない)が煮詰まったら、「ごっこ遊び」で雰囲気を変える。親「ピンポ~ン!こんにちは、隣の佐藤ですけど、一緒にお出かけしようと思うんですけどいかがですか?」子「いいですよ」親「でも、なに~この散らかりようは?!これじゃあお出かけできませんね」子「今お片付けしますから、待っててください」)
・イヤイヤ期だと、親の言うことを「聞くVS聞かない」のバトルのようになってしまう。戦わずに、困った状況を二人で解決する“第三の道”を探す(子「おまんじゅう今食べたい!」親「でも手を洗ってからでないと食べられないんだよね」親「どうすればいいかなぁ?」親「急いで家に帰れば少しでも早く手を洗って食べれるよ。じゃあ家まで競争だ!よ~いドン!」)。
 
最後に、これだけは言っておきたい専門家からのメッセージ
・イヤイヤ期は必ず終わりが来ます。確実にトンネルの出口に向かって歩いているので、今を乗り切ってください。。
・イヤイヤ期はふと気づいた時に終わっているものなので、その時を楽しみにお待ちください。
 
【感想】
「『見守る』とは『子どもの行動に口を出さず見ていること』」と言うイメージがあったというお母さん。更に、その題材が番組として採用されるということは、少ならからず同様の認識を持つ方がいらっしゃるということから、いかに“具体性”が大切か、ということが分かります。
 そういう意味で、イヤイヤ期に子どもに対する具体的な関わり方を取り上げた今回の放送内容は貴重なものであると思います。

「これはできそう!」な方法
 前回(「難しい「イヤイヤ期」〜子どもの中に何が起きているのか?どう関わればいいのか?〜」)は主に、イヤイヤ期そのものの存在意義について学びましたが、今回は、具体的、効果的、且つ現実的な実践方法が紹介されました。まず挙げられるのは、以下の二つの方法です。
①「『…したい』という子どもの言葉を『…したいのね』と繰り返すだけでも効果がある」という、いわば「繰り返し共感法
②「どれを着る?」と複数の行為から子どもに選ばせたり、『ご飯と着替えとどっちからやる?』と順番を子どもに決めさせたりと、子どもが主体的に決めていい状況を作ると、『自分で選んだものだからやる』という意識が生まれる」という、いわば「自己決定法
 
 これはできそうですね!
 
「第三の道」に導く“できそうな”方法
「『ママ笑うで~』や『ご近所さんごっこ』はちょっと自分には…」、また「『第三の道』はちょっと強引じゃない?上手くいくの?」と感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで、どなたにもできそうな、上記の専門家のいくつかの助言をまとめた方法を私が考えました!その名も、「『ママのピンチを助けて!』作戦
 これは、決定権を子どもに渡して、ピンチのお母さんを助けるというユニークな場面を設定して“第三の道”を決めさせる。
《実践例3つ》
①子「今すぐおまんじゅうを食べたい!」親「今食べたいのね(共感)」親「でも手を洗ってからでないと食べられないんだよね。お母さん困ったなあ。お母さんを助けて!どうしたらいいと思う?(主導権を渡す)」」
②(朝食時)子「パンがいい」親「そうだったの、ご飯が食べたかったのね(共感)」親「でも今日はパンを用意していないんだ。お母さん困ったなあ。お母さんを助けて!どうしたらいいと思う?(主導権を渡す)」
③(着替え時)子「あのズボンをはきたい!」親「あれをはきたいのね(共感)。親「でも今、洗濯しているから無いんだ。お母さん困ったなあ。お母さんを助けて!どうしたらいいと思う?(主導権を渡す)」
 
 初めて、人と違う自分の存在、いわゆる“自尊心”を意識し始めた子どもにとって、方法を自己決定することはもちろんのこと、親を助けることができるということは、もはやそれをしないという選択肢は無いでしょう。
 
「受容⇒指導」はイヤイヤ期だけにあらず
「『①そうだったの、ご飯が食べたかったのね』と、一度子どもの気持ちに共感してあげると、子どもは『自分の気持ちを分かってもらえた』と安心する。その後で、『②お母さんも会社に行けなくて困っているの』と親の状況を伝えると、子どもも耳を傾けてくれるようになる」との指摘がありました。つまり、①始めに子どもの気持ちに共感(受容)し、②その後で社会の事情や常識を教える、と言う流れです。

 しかし、実はこの対応は、イヤイヤ期に限ったことではありません。
 中京大学でご退官された鯨岡峻先生は、子どもの失敗行動全般に接した時の大人の接し方として、いわゆる①“受容”と②“注意”との関係について次のように述べています(詳細は、本ブログ記事「子どもの問題行動を指導する時の留意点 〜「注意」と「受容」の量と順番〜」参照)。
「注意よりも受容の方が多くなくてはならない」(量の問題)
「注意よりも受容の方が先である方が望ましい」(順序の問題)
 
 つまり、先ず注意よりも受容を先に行い、子どもに「自分の気持ちを受け止めてもらった」と認識させること、更に、子どもの気持ちは丁寧に聞き、その後の注意は簡潔にすること、がいずれも大切だということです。どんなに受容を先にしたからと言って、その後に注意を長々としてしまうのでは、結局大人の考えを押し付けられたと認識してしまうでしょう。