1970年10月16日、世界バンタム級王者”KO”キング、ルーベン・オリバレス(メキシコ)は、61戦目にしてついに王座陥落。新王者チューチョ・カスティーヨ(メキシコ)誕生に、日本ボクシング界も驚きを隠せなかった。と同時に、「カスティーヨなら」という思惑も・・・。
KOキング・オリバレス 61戦目の初黒星!
世界バンタム級王座の歴史
しかし、この時代はオプション契約を持つ前王者側が、ダイレクト・リマッチに挑むのが普通。オリバレスとの再戦が優先される。世界バンタム級タイトルは、3戦連続してこの両選手で争われることになった。
それぞれノンタイトル戦を一つずつ挟んでいるが、激闘を演じた二人は当時としては長い4ヶ月以上の休養期間を設けている。リマッチは71年4月2日、イングルウッド・フォーラムと決まる。
前回は負傷KO負けだが、それまでの採点はほぼ互角。メキシコのファンは無冠となったオリバレスを、「お前は本当に負けたんじゃない。カスティーヨはバッティングで勝てたんだ」と言って迎えた。
「世界中に俺を打ち破るヤツはいないと思ったが、たった一つだけあったよ。いくら強くっても血を出してドクターに止められちゃ、しょうがねぇや」
「俺が同じ相手に二度負けるなんて考えられないことだ。今度はヤツを10回までに眠らせる。これは金の為ではない。俺の名誉回復の為さ」
オリバレスは相変わらずの自信家ぶりを発揮していた。その一方では、「練習もしないし、酒びたり。女遊びも派手。私生活がメチャクチャだもの・・・」。
だが、王座を失ったオリバレスは、チャンピオンの価値を初めて知った。練習に身を入れたオリバレスは絶好調。戦前の予想は、最初カスティーヨ有利だったものが、前王者の軽快な仕上がり具合からオリバレス有利へと逆転していた。
観衆は1万8千人。3度目の対決だが、少しも色あせない人気カードである。互いに手の内を知り尽くしている両者は、意外に静かな立ち上がり、3回まではにらみ合いが続く。しかし、徐々に過去2戦同様の激しい打撃戦に突入していく。
そして6回、オリバレスはまたしてもカスティーヨの左を受けてダウン。しかし、カウント3ですぐに立ちあがる。これで逆に闘志に火がついた前王者は、ポイント挽回に出る。7回、王者はオリバレスの左フックで右目尻を切り裂かれる。
無傷の挑戦者は快調に飛ばす。ダウンこそ奪えないものの、そのリードは広がる一方という一方的展開で最終回終了ゴング。判定は、9-4、12-4、10-3のい大差でオリバレス。王座返り咲き王者は、61勝(57KO)1敗1分となった。
新王者オリバレスはご機嫌。しかし、オリバレスへの評価は厳しい。カスティーヨとの2連戦44ラウンドを通じ、オリバレスはダウンを奪うことは出来なかった。それどころか、逆に2度のダウンを喫している。これを含め、こ7戦でKO勝は3試合。うち二つはダウンも奪えないストップ勝ち。
日本選手で初めて判定まで持ち込んだ千代田収司(丸山)選手は、「思ったほどパンチがなかった」。こうなると日本ボクシング界も元気になる。
『弱くなったオリバレスを倒そう』
早速特集が組まれている。まだ23歳の王者だが、「オリバレスが強かったのは、カスティーヨ戦以前の若かった頃までさ。もうKOパンチは忘れてしまっている」と、厳しい評価。44ラウンド戦い一度も倒せなかったカスティーヨは、初戦前のラウル・クルス(メキシコ・柴田国明に初回KO負け)戦でダウンを喫しており、不倒の男ではないとし、怖さはなくなったとしている。
世界ランク1位桜井孝雄(三迫)選手は引退の意思を固めていた。オリバレスにはボディで倒されている。金沢和良(アベ)選手に負傷勝ちして9位に入った牛若丸原田(笹崎)選手は、67年10月2回で倒された。「ヤツは強い、きちがいに似ているよ。とにかくおっそろしい」。
そんな最中、返り咲き王者から笹崎会長へ「当地でオリバレスとやってくれないか」との打診が入った。オファーは世界9位に入った牛若丸選手である。しかし、笹崎会長は代わりに日本Sバンタム級王者サルトビ小山選手を送り込むことに決めた。
だが、6月22日ティファナのスケジュールは、5月19日に前倒し。代わりに金子ジムの峰山次生(日本SB級7位)選手がメキシコへ飛んだが、3回TKOであしらわれた。よみがえったKOパンチ。自信を深めたオリバレスは、WBC世界フェザー級王者柴田国明(ヨネクラ)選手への挑戦を申し入れてきた。
岡田晃一選手。
しかし、これがまとまらないと、今度はジョージ・パーナサス・プロモーターに頼み込み日本行きを強く希望。思わぬチャンスが日本人選手に飛び込んできた。これに名乗りをあげたのは世界3位岡田晃一(新日本木村・東洋SB級王者)選手。立教大学卒の学士ボクサーである。挑戦は7月末から9月の間でと発表された。
「オリバレスだってスーパーマンじゃないですからね」
岡田選手は、「打倒オリバレスにボクシング人生を賭ける」と張り切った。しかし、ご承知のようにこの挑戦は実現しない。オリバレス挑戦のチャンスをモノにするのは金沢選手。ミスターKOオリバレスvs金沢。伝説の名勝負への道はカウント・ダウンされていく。 = 続 く =
応援、深く感謝です! → 【TOP】