F・原田V5vs代打ライオネル・ローズ | BOXING MASTER first 2006-2023

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輪島功一選手の試合に感動、16歳でプロボクサーを志し、ボクシング一筋45年。ボクシングマスター金元孝男が、最新情報から想い出の名勝負、名選手の軌跡、業界の歴史を伝える。

世界バンタム級王者ファイティング原田(笹崎)選手の5度目の防衛戦は、すったもんだの挙句、ようやく同級1位へスス・ピメンテル(メキシコ)が相手と決まった。挑戦者は56勝(51KO)2敗というレコードを持つハードパンチャー。


WBA組織問題vsファイティング原田


試合は1968年1月30日東京開催。交渉はフジTVとリッチ井上氏に全て任されていた。井上氏は世界のリングに信用がある。ピメンテルのマネジャーは、ハリー・カバコフ(他に共同マネ有)。チャンピオン側から出された条件に対し、口頭ではOKを言いながら、なかなか正式契約書を送って来ない。


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原田選手は12月19日から1週間の予定で鹿児島指宿で第1次キャンプに入った。随伴するの実弟牛若丸原田選手、東洋ウェルター級王者ムサシ中野選手、新鋭首藤 等 選手の3人。宿舎の指宿観光ホテルには公式リングも組まれ、朝はロードワーク、午後はスパーリングというトレーニングが行われた。


日本人選手初のV5(当時)を目指し、原田選手は大いに張り切っていた。


そこへ、カバコフから連絡が入る。


「提示の条件を全部そのまま呑むことはできない」


キャンプイン翌日、20日のことである。その理由は、「タイトル獲得後の2試合を日本でやるということは絶対に承諾できない」。この時代、いかに指名挑戦者であれ、二つのオプション契約を付けられることはリングビジネスの常識であった。


カバコフは、元ヘビー級王者フロイド・パターソン(米)らのサブ・トレーナーを務めながら、ボクシングビジネスの世界で経験を積んだ39歳。ピメンテルとの出会いは、スペイン語の話せなかったカバコフが通訳として雇ったのがその縁。


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マネジャーとして独立し、将来の王者候補を抱えるようになったカバコフは、有頂天になっているという評判だ。ピメンテルは62年カリフォルニア州の新人王に選らばれた直後から、一流評論家がこぞって「世界王者間違いなし」との太鼓判を与えた逸材であった。


この時、カバコフの頭にどんな計算があったのだろうか。単なる条件の吊り上げ。いや、ジョフレに勝った原田には勝てないから、1位の座を確保し、いま少し稼ごうと思ったのではなかったか。世界1位は12月12日テキサス、1月10日にはラスベガスのリングに上がっている。


怒りの笹崎会長であったが、「25日の最終回答期限まで待って決めます。WBAが1位とやれというので、OKしたんですからね」。ピメンテル側の契約書が届かなかった場合には、新しい挑戦者を探さねばならない。だが、「今からでは1月30日は無理だ」。


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原田選手は黙々とトレーニングに励む。しかし、クリスマスになってもメキシコから契約書は届かなかった。12月10日発表の世界バンタム級ランキング。2位は桜井孝雄(三迫)選手。「ちょっと面白い試合になりそうもないからね」。3位ミムン・ベン・アリ(スペイン)は8日にWBC王者チャチャイ・チオノイ(タイ)にノンタイトル戦でKO負けしたばかり。


4位に東洋バンタム級王者 李 元鍚(韓国)。「日本には韓国の人も多いからいいですね」。5位アラン・ラドキン(英)には既に勝っている。6位ホセ・ルイス・バルドビノス(米)は、カバコフがマネジャーで除外。7位日本王者高木永伍(アベ)選手は、「まだ早いでしょ」。8位にマニー・バリオス(メキシコ)。「どんな選手かわからんが、この辺までだろうなァ」。


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笹崎会長の代打選びが始まった。この時ライオネル・ローズ(豪)のランキングは9位。世界王座の挑戦者としては、除外されていた位置である。だが運命はわからない。正月を挟み、他の選手が調整期間の短さ等の理由で二の足を踏む。


困り果てたチャンピオン陣営は、本来相手にされないランキング9位のオーストラリア先住民(アボリジニ)ローズに声をかける。若干19歳のローズは国際電話を前に、「条件は全てそちらに任せる」と即答。急転直下。無欲のローズが、一気に世界挑戦のチャンスを手に入れることになった。戦績27勝(8KO)2敗。


結局フジTVの都合で試合は2月27日に延期された。会場は日本武道館。無名のローズを相手に原田選手の楽勝がささやかれたが、原田選手は燃えなかった。強敵相手に準備していたのが、いきなり無名のピンチヒッターに相手が変わり、やる気をそがれてしまったのと、厳しくなっていた減量苦が原因。


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そして、ローズが持っていたというしか考えられない不思議な運で、足元をすくわれるように原田選手は、世界バンタム級王座から去っていった。ジョフレから王座を奪った原田に勝った男が、故国でどれだけの歓迎を受けたかは想像に余りある。そんなローズが亡くなった。


ボクシング=アボリジニ初の世界王者、ローズ氏が死去(ロイター・9日)   謹んでご冥福をお祈りいたします。


原田選手から世界王座を奪ったローズは、当時52戦無敗50KO(1分)の”怪物”ルーベン・オリバレス(メキシコ)に世界王座を明け渡すことになるのだが、勝者オリバレスは言った。「僕の挑戦を受けてくれて、ありがとう」。

世界バンタム級王座の歴史は、ローズの時代へと移ります。「日本は第2の故郷!」  = 続 く =

 

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