１９７５年１月２０日。東洋ウェルター級タイトルマッチ。チャンピオン 龍 反町（野口）ｖｓ挑戦者辻本章次（ヨネクラ）。後楽園ホールは２２００人の観衆で埋まった。
フライ級暫定王座へ・世界挑戦権、その心（反町vs辻本Ⅰ）
生き残り・ウェルター級最強対決！反町vs辻本
古豪エディ・パーキンス（米）を破り、「こうなったら世界を狙う」と、押せ押せムードの挑戦者に対し、赤コーナーのチャンピオンは、まさに背水の陣。気合十分のリング登場。
デビュー１０年、２度に渡る世界挑戦も失敗しながら周囲の反対を押し切っての再起。もう世界のチャンスは巡って来ないだろうが、それでもいい。
「僕は、ボクシングが好きなんです」
試合は後がないチャンピオンの先制攻撃から始まった。挑戦者に得意の右ストレートを叩き込む。右一本やりになり、無惨な結末となったアルバラード戦であったが、サウスポーの辻本選手相手には、このパンチが有効だった。
１ラウンドから鼻血をしたたらせた挑戦者。予想に反した波乱の幕開け。３ラウンドは、ピンチとチャンスがキャッチボール。互いの意地が激しくぶつかり合う。試合は死闘の様相を呈する。
チャンピオンの右は依然効果を上げ続けている。しかし、教科書通りのサウスポー辻本選手のコンビネーションも速く、ロープに詰まる場面が多いチャンピオン。ロープにもたれて打たせるのは反町選手の悪い癖だ。
しかし、２年前にはこの戦法から日本ミドル級王者フラッシャー石橋（石橋）選手を、右ストレート一発でマットに沈めている。
勝てば後援者から外国車をプレゼントされる約束になっていた挑戦者リードで最終回を迎える。
「ポイントで勝っているのはわかっていたが、逃げるつもりはなかった」
一方のチャンピオンは、ラスト勝負。
「最後を取れば勝てると思った」
最終１２回。タイトルを目前にした挑戦者は、一歩も引かずに打ち合う。外国車が頭に浮かぶ。コーナーの指示は、「無理に打ち合うな」。
互いのパンチが当たる。辻本選手がこれほど顔を打たれるのは初めてだ。チャンピオンの右ストレートは相変わらず鋭い。しかし、この試合を決めたのは王者の左パンチ。コーナーでの打ち合いの最中、反町選手の左フックが見事なカウンターで炸裂。挑戦者は崩れ落ちる。
だが、羽後レフェリーの判定はスリップ。赤コーナーの野口会長は猛抗議。場内大歓声の中、試合再開。ダメージが明らかな挑戦者は、右アッパーで前のめりにダウン。
立ち上がった挑戦者に、王者が連打を浴びせる。終了ゴングと共に、またもや倒れた挑戦者。最終回のジャッジの採点は、一人が５－３で、二者は５－２とつけている。
採点は、レフェリー羽後５６－５６、ジャッジ中森５６－５６、ジャッジ吉田５６－５５（反町）で、ドロー。中森氏が最終回５－２としていたならば、反町選手の勝ちとなっていた。
「まさか負けるとは思わなかった・・・」
「負けじゃない。引分けだよ」
勝てば世界Sウェルター級王座挑戦も取りざたされていた辻本選手は、しきりに悔しがる。実兄英守選手は、「最終回のあれなんて、気持ちの甘さでしかない」と厳しい。
「これで好きなボクシングが続けられる」(~~)
引退覚悟で挑んだ反町選手は、引分けといいながらも勝者同然。
「最後はグッと胸に来るものがあった。やめさせなくてよかった」
愛弟子の演じたドラマに、野口会長も大感激。師弟は賭けに勝った。辻本選手が強い挑戦者であったからこそ、反町選手は燃えたのだと思う。
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翌２１日。輪島功一（三迫）選手が、アルバラードから世界Sウェルター級王座を奪還した。生き残った反町選手は、次の防衛戦も世界ランカーの 趙 旲 （韓国）と引分けるも東洋王座防衛を続けた。そして、７８年ラスベガスでのWBC世界ウェルター級王座挑戦につなげるのである。
嶋田＆柴田コンビ・世界挑戦・奇跡を起こす”！
遅れてやって来た挑戦者！嶋田雄大ｖｓ辻本章次
辻本選手は、その後大阪、マカオ、宮崎と転戦。「勝っとけば良かった」と嘆いたが、日本王座を守り続け７６年、ホセ・ピピノ・クエバス（メキシコ）の持つ世界タイトルに挑戦した。王座奪取を期待されながら・・・。
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