3年で3倍の売上高を目標にする
先日、フィットネスクラブを経営する社長とオンラインで会話をしていた時のことです。
緊急事態宣言で休業した多くの同業他社と同様、コロナ禍で休退会者が増え、売り上げが急減。コスト削減では対応しきれず、社長は資金繰りに奔走されたとのことです。
今でもクラブの会員には、安全に、よりより体験価値を提供したいと考えているものの、感染予防対策をしながらの運営は、会員やスタッフに負荷を与えるとともに、消毒剤やペーパーなどの消耗品代もバカになりません、と話していました。
「今の状態のままでは経営もままなりません。長期化が予想されるコロナ禍にどう対応すればいいでしょうか?」、と。
相談を受けた私は「ところで御社の今期の売上(粗利)目標はいくらですか?」と尋ねたところ、明確な答えは返ってきませんでした。
ですが、それも当然かもしれません。なぜなら、上場企業でさえ、コロナ禍で今期の業績予想を公表していない企業も少なくありませんから。
でも、そうした企業は今後、株式市場からだけではなく、顧客からも見放されてしまうかもしれません。なぜなら・・・
1兆、2兆と数えられるような規模の会社にする、という確信
40年前のことです。23歳で会社を興したある若者は、創業時、雑居ビルで2人のアルバイトを前にこう言いました。
「我々は将来、豆腐屋を目指す。豆腐を1丁、2丁と数えるのと同じように、1兆、2兆と数えられるような規模の会社にする」。
これを聞いた2人は社長の言葉を信じることができず、大法螺話と受け取り、翌日には2人とも退社したと言います。
しかし昨年(2019年度)、この会社の売上高は6兆1851億円でした。
もうおわかりかもしれませんが、この会社の名はソフトバンクグループ。創業者は孫正義さん。孫さんが言った通りの会社になったのです。
孫さんは創業時に「売上高1兆、2兆」ではなく、「100億円」や「会社を上場させる」と言うこともできたでしょう。でもそうは言いませんでした。
孫さんは正社員が1人もいないときから、「1兆、2兆と数えられるような規模の会社にする」ことを、夢としてではなく「確信していた」のだと思います。
なぜこの話をしたのかと言いますと、コロナ禍で売上高が激減した会社が復活するためのカギが、ここにあるからです。
「売上目標3倍」
似たような話ですが、ユニクロの柳井正さんもよく、これまで何度となく、高い売上目標を公表してきました。
柳井さんの著書『経営者になるためのノート』(2015年発行)にこう書いてあります。
「売上高が百億円の時は3百億円を目指し、3百億円の時は1千億円を目指し、1千億円の時は3千億円を目指し、3千億円の時は1兆円というような感じです。今は5兆円という目標を設定しています」。
著書の発行から4年経った同社2019年8月期の売上高(連結売上収益)は2兆2905億円でした。もちろん国内アパレルでダントツ1位(世界で第3位)の売上高です。
孫さんや柳井さんが掲げる非常識と思える高い目標設定に、どのような意味があるのでしょうか?
それは、既存の延長線上の発想や行動からの脱却です。
例えば、売上高が1千億円の時に、10%や20%アップを目標にしたとしたら、そこから出てくるアイデアや取組みは、既存の延長線上の発想や行動になります。
そのようなことは他社も考えてきますから、同質化競争となり、結果として10%や20%アップどころか、前年割れになることもあり得ます。
しかし、3倍アップの3千億円を目標にしたらどうなるでしょうか?
答え。明らかに発想を転換することになります。
今の延長線上に売上3倍はない
例えば、コロナ禍で今月の売上高が昨対2~3割減のフィットネス企業の場合、多くの社長は「昨年売上高(や会員数)に早く戻したい」と思っているのではないでしょうか。
しかし、そのような思いや考えでは、経営や運営、商品やサービスでイノベーション(革新や変革)を起こすことはできません。
感染予防対策が必須となり、人々の意識がコロナ禍で明らかに変化した今、既存の延長線上の発想や行動では、コロナ前の売上高には永遠に達成できないリスクが高まるだけではないでしょうか。
そんな中、「3年後(2023年)に今期の3倍の売上高を目標にする」としたら、どうなるでしょうか?(私は今、クライアント先に順次このことを伝えています)
そう目標を設定した瞬間、その困難な目標を実現するにはイノベーションが必要になることがわかりますし、マーケティングやセールスのやり方も変わってくるでしょう。
私たちは、1つの業界、1つの会社の中にいると、いつの間にか、今ある状態を「常識」だと認識するようになります。その結果・・・
「会員数を2倍や3倍にすることなど到底できない」(商品開発や新規事業開発、マーケティングやセールス方法を変えたら?店舗を増やしたら?)
「会員制フィットネスクラブで会費外売上構成比50%など不可能と考え、売上の9割が会費収入のまま」(私のクライアント先には会費外売上50%の会社があります)
「月会費2千円以下のフィットネスクラブなど考えられない」(売上高・会員数世界No1企業で、月会費10ドルで有名な米プラネット・フィットネスを始め、2010年以降、欧米ではこの業態が伸びています)
「会員向けに美容や健康に関する商品をサブスクで販売することなどできない」(すでに会員がいることが会員制ビジネスの最大の強み。商品は探せばいくらでもあるし、サブスク専門業者と組めばすぐに始められます)
「フィットネスクラブでは、高齢社会に対応した住宅や保険の代理店販売など無理」(本当に無理でしょうか?)
などと、できない理由を述べ、勝手に線引きして、多くの企業が自分たちの持つ強みや会員の購入ポテンシャルを勝手に封じ込めてしまいます。
そんなことはできないという、規制や条例があるのでしょうか?(そんなものはありません)
コンビニを見てください。最初は食品や雑貨の一部しか扱っていませんでしたよね?
今はどうですか? 様々な商品以外に銀行、宅配便、宅配ロッカー、ネットプリント、映画やライブのチケット、保険、行政サービス、スポーツ振興クジなどあらゆるサービスを取り扱っています(支払い方法もさまざまです)。
そうやって1店舗当たりの売り上げを増やしつつ、店舗数を拡大させること11兆円をこえる市場規模になったのです。
コロナ禍は業界や会社の常識を見直す絶好のチャンス
業界や会社の常識は「過去」のものです。それらにとらわれていては、会社に未来はありません。その意味で、コロナ禍は業界や会社の常識を見直す絶好のチャンスです。
コロナ禍で売り上げが減り、会社存続のために資金繰りで大変苦労されている社長や幹部の方もいると思います。でも一方で、長期戦を覚悟した時間との戦いでもあります。
今は何が当たるかわからない「不確実な時代」ですから、新たな発想で売り上げを増やすための方策を次々と考えて早く実行に移すことが重要です。
まずは、高い売上目標を設定するところから始めてみてはいかがでしょうか。
仮に目標が実現にならなくても、誰も損するわけではありません。でも、もし実現できたら万々歳です。
私が思うには、目標達成のポイントの1つは、目標を身近な誰かや社内外に公表することです。公表することでやらざるを得ない状況を自ら作ってしまうのです。
上場企業の中には、コロナ禍で今期の業績予想を公表していない企業も少なくありません。しかし、そういう会社の多くは株式市場(投資家)から評価されていません。
上場企業ですから、公表内容には責任を持つ必要があるのは当然です。
だからと言って、発表しない・できない、というのは無責任と言われても仕方がないだけではなく、より重要なことは、業績予想を立てることで取るべき施策や期限が明確になることです。目標は、公表することでより強制力を増すのです。
目標や思いが行動を変える
私もそうですが、会社や人は、誰しも限界意識を勝手に持っています。
例えば、聖光学院(福島)や明徳義塾(高知)のような甲子園常連校がある一方で、地区大会で1度も優勝できないどころか、初戦敗退常連校があります。
前者と後者は何が違うのでしょうか?
私は、甲子園常連校は「目標は甲子園で優勝すること。だから出場は当たり前」と365日心底思っている一方で、初戦敗退常連校は「地区大会で勝てるはずがない。うちが甲子園になど行けるはずがない」と心底思っているからだと思います。
前者と後者とでは当然行動も変わってきます。つまり、目標や思いが行動を変えていくのです。
冒頭ご紹介した社長はオンライン越しにこう言いました。「もう、コロナを理由にはしません。これからは田村さんが言うように、新しいやり方で売り上げ3倍を目指します」と。
追伸
「3年後(2023年)に今期(2020年)の3倍の売上高を目標にする」とは以下の通りです。
例えば、①2019年度年商10億円企業の場合、「2020年度の売上高=2019年の70%(3割減)」とすると2020年度売上高は7億円。②3年後の2023年度の売上高は7億円×3倍で21億円。つまり、3年後は昨年(2019年度)売上高の2倍強を達成するということ。そのための具体策を考え、実行することが今の課題となります。
それでは次号をお楽しみに!

