前の記事で書いたダブルコークについては、ぜひとも言っておきたいことがあります。現状では2回宙返りが禁止されているモーグルのエアで、2回宙返り技であるダブルコークを解禁してほしいという声が上がっていて、検討されているそうです。ひょっとしたらもう決まっているかもしれません。ぼくはモーグルの末端競技者で一人のファンでしかありませんが、個人的な意見を言わせてもらうと、それだけは絶対にやめていただきたいと思います。
ダブルコークはスキー、スノーボードのハーフパイプやスロープスタイル、ビッグエアーなどで取り入れられるようになった技で、2回宙返りにひねり(スピン、横回転)を加えます。最近は3回宙返りにひねりを加えたトリプルコークも見られるようになってきました。
モーグルエアでもこれを解禁してほしいというのは次のような理由があるのでしょう。
まず、モーグルエアの高度化に伴い、最高難度のダブルフルツイスト(後方宙返り2回ひねり)やコーク10(水平3回転)をやる選手が多くなってきて、さらに難度の高い技に挑戦したいという選手が出てきたことがあります。2010年のバンクーバー五輪のモーグルで優勝したアレックス・ビロドー選手が試合後のインタビューで「2回宙返りも練習しているので、モーグルのエアでも認めてほしい」という趣旨の発言をして話題になりました。
さらには、見栄えがする派手なエアを導入することによってモーグルの人気を高めようということもあるでしょう。フリースタイル競技なのに難度に制限を設けるのはおかしいという考えもあるかもしれません。
ぼくが解禁に反対する理由は次の通りです。
エアリアルの試合では、1回転用、2回転用、3回転用と3通りのキッカーが用意されます。それぞれの斜度は50度前後、60度前後、70度前後と、宙返りの回数によって違っていて、大きさも違っています。2回宙返り、3回宙返りをするためには、1回宙返りよりも大きさなキッカーが必要ということです。
現在、モーグルの国際大会の規則では、エア台の前は、最後のこぶからキッカーの先端(リップ)までの距離が4~5m、エア台の後ろは、リップからランディングバーンの端までの長さが15mと決められています。エア台の前後に約20mをとっているのです。
1990年代の自然こぶのモーグルの映像を見ると、こぶが今の人工こぶよりももっと大きいのに対して、エア台は小さくて、こぶの中に埋もれて、どこにあるのかわからなかったりします。ぼくはこのころのモーグルコースは知りませんが、ランディングバーンも今より短かっただろうと思います。
2000年代の人工こぶのモーグルでは、こぶが小さくなり、エア台が大きくなりました。ソルトレーク五輪(2002年)の映像を見ると、ミドルセクションの小さいこぶを猛スピードで滑って、大きな第2エア台でビッグジャンプをしてクワッドツイスターをしています。このころからハイスピード、ビッグジャンプのモーグルに変わりました。
この後、3Dエア、宙返りが解禁され、ハイスピード、ビッグジャンプの傾向は決定的となりました。ミドルセクションが第2エアのための助走路と化してきたのです。
そのため、ミドルセクションのターンをしっかり見ようと、ミドルセクションを長くしたコース設定になりました。ターン重視のコース設定なのですが、ボトムセクションが短くなった結果、ますます第2エアを大きく飛んで、その後のボトムセクションを惰性で流すようになってしまいました。
昨シーズンのワールドカップ最終戦のデュアルモーグルは、第2エア台を今までより大きくし、その後のボトムセクションのこぶをなくし、フラットバーンを滑ってゴールするコース設定でした。競技者がゴール前の第2エアでビッグジャンプをして難度の高い技を見せられるようにしたのですが、ボトムセクションにこぶがないのは気の抜けたビールのようで、見る方としては非常につまらないレースでした。
それと対照的だったのが、その後に白馬八方尾根スキー場であった草大会の八方スーパーモーグルでした。この大会は決勝がデュアルモーグルで行われますが、例年、昔風にボトムセクションが長いコース設定になっています。第2エアを飛んで勝負が決まりではなく、ボトムセクションのこぶをミスなく滑りきらなければなりません。第2エアまで圧倒的にリードをしていた選手がボトムセクションで転倒して敗れることもあって、土壇場での逆転があり、最後の最後まで気が抜けないので、見ていて大変、面白いレースになりました。
昨シーズンの終盤、この二つの大会によって、モーグルはこぶを滑る競技であって、エアで勝負を決める競技ではないということをつくづくと感じさせられたのでした。
今の国際大会の規則では、第1エア台、第2エア台の前後を合わせて計約40mがこぶのない部分で、200mのコースだと、コース全体の5分の1を占めます。もし、ダブルコークのような2回宙返りの技を解禁するとしたら、滞空時間を確保するために、今よりも大きなエア台にして、ランディングバーンも長くする必要があります。その分、こぶの部分は短くなります。
今のエア台の大きさ、ランディングバーンの長さでダブルコークができないわけではありませんが、短い滞空時間の中で宙返りを2回しなければならないので非常に危険です。
モーグルエアによるけがはほとんどが、空中で回転を完了しないままに着地することに原因があります。例えば、ヘリであれば、空中で回転を終えて、スキーがフォールラインを向いた状態で着地すれば、けがをすることはありませんが、回転不足であれ、回転オーバーであれ、回りながら落ちると、スキーをとられたりして、脚に不自然な力が加わり、前十字靭帯断裂などの大けがをすることになります。
縦回転のけがも空中で回転を完了せずに着地するために起きます。回転不足の場合、スキーのトップがランディングバーンに刺さるような形になって、顔から着地してあごを骨折することあります。回転オーバーの場合は、背中やひじをランディングバーンに打ち付けて腕の骨を折ったり、後頭部を打って脳震盪を起こしたりします。
横回転での着地の失敗は悪くても脚のけがで済みますが、縦回転の場合は頭や首を打ち付け、頸髄損傷によって全身付随になるなどの取り返しのつかないけがにつながります。
1回宙返りとあまり変わらない滞空時間で2回宙返りをすると、回転速度が上がります。大きなジャンプをしてランディングバーンを飛び越え、高速の2回宙返りの途中でこぶの中に着地したらどうなるでしょうか。それにひねりが加わっていたら、考えただけでも恐ろしくなります。
大きなジャンプをするためには、それに応じたランディングバーンが必要です。モーグルのジャンプの飛距離がせいぜい15mなのに対して、ノルディックジャンプの飛距離は100m以上もありますが、どの地点に落下しても競技者とランディングバーンとの高低差は2mほどしかないそうです。ランディングバーンの形が、競技者がジャンプして描く飛行曲線と同じ放物線になっているためです。飛行曲線とランディングバーンが2mの差で平行する2本の放物線になっているので、競技者はジャンプした後、常にランディングバーンの2m上を飛ぶことになるのです。
スロープスタイルも同じようなランディングバーンになっています。モーグルの大会でも最近は、ランディングバーンが放物線の形に盛り上げてあります。そうすることによって、滞空時間の長い大きなジャンプをしても、安全に着地することができるわけです。
モーグルでダブルコークができるようにするためには、今以上に長いランディングバーンを設けざるをえず、そうすると、こぶの長さがますます短くなって、何の競技かわからなくなってしまいます。スロープスタイルのアプローチの長さ、キッカーの長さ、ランディングバーンの長さはモーグルコースの比ではありません。モーグルのキッカーを大きくしたところで、スロープスタイルやハーフパイプほどに大きなエアはできないのです。
フリースタイル競技の中には、2回宙返り、3回宙返りのできるエアリアル、スロープスタイル、ハーフパイプという種目があります。ダブルコークをしたい選手は、それができるキッカー、ランディングバーンが整備されているこれらの種目で力を発揮すればいいのです。
モーグルのエアをこれ以上、大きくすることは、モーグルの特性を失ことにつながると思います。モーグルはこぶを滑る競技であるという原点に立ち返って考えることが必要でしょう。
ダブルコークはスキー、スノーボードのハーフパイプやスロープスタイル、ビッグエアーなどで取り入れられるようになった技で、2回宙返りにひねり(スピン、横回転)を加えます。最近は3回宙返りにひねりを加えたトリプルコークも見られるようになってきました。
モーグルエアでもこれを解禁してほしいというのは次のような理由があるのでしょう。
まず、モーグルエアの高度化に伴い、最高難度のダブルフルツイスト(後方宙返り2回ひねり)やコーク10(水平3回転)をやる選手が多くなってきて、さらに難度の高い技に挑戦したいという選手が出てきたことがあります。2010年のバンクーバー五輪のモーグルで優勝したアレックス・ビロドー選手が試合後のインタビューで「2回宙返りも練習しているので、モーグルのエアでも認めてほしい」という趣旨の発言をして話題になりました。
さらには、見栄えがする派手なエアを導入することによってモーグルの人気を高めようということもあるでしょう。フリースタイル競技なのに難度に制限を設けるのはおかしいという考えもあるかもしれません。
ぼくが解禁に反対する理由は次の通りです。
エアリアルの試合では、1回転用、2回転用、3回転用と3通りのキッカーが用意されます。それぞれの斜度は50度前後、60度前後、70度前後と、宙返りの回数によって違っていて、大きさも違っています。2回宙返り、3回宙返りをするためには、1回宙返りよりも大きさなキッカーが必要ということです。
現在、モーグルの国際大会の規則では、エア台の前は、最後のこぶからキッカーの先端(リップ)までの距離が4~5m、エア台の後ろは、リップからランディングバーンの端までの長さが15mと決められています。エア台の前後に約20mをとっているのです。
1990年代の自然こぶのモーグルの映像を見ると、こぶが今の人工こぶよりももっと大きいのに対して、エア台は小さくて、こぶの中に埋もれて、どこにあるのかわからなかったりします。ぼくはこのころのモーグルコースは知りませんが、ランディングバーンも今より短かっただろうと思います。
2000年代の人工こぶのモーグルでは、こぶが小さくなり、エア台が大きくなりました。ソルトレーク五輪(2002年)の映像を見ると、ミドルセクションの小さいこぶを猛スピードで滑って、大きな第2エア台でビッグジャンプをしてクワッドツイスターをしています。このころからハイスピード、ビッグジャンプのモーグルに変わりました。
この後、3Dエア、宙返りが解禁され、ハイスピード、ビッグジャンプの傾向は決定的となりました。ミドルセクションが第2エアのための助走路と化してきたのです。
そのため、ミドルセクションのターンをしっかり見ようと、ミドルセクションを長くしたコース設定になりました。ターン重視のコース設定なのですが、ボトムセクションが短くなった結果、ますます第2エアを大きく飛んで、その後のボトムセクションを惰性で流すようになってしまいました。
昨シーズンのワールドカップ最終戦のデュアルモーグルは、第2エア台を今までより大きくし、その後のボトムセクションのこぶをなくし、フラットバーンを滑ってゴールするコース設定でした。競技者がゴール前の第2エアでビッグジャンプをして難度の高い技を見せられるようにしたのですが、ボトムセクションにこぶがないのは気の抜けたビールのようで、見る方としては非常につまらないレースでした。
それと対照的だったのが、その後に白馬八方尾根スキー場であった草大会の八方スーパーモーグルでした。この大会は決勝がデュアルモーグルで行われますが、例年、昔風にボトムセクションが長いコース設定になっています。第2エアを飛んで勝負が決まりではなく、ボトムセクションのこぶをミスなく滑りきらなければなりません。第2エアまで圧倒的にリードをしていた選手がボトムセクションで転倒して敗れることもあって、土壇場での逆転があり、最後の最後まで気が抜けないので、見ていて大変、面白いレースになりました。
昨シーズンの終盤、この二つの大会によって、モーグルはこぶを滑る競技であって、エアで勝負を決める競技ではないということをつくづくと感じさせられたのでした。
今の国際大会の規則では、第1エア台、第2エア台の前後を合わせて計約40mがこぶのない部分で、200mのコースだと、コース全体の5分の1を占めます。もし、ダブルコークのような2回宙返りの技を解禁するとしたら、滞空時間を確保するために、今よりも大きなエア台にして、ランディングバーンも長くする必要があります。その分、こぶの部分は短くなります。
今のエア台の大きさ、ランディングバーンの長さでダブルコークができないわけではありませんが、短い滞空時間の中で宙返りを2回しなければならないので非常に危険です。
モーグルエアによるけがはほとんどが、空中で回転を完了しないままに着地することに原因があります。例えば、ヘリであれば、空中で回転を終えて、スキーがフォールラインを向いた状態で着地すれば、けがをすることはありませんが、回転不足であれ、回転オーバーであれ、回りながら落ちると、スキーをとられたりして、脚に不自然な力が加わり、前十字靭帯断裂などの大けがをすることになります。
縦回転のけがも空中で回転を完了せずに着地するために起きます。回転不足の場合、スキーのトップがランディングバーンに刺さるような形になって、顔から着地してあごを骨折することあります。回転オーバーの場合は、背中やひじをランディングバーンに打ち付けて腕の骨を折ったり、後頭部を打って脳震盪を起こしたりします。
横回転での着地の失敗は悪くても脚のけがで済みますが、縦回転の場合は頭や首を打ち付け、頸髄損傷によって全身付随になるなどの取り返しのつかないけがにつながります。
1回宙返りとあまり変わらない滞空時間で2回宙返りをすると、回転速度が上がります。大きなジャンプをしてランディングバーンを飛び越え、高速の2回宙返りの途中でこぶの中に着地したらどうなるでしょうか。それにひねりが加わっていたら、考えただけでも恐ろしくなります。
大きなジャンプをするためには、それに応じたランディングバーンが必要です。モーグルのジャンプの飛距離がせいぜい15mなのに対して、ノルディックジャンプの飛距離は100m以上もありますが、どの地点に落下しても競技者とランディングバーンとの高低差は2mほどしかないそうです。ランディングバーンの形が、競技者がジャンプして描く飛行曲線と同じ放物線になっているためです。飛行曲線とランディングバーンが2mの差で平行する2本の放物線になっているので、競技者はジャンプした後、常にランディングバーンの2m上を飛ぶことになるのです。
スロープスタイルも同じようなランディングバーンになっています。モーグルの大会でも最近は、ランディングバーンが放物線の形に盛り上げてあります。そうすることによって、滞空時間の長い大きなジャンプをしても、安全に着地することができるわけです。
モーグルでダブルコークができるようにするためには、今以上に長いランディングバーンを設けざるをえず、そうすると、こぶの長さがますます短くなって、何の競技かわからなくなってしまいます。スロープスタイルのアプローチの長さ、キッカーの長さ、ランディングバーンの長さはモーグルコースの比ではありません。モーグルのキッカーを大きくしたところで、スロープスタイルやハーフパイプほどに大きなエアはできないのです。
フリースタイル競技の中には、2回宙返り、3回宙返りのできるエアリアル、スロープスタイル、ハーフパイプという種目があります。ダブルコークをしたい選手は、それができるキッカー、ランディングバーンが整備されているこれらの種目で力を発揮すればいいのです。
モーグルのエアをこれ以上、大きくすることは、モーグルの特性を失ことにつながると思います。モーグルはこぶを滑る競技であるという原点に立ち返って考えることが必要でしょう。