【大阪公立大学】自作ハイブリッドロケットエンジンへの挑戦

皆さん,こんにちは!

COLOURSプロジェクト(ロケットプロジェクト)エンジン系長,学部3年の岳山航大です.

夏も終わりに近づきつつありますが,いかがお過ごしでしょうか.まだまだ暑さは過ぎないようで残念です.

さて,本記事では今年度からCOLOURSプロジェクトが新たに設立した,

「エンジン系」

に主眼を置いてあれこれを述べていこうかと思います.

稚拙な文ではございますが,最後まで読んでいただけますと幸いです.

 

 

 

 

 

 

  COLOURS及びハイブリッドロケットの紹介

 

 当団体,小型宇宙機システム研究センター(SSSRC)の中のCOLOURSは"ハイブリッドロケット"を打ち上げておりますが,そもそも「ハイブリッドロケットってなんやねん」みたいな方も多くいらっしゃることでしょう.ここで述べると長くなりすぎるので以下のいくつかの記事を読んでロケットについて知っていただいてからこの記事を読んでいただけますと面白さが倍増します.当団体のロケット変遷について知っていただく機会にもなるかと思いますので是非この記事の前に一読いただきたい!

 

 

 

 

 

 

 
 

 

  「エンジン系」設立の経緯

 

 主題を「自作ハイブリッドロケットエンジンへの挑戦」と銘打ったわけですが,必ずしも積極的な理由でこの系が設立されたわけではありません.少し前までの日本の学生ロケット界隈の多くの団体は,(加)Cesaroni Technology Inc.(CTI社)が販売するHyperTek(以下Tekと表記)という種類のハイブリッドロケットエンジンを用いてロケットを打ち上げていました.しかし,現在このCTIという会社がエンジンの生産を停止し,供給ラインがストップすることで全国的にTekのエンジンが枯渇する事態となっています.そこで,全国的に学生ロケット界隈では「Tekはもう手に入らない!ロケットを打ち上げるために,これからエンジンを自作しなければならない!」という要請が来たわけです.(もちろん,それ以前からエンジンを自作する団体は存在していた)我々の団体も例にもれず,このブームに乗り,エンジン系を設立いたしました.

 著者自身,元々ロケットのエンジンに魅力を感じており,さらにいい機会なのでエンジン系を設立し初めての部署の系長を務め,エンジン自作の主導を担わせていただいています.

 系設立から半年も経過しておりませんが,それまでの活動内容を報告させていただきます.

 

 

  「ハイブリッドロケットエンジンを自作する」とは

 

 ”ロケットエンジンを自作する”と聞いて,ピンと来ないでしょう.順を追って,ロケットエンジン自作を理解するために

 
・ 何から始めていったのか
・ ロケット推力発生原理
・ ロケットエンジン性能評価

本節においては,以上3つの題目に絞り,書いていこうと思います.

 

何から始めていったのか

 

 まず,そもそも「ロケットエンジンってどういう風な原理原則で動いてるのか」を理解すること.「ロケットエンジンの性能に関する定量的な評価方法」を知ること.大別するとこの二点を座学(主に書籍や論文による),SNSで他団体の燃焼試験を参考にしながら情報収集を始めていきました.原理原則やエンジンの性能評価方法自体は様々な書籍を参考にできたのですが,一般に販売されているロケット工学について書かれた書籍は大概,液体ロケット,固体ロケットいずれの場合にも適用できるような普遍的なことが書かれています.私たちが作るハイブリッドロケットエンジンに焦点を当てて書かれた情報源は非常に限られており,その点が難関であると思います.

 そして,その次に性能評価を行うことは手計算では不可能です.コンピューターで計算する必要がありそうで,いろいろ情報収集していました.調べていくとどうやら

 

「RocketCEA」

 

呼ばれる,Pythonモジュールが存在することが分かった!(もともとNASA CEA(Chemical Equiliburium with Applications)と呼ばれるギブズエネルギ最小化原理に則った,化学平衡計算プログラムが存在していたが,これをロケットエンジンの性能評価部分に絞って出力でき,だれでも扱えるようにラッパー化されたものがRocketCEAらしい)

 実際に作成したツールは大きく分けて二つあり,サイジングツール性能評価ツールです.それぞれの役割を説明します.

 「サイジング」では,エンジンの幾何学パラメータを欲しい性能に届くようにある程度簡単な理論計算の元,算出するというものです.作成したツールの概略は,初期推力を入力し,ある程度の範囲のO/F比(酸化剤と燃料の流量比)において比推力が最大になるような幾何学形状を出力してくれるようなものとなっております.燃焼時間は酸化剤体積を酸化剤流量で除した計算で(つまり酸化剤流量は一定で計算し,燃料流量を変化させる,つまりグレインの形状を決定)小学生でもできるような計算で算出しています.そう,聡明な方はお気づきの通り,ざっくり計算のためにきつい仮定を用いています.これは燃焼現象を時間発展として追うというよりも,横軸O/Fでいろいろな値を見てやって,どの程度のO/F比で最大の性能が出せそうで,性能評価ツールで正確に計算すればよいのか目星をつけるためのツールです.

 「性能評価」では,サイジングで得られたエンジンの幾何学形状を入力して,サイジングよりかはもう少し正確なモデルを用いて時間発展を見てやり,サイジングで入力した性能が得られているかを確認するという役割を担っています.

 ①サイジングで欲しい性能を入力.②幾何学形状パラメータを得る.③性能評価ツールを回す.④OKなら採用.だめならサイクルやり直し.という順序でエンジンの寸法を決定していきます.

 色々勉強していた時の活動風景を残しておきます.

 

図 勉強風景

 

 図書館で借りた,「久保田浪之介,『ロケット燃焼工学』,日刊工業新聞社」を主に用いて勉強しました.(RocketCEAがどのように動いているのかの原理が知れます.)

 

 

・ロケットの推力発生原理

 

  ロケットが推力を得ているのはエンジンが作動し,燃焼ガスを排気し,運動量理論より力として得ています.運動量理論とは,

 

物体が流体(燃焼ガス)から受ける力は,検査面間の運動量の時間変化と両面の圧力差に等しい.

 

という,流体力学の基礎方程式です.これをロケットに適応すると,

 

{F=\dot{m}v_e+(p_e-p_a)A_e}

 

図 ロケット周り

 

これがロケットの推力方程式です.右辺の第一項目を運動量項,第二項目を圧力項と呼びます.この式が根幹であり,これから紹介するありとあらゆる性能評価パラメタを考えるにおいて必須で知っておくべき式となっています.

 ジェットエンジンとの違いを述べておくと,ジェットエンジンは大気を吸い込みそれを高圧に圧縮し,元々積んでいる燃料との燃焼を起こし,高温高圧の燃焼ガスを排気し運動量を得ているのに対して,ロケットエンジンは酸化剤と燃料,両方をあらかじめ積んでいる状態です.したがって,航空機推進機関として,ジェットエンジンは「空気吸い込み式エンジン」,ロケットエンジンは「非空気吸い込み式エンジン」として分類されます.

 

 

大型ロケットは人工衛星を宇宙空間に軌道投入するためのものですから,空気吸い込み前提にはできないのです.ただ,運動量理論で推力発生を説明できる点においてはジェットエンジン,ロケットエンジンにおいて共通です.

 少し本筋とずれてしまいますが,ロケットエンジンのノズルが下流において拡散ノズルになっているのかご存じでしょうか?これを説明するためには,飛行機のジェットエンジンと比較する必要があります.ジェットエンジンは収縮ノズルです.そのメカニズムを軽く説明します.

 

{Q=Av_e}

 

Qは体積流量(流体が単位時間あたりに通過した体積)で,Aは断面積,veは排気速度.上式は準一次元流れを考えています.非圧縮性流体においては Q = const. なので,この式の物理的解釈は「断面積を狭めれば,排気速度は大きくなる」(水道の蛇口と同じで,指で出口を狭めると水が勢いよく出る).

 

図 蛇口から水が出る様子

 

したがって,収縮ノズルにすることで,最終的に排気される燃焼ガスの速度は大きくなり,運動量が稼げる.これが収縮ノズルが採用される理由です.

 確かにロケットエンジンは途中まで収縮ノズルです.しかし,速度が大きくなっていき,やがてマッハ数が1に近づくと非圧縮仮定を用いることができなくなってしまい,圧縮性流体理論を要します.以下の基礎式,

 

{\frac{d\rho}{\rho}+\frac{du}{u}+\frac{dA}{A}=0}

 

{udu+\frac{1}{\rho}dp}

 

{\frac{dp}{p}-\gamma\frac{d\rho}{\rho}=0}

 

{\frac{dp}{p}=\frac{d\rho}{\rho}+\frac{dT}{T}}

 

を用いて,拡散ノズルが増速させることを証明します.1式は圧縮性を考慮した,質量流量保存式.2式はオイラーの運動方程式.3式,4式は状態方程式.いずれも微分形式で記述しています.これらと,音速,マッハ数の定義式,

 

{M=\frac{u}{a}}

 

{a^2=\frac{dp}{d\rho}}

を用いて式をこねくり回すと,

 

{\frac{du}{u}=\frac{1}{M^2-1}\frac{dA}{A}}

 

という式が導出されます.これによると,

 

①M < 1の時,dA < 0(収縮ノズル)の時にdu  >  0 (増速)

②M > 1 の時,dA > 0 (拡散ノズル)の時にdu  >  0 (増速)

 

であることがわかり,マッハ数1に到達されるまでは断面積は小さくするべきで,1に到達されるまで増速してからは断面積は大きくするとさらに増速するという原理になっています.不思議ですねぇ...

 

 

  • ロケットエンジン性能評価方法
 ロケットエンジンの性能評価方法とは一つのパラメタがあるわけではなく(例えば推力履歴等),さまざまな性能評価パラメタが存在しており,どれを最大化させるのか,どれを最小化させるのか設計者の思想が最もよく表れるところだと思っています.エンジンの性能を評価する方法を軽く説明していきます.
 
 まず,ひとえに性能といってもエンジンは基本的に,
  1. 酸化剤タンク(及びインジェクタ)
  2. 燃焼室
  3. ノズル
  4. 総合的な評価
大きく領域に分けるとこの三つに分割でき,各領域に対して性能というものを考えることができます.
  • 酸化剤タンク,インジェクタ径
 酸化剤を貯めておくタンク,そしてその酸化剤を燃料(グレイン)に注入するインジェクタというものがあります.
 
 
図 酸化剤タンクとインジェクタ
 
 どのように推力に影響するかというと,まず,タンクは単純にどの程度酸化剤を貯蔵できるのかという指標になります.容量が多きればその分,酸化反応を起こしやすく,燃焼時間に直結します.さらに,インジェクタ径で流量という単位時間あたりに酸化剤をどれくらいの量を噴きつけることができるのかを決定します.(このインジェクタ径がダイレクトに推力を決定するのですが,ここを大きくすると次は燃焼時間が短くなるのでインジェクタ径をどのくらいにするのかが,設計者の力量が試されるところでもあると思っています.)インジェクタから噴きつけられる酸化剤流量の式は,単相を仮定すると,
 

\dot{m}_{ox}=C_d A_{inj}\sqrt{2\rho_{ox}\Delta P}

 

となっています. 

 実際問題,時刻歴計算をする際に,ΔP(供給圧)というのが,インジェクタ圧 ー 燃焼室圧力に対応するのですが,燃焼室圧力は時刻で変動するうえ,インジェクタ圧もタンク圧からホースなどで圧損(ホースの形状,ホースとインジェクタの変換器の形状などに依存する)が起き,複雑な時刻歴をするために予測できない流量変化が起きます(ブローダウン).さらに,亜酸化窒素N2Oの自己加圧性(それ自体の蒸気圧が標準温度で5MPa程度)を用いる故,液体としてタンクに保管しておくという事情柄,インジェクタに辿り着くころには液体と気体の混相になっている場合もあるのでモデル化はかなり困難です.

 
 
  • 燃焼室
 燃焼室が実際に燃焼ガスを生み出す(化学反応が起きる)場所です.ここの性能を決定するパラメタとして,”特性排気速度(c*)”があります.式で表すと,
 

{c^*=\frac{P_c A_t}{\dot{m}}}

 

これは,”ノズルがもしなければどのくらいの速度で燃焼ガスが排気されるのか”という指標に対応しております.PcAtというのはノズルがなかった時の推力に対応しています.(大気圧は考えていない,運動量項推力について考えている)この値は,酸化剤,燃料の組み合わせ,混合比と燃焼圧(本当は特性長L*も)を入力してやるとCEA計算で算出することができます.この特性排気速度c*は比熱比,ガス定数,燃焼室温度で決定される値です(燃焼室の性能を決定づけるいい証拠)
 

 c^*=\frac{\sqrt{\gamma R T_c}}{\gamma\sqrt{(\frac{2}{\gamma+1})^\frac{\gamma+1}{\gamma-1}}

 

上式が,特性排気速度の別表記となっております.

 他には,先ほどにも少し出てきた燃焼室特性長L*という指標があります.これと併せて,滞留時間τcも覚えておきましょう.燃焼室特性長の定義は,

 

L^*=\frac{V_c}{A_t}

 

燃焼室容積をスロートで除した値です.滞留時間というのは,

 

\tau_c=\frac{\rho_0 V_c}{\dot{m}}

 

と定義されます.滞留時間とは,燃焼室にガスとして流入してから流出するまでの時間として定義されます.これがあまりにも小さいと(反応を起こすために要する時間よりも),化学反応が起きる前に流出してしまい,凍結流として考えることになってしまいます.(凍結流とは,反応が起きない流れ.これに対して,反応流.ただし,反応といっても,非平衡計算をしているわけではなく,等エントロピー仮定を設けているので平衡流ではある)このパラメタは,実際に燃焼試験をしてみて,燃焼効率が悪い,うまく燃えていないとわかった場合に考えなければならないパラメタであり,これを稼ぐために様々な工夫を燃焼室の構造的に施すことができる.(まだ少し先の話)

 本題なのが,この滞留時間を稼ぐためには簡単な話,特性長を大きくするような設計であればよい.なぜならば,

 

\tau_c=\frac{\rho_0 V_c}{\dot{m}}=\frac{L^*}{C_d R T_0}

 

滞留時間は,L*に比例するからであります.(CEA計算を終えて,ガスの物性値がわかればL*の関数になる)また,Cdというのは,ノズル排出係数と呼ばれるもので,特性排気速度の逆数.(したがって,CEA計算でわかる.)したがって,滞留時間を稼ぐような設計にするということはすなわち,特性長を大きくするような設計と同値であるということなんです.

 性能評価とは違うのですが,ハイブリッドロケットの大きな特徴の一つである,ポート径が拡大してしまう(化学反応が起きることで削れるということです)ことについてもしゃべらせてもらいます.

 

 

図 グレインに燃焼ガスが通る感じ

 

 

図 グレインの内側がdt経過後に等しく削れていく様子

 

ポート径が広がるときに,単位時間あたりに動径方向にグレインが削れる量を \dot{r} とする.これを燃料後退速度といいます.この値のモデル計算として有名なのが,

 

\dot{r}=a{G_{ox}}^n

 

です.Goxは酸化剤流束,流量をさらに断面積で除した値です.(つまり,単位時間,単位面積あたりに出ていく酸化剤の質量)a,nをそれぞれ,後退速度係数,後退速度指数と呼びます.これをもとに,

 

\dot{m}_f=a{G_{ox}}^n=a\left(\frac{4\dot{m}_{ox}}{\pi{D_f}^2}\right)^n

 

と算出出来る.余談として,ハイブリッドロケットが実用化しないのは,燃料後退速度が小さく,大推力が得られにくいという点が担っているところが大きいです.この燃料後退速度を大きくするために,燃料をWAX系を用いたりなど,多く研究されている領域なのです.

 話を戻して,燃焼時間で燃料後退速度を考慮して積分するとポート径の時刻歴を計算可能です.ポート径が広がる化学現象をモデル化を用いて時間の関数として扱えるようにできました.さらに,燃料流量も計算可能です.燃料流量とはつまり,単位時間あたりにグレインが削れた分を考えればよく,式に起こすと,

 

\dot{m}_f=\left(\frac{\pi}{4}(D_p+2\dot{r})^2-\frac{\pi}{4}{D_p}^2\right)\rho_f \L_f

 

こうなる.燃料後退速度は十分に小さいので二乗の項を無視すると,

 

\dot{m}_f=\pi\rho_{ox}L_f D_f \dot{r}

 

となる.燃料後退速度の式を入れると,

 

\dot{m}_f=4^n\pi^{1-n}\rho_{f}L_{f}a{D_{p}}^{1-2n}{\dot{m}_{ox}}^n

 

燃料流量は燃料後退速度のモデルを適用することで,酸化剤流量に依存するということが分かります.ここから,ポート径と燃料の全消費量を計算できる.ポート径は,

 

\frac{dD}{dt}=2\dot{r}=\frac{2^{2n+1}a{\dot{m}_{ox}}^n}{{\pi}^n}D^{-2n}

 
この常微分方程式を解くと,
 

D(t)=\left(\frac{(2n+1)2^{2n+1}a{\dot{m}_{ox}}^{n}}{{\pi}^n}t+{D_p}^{2n+1}\right)^{\frac{1}{2n+1}}

 
となります.ここで,t = tb(燃焼終了時刻)を入れることで,燃焼終了時刻でのポート径が求められる.総燃料消費量Mfは,初期ポート径から終端燃料ポート径との差分で求まり,
 

M_f=\frac{\pi}{4}\rho_f L_f({D_p(t_b)}^2-{D_{p,i}}^2)

 
このあたりは幾何学的パラメタなので容易に測定でき,特に総燃料消費量に関しては燃焼試験前後でグレインの質量を測定しその差分を計算すれば測定できるのでモデルとの整合性を確認することもできます.
 燃料流量と酸化剤の流量がわかったですが,ここから大事な概念である,混合比について解説していきます.混合比(O/Fとしていたり,MRとしていたり,rとしていたり様々,ここではO/Fとします)とは,燃料"流量"に対しての,酸化剤"流量"の比です.決して,総消費量の比ではない.式としては,
 

O/F=\frac{\dot{m}_{ox}}{\dot{m}_{f}}

今までのモデルの式を入れることで,
 

O/F=\frac{\dot{m}_{ox}}{\dot{m}_{f}}=\frac{4^{-n}\pi^{n-1}D(t)^{2n-1}}{\rho_fL_fa}{\dot{m}_{ox}}^{1-n}

 
混合比が時間変化することがわかる.これをO/Fシフトといいます.主にポート径が削れることによることが原因であるとわかります.このO/Fシフトは,ハイブリッドロケットエンジン特有の現象です.CEA計算において,混合比は重要な引数であり,ある値を最大化するような混合比を最適O/Fと言ったりします.何を最大化するのかは設計者次第なのですが,ダイレクトに性能にかかわる比推力(後で話します)や特性排気速度(O/Fによって最大値があったりする)など,あらゆる混合比についてCEAを回して横軸O/Fで縦軸いろいろな性能パラメタにしてグラフ化することが多いです.
 燃焼室周りにおいて重要な事柄は十分に語れたと思います.
 
  • ノズル

 最後にノズル周りの性能評価の話をします.僕個人としては,収縮-拡散ノズル(ラバルノズル)の設計にロケットの魅力が詰まっているのではないのかなと感じているので,一層熱が入ります.

 最初に紹介するパラメタは,推力係数CFです.この推力係数を解説する前に,特性排気速度の復習を行います.特性排気速度が,"ノズルをつけなかった場合のスロートからの排気速度"を表していました.ノズルをつけなかった場合の,つまり燃焼室の性能でした.推力係数はどのような指標かというと,"ノズルを付けたときとつけなかった場合の推力の比率"です.式にすると,

 

F=C_F P_c A_t

 

C_F=\sqrt{\frac{2\gamma^2}{\gamma-1}\left(\frac{2}{\gamma+1}\right)^{\frac{\gamma+1}{\gamma-1}}\left[1-\left(\frac{P_e}{P_c}\right)^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}\right]^{-\frac{1}{2}}

 

PcAtがノズルがなかった時の圧力に対応しているので,上式は,ノズルを付けた推力はそれにCF倍されているという表現になっている.また,推力係数が比熱比,燃焼室圧力,出口圧力の関数であることも重要である.ノズルの性能を高めたければ,推力係数を高めることになる.燃焼圧を指定すると,比熱比がCEA計算で出るので,出口圧力をどうにかするほかないのですが,実は出口圧力を諸高度の大気圧(雰囲気圧)と等しくしたときに推力係数が最大となることが知られています.出口圧が雰囲気圧と等しい膨張を最適膨張,まだ膨張できる場合は,不足膨張,膨張しすぎの場合,過膨張といいます.地上から打ち上げる場合,大体中空時点で最適膨張するようにノズル設計します.

 この推力係数と近いパラメタとして,開口比ε(膨張比)があります.これは,スロート断面積に対する,出口断面積の比であり幾何学的パラメタである.どの時点で決まるのかというと,"出口圧力が決まるとそうなるように出口マッハ数が決まります.その出口マッハ数になるように開口比が決まる"という形になっています.(高度によって最適な開口比は違うということになる.その問題点を解決しようとしているのがエアロスパイクエンジンという代物がある.調べてみよう!)開口比自体の定義は簡単で,

 

 \epsilon=\frac{A_e}{A_t}

 

となります.しかし,ここからがおもしろいところで,圧縮性流体力学の流量保存式より,

 

 \dot{m}=\rho_t A_t a_t=\rho_e A_e v_e

 

が成り立ちます.開口比をさらに展開でき,

 

\epsilon=\frac{A_e}{A_t}=\frac{\rho_t a_t}{\rho_e v_e}

 

となります.ここから行間を埋めようとすると冗長になってしましますので,一気に式展開します.用いる式はノズル出口後の排気速度と音速の式,さらに断熱の式で密度も圧力の式に変換し,圧力は等エントロピー仮定の式を用います.すると,開口比は,

 

\epsilon=\frac{\left(\frac{2}{\gamma+1}\right)^{\frac{1}{\gamma-1}}\left(\frac{P_c}{P_e}\right)^{\frac{1}{\gamma}}}{\sqrt{\frac{2}{\gamma-1}\left[1-\left(\frac{P_c}{P_e}\right)^{\frac{\gamma-1}{\gamma}}\right]}}

 

これの表すところの面白いところは,比熱比(ガス物性値),燃焼室圧力,出口圧力が決定されれば一意に開口比が決まるということである.(何度も念押しするが,どの高度においても最適な開口比が定まるという意味ではない)この出口圧力は先ほども述べた通り,雰囲気圧と等しくするようにする.燃焼試験での値を審査書に用いたりするので学生ロケットだと中空ではなく地上での雰囲気圧,つまり海面上大気圧と等しくします.

 

 

  • 総合的な評価

 今までは,「酸化剤タンク,インジェクタ」,「燃焼室」,「ノズル」といったコンポーネントごとの性能評価パラメータを紹介してきましたが,ロケット全体としての性能パラメタを紹介していきます.

 有名なものとして比推力Ispが存在します.比推力という名前がついているので,単位は Nかと思ってしまいがちなのですが,実は時間を表します.比推力とは,”9.8 Nの力を1 kgの推進薬で何秒間発生できるのか”ということを表します.定義式は,

 

I_{sp}=\frac{F}{\dot{m}g_0} 

 

です.g0は標準重力加速度です.これと連関した指標なのが”有効排気速度c”です.定義は,”発生推力が運動量だけで発生していると考えたときの仮想的な排気速度”です.したがって,先に述べた推力方程式から派生して,

 

F=\dot{m}v_e+(P_e-P_a)A_e=\dot{m}c

 

と表されます.すると,比推力と有効排気速度には,

 

c=g_0 I_{sp}

 

といった関係式が成り立つことが認められる.この式自体に大した意味はありませんが,比推力だと,様々な単位(SI単位,ヤードポンド法)を用いて推力などを計算しても最終的に時間で同じ値になるので便利であるという利点が存在します.有効排気速度はそれ自体わかりやすい概念で運動量との関係が見えやすいので好まれます.「有効排気速度を上げる」ことと「比推力をあげること」は同値です.

 細かいことなのですが,比推力は,雰囲気圧を真空として考える「真空比推力」と海面上の大気圧を雰囲気圧として考える「海面上比推力」が存在します.単に比推力というと真空比推力であることが多いのですが,どちらを指しているのかは注意しなければならない点です.(大体,10パーセントから20パーセントほど,真空比推力の方が大きいです)

 ここからが本題で,導入したパラメタ,比推力(有効排気速度)がなぜ総合的な指標と呼ばれているのかというと,実は”特性排気速度と推力係数”と関係があるのだからです!!この事実は知れば知れるほどなかなかにエレガントです.復習しましょう.特性排気速度は燃焼室の性能を表す指標で推力係数はノズルの性能を表す指標でした.導出は省略しますが,以下の関係式が成り立つことが知られています.

 

 

I_{sp}=\frac{c}{C_F}=\frac{C_F c^*}{g_0}

 

双方のパラメタとの関連を持っているので,比推力を最大化させるのは,燃焼室とノズルの性能のいい塩梅をとっていることといえます.比推力を最大化させることが一般的に多いのはこのことに由来します.

 最後にトータルインパルスIを紹介します.インパルスというのは力積です.定義は”作動時間で発生推力を時間積分した値”になります.なので,定義式は素直に,

 

I=\int_{0}^{t_b}F dt

 

となります.このトータルインパルスは,比推力と関係性があり,

 

I_{sp}=\frac{\int_{0}^{t_b}F dt}{mg_0}

 

単位時間あたりの定義から,全作動時間で定義しているので,先に示した比推力とは少し毛色は違います.

 もっと他にも紹介したいパラメタはあるのですが,このあたりでやめておこうかと思います.さあ,どうでしょうか?ここまで読んだ方は一休憩しましょう.書きたいことをいろいろ書いていくと長くなってしまいました笑.

 設計パラメタは一つではなくて,いろいろなパラメタがあってどれを目的に応じて,大きくしたいのか,はたまた小さくしたいのか,思想があると思います.それが面白いところなのではないのでしょうか.

 今後のエンジン開発でもこの知識を役立てられるように頑張っていきます.

  今後の展望

 今後行っていくこととしては,

  CADを用いてエンジンの3Dモデルを作成して

  同時にボルトの規格(締結部に掛かる応力と引っ張り強さとの安全率をおおめに取ってお    く),ケースの厚み(燃焼圧に対して働く応力とケースの素材の引張強さ),破壊制御が起きてほしい位置と破壊が起きてほしくない位置に対しての強度比較など,性能ではなく,安全性評価のためのパラメタを決定していく.

  そのための耐圧試験,破壊制御試験.

  燃焼試験を行い,燃焼効率等を確認.

を行っていきます.

 

 

  結び

 ここから,さらに成長していくためには情報を自ら手に入れに行く姿勢を忘れずに勉強し,それを実行に移して,さらにこの得た知識をしっかり未来への後輩に託せるように形に残していくことだと思っています.頑張ります.

 

エンジン系長 工学部航空宇宙工学科3年 岳山航大