私にはまだ、後遺症的なものがたくさん残っています。特に身体的な面では、長男が入院して、2.3ヶ月目から頭痛が、肩が張り、首も回らず、腕が上がらなくなってしまいました。でも、苦しみの真っ最中の時には、自分の体の治療のことなんか何も考えられませんでした。一昨年の春頃から、整形外科の病院には通院をし始め、首の牽引をしてもらい、痛み止めの薬も処方して頂いているのですが、精神的にすごく不安定になっていたためか、検査でMRIを撮ることになった時に、閉所恐怖症のような症状がでてしまい、MRIの機械に入ることができませんでした。長男が無給ながら仕事に通うようになったころから、やっと落ち着いて、自分の治療をする心のゆとりがもてるようになってきました。気功やマッサージ、温熱療法など色々試したところ、温熱療法が一番効果があり、続けられるうちに最近ようやく少しずつ首が回るよになり、視界が広がりつつあるような状態です。
でも、こうした苦しみと、プログラムによる回復を通して、私は自分自身のものの考え方や見方が大きく変わってきたのを感じています。昔の私は、薬物依存になる人は、よほど本人がおかしいか、親の育て方が悪いのだと思っていました。普通の家庭に育った人には縁がないと思っていたのです。しかし、長男がこういうことになって、薬物依存症という病気は何時、誰にでも起こりうる病気なんだということを学びました。また、いやおうなしに目を向けさせられたかたちですが、勉強するうちに、自分の価値観が独断と偏見でゆがんでいることも知りました。私はそれまで、自分でも嫌に感じるときがあるくらい、生真面目な性格で、高校生のときから「不良」と呼ばれる人たちが大嫌いで仕方ありませんでした。校則というのは守れば勉強がしやすくなるのに、なぜわざわざ破りたいと思うのかしらと思っていたものです。
でも今は、自分の理解の枠外にいた人たちにも関心の目を向けて、共感しようとしている自分がいます。嫌だなと思っていた人に対しても、それほど気にならなくなってきました。かつての自分は、謙虚に生きていきたいものだと思いながらも、気がつかないうちに、どこかである種の傲慢さが身についていたのだと思います。
だけど正直な気持ちをいうと、多少ひとから嫌われていてもいいから、こんな苦しい経験だけはしたくなかったという気持ちもあります。まあそんなことを笑い話でできるようになってきたのは、私が回復してきたことの表れなのかもしれません。
12ステップのステップ1、「無力」ということはつくづく実感しました。子どもたちに対して多くは望まないが、人間としてしなければならないこと、してはいけないことをわきまえた、社会に通用する人になってほしいと念じて育てたつもりでした。それなのに私は一体、母親として何をしてきたのだろうと思いました。そういう「無力感」にいつも捕らわれていました。
ハイヤーパワーというのは最初、よく分かりませんでした。長男の問題が起きる日までは本当に毎日、気楽に暮らしていたのです。私は以前から富士山が大好きで、出かけた帰り際に富士山が見えるとそれだけで嬉しかったものです。長男の問題が起きてからは、犬の散歩のときに毎日、富士山が見えるとことまで行って「助けてください」と祈っていました。何日か、曇っていて富士山が見えない時が続きました。それがある日、真っ白に雪化粧して朝日に輝き、雄壮で神々しい富士山がパーッと開けて見えたのです。そのとき「しっかりしなさい、あわててはいけない」と富士山にいわれたような気がしました。それ以来、富士山を見るたびに「よろしくお願いします。」と祈っていました。富士山が雪雲に隠れている状態、それが今の私だ。雲が晴れたときに富士山は、あれだけ美しい姿を見せてくれる。あの富士山のようにどっしり構えていればきっと、晴れる日はくるはずだ。そう心に言い聞かせてきました。
私の父は晩年に苦労した人でした。子どもを大勢抱えて満州から引き上げてきました。「誠実に生きろ」と、それだけが口癖のような人でした。父がなくなった後も何かあるたびに「お父様・・」と相談すると「誠実」という言葉が返ってきていました。でも、長男のことがあってからはもう「誠実」だけではダメでした。それにかわるものが富士山だったのかもしれません。そして、富士山に向かって祈るようになったときに、12ステップのいう「ハイヤーパワー」という言葉が私にもなんとなくわかる気がしたのです。
私はいまも相談室で開かれている12ステップを勉強するグループに出続けています。長男の問題で始まったプログラムですが、今は自分の問題を見つめるために相談室に通い続けているのです。「薬物依存症です」とお医者様から宣言を下され、暗闇の地獄の底に突き落とされ、ここからどうやって這い上がればいいか分からず途方に暮れていた5.6年前の私。そして今、相談室のカウンセラー、プログラムを通して出会った仲間に助けられて回復しつつある私。現在もこの問題で苦しんでいる家族の方々に対して何かお役に立てることがあればと、「はあもにい」の活動にもできるだけ参加しています。細く、永く、無理をせずに・・・。
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当センターは臨床心理士が主宰する相談機関で、家族支援を通して本人を回復へ導くプログラムやカウンセリングを行っています。
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