2015年11月15日に書いた、
【極私的漫画史】漫画的表現の源流を独自に探る試み - その1
という記事の続編です。
記事の概要ですが、
所謂「漫画」のまともに無かった時代に描かれた絵で、
現代漫画を彷彿とさせる表現や絵柄の作品を、
色々と紹介しようという試みです。
因みに私は、漫画史や美術史については、
専門家と言える程のしっかりした知識は持ち合わせていません。
あくまで主観的に、
「現代漫画としか思えない絵柄だなあ」
と観ていて驚いたものを紹介するわけです。
それでは行きます。
・・・っと、その前に、前菜としてこんな作品を・・・。
猿猴捕月図
伊藤若冲(1716-1800年)
「江戸時代のリラックマ」の異名を持っています。
伊藤若冲 猿猴捕月図 江戸時代のリラックマ by itou jakuchu - monomonoshiimono - Tumblr
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テオドール・セヴェリン・キッテルセン(1857-1914年)
Theodor Severin Kittelsen
(画像はコチラから)For tidlig nedkomst
(画像はコチラから)archive-ru.com: kittelsen.ru - Theodor Kittelsen
動物は魂を持っているか?(1893年) - 上2図とも
Har dyrene sjæl? (Har dyrene sjel?)
テオドール・キッテルセンは、
19世紀末から20世紀初頭に活躍した、ノルウェーの画家です。
Wikipediaによると、
「ノルウェーで最も人気のある画家の一人」
だそうです。
この画家は、私が以前よりお気に入りの画家で、
主に、自然を描いた絵画(風景画)や伝説、説話の絵画、
中でもとりわけ、ノルウェーの伝承に登場する、
妖精、トロール(Troll)の絵で有名です。
(画像はWikipediaから)
ネッケン(1887-1892年)
Nøkken
ヨハン・スヴェンセンのCDジャケットに、
キッテルセンのトロールの絵が時々使われたりしています。
私がキッテルセンを気に入った理由というのは、
彼のトロールの絵を見ていると、
水木しげるの描く細密な妖怪絵を思い出すからです。
私は彼の事を「ノルウェーの水木しげる」と呼んでいます。
で、キッテルセンの絵を色々と見ている中で、
以下に示す絵がありました。
(画像はコチラから)Wikimedia
月光下の踊り(1901年)
Dans i Maaneglans
動物たちが躍動感を見せる絵ですが、他にも、
マンガチックだなあと思う様な作品が色々とあったのです。
なので、「もしや」と思っていたのです。
そうしたら、キッテルセン紹介記事の冒頭に示した、
『動物は魂を持っているか?』の存在を知ったのです。
私の「直感」は間違っていなかったのですが、
正直言って、驚きました。
通常、19世紀の漫画(諷刺画)というと、2頭身や3頭身だけど、
顔は特にデフォルメされておらず、
リアルな感じというイメージだと思うのですが、
この作品は、思いっきり現代漫画風な絵柄です。
特に2枚目は、齣枠をはみ出していたり、
キャラクターが活き活きと躍動感に溢れています。
何かこう、19世紀末に描かれた様には見えないのです。
20世紀後半以降に描かれた様に、私の目には映りました。
そして一番目を引いたのが、目が「縦気味」な所です。
目が縦気味の描写は、
それ以前から諷刺画などであったのですが、
(驚きの表情で目を剥いている描写など)
キッテルセンの「縦目」は、20世紀以降、
漫画の世界で当たり前の様に描かれる様になった、
「楕円の縦目」なのですね。
以前、「日本の漫画はどうして目を大きく描くのか?」
と欧米人が疑問に思ったみたいな話があったと思います。
で、結局は、
「目を大きく描く事で魅力や説得力を持たせているのだ」
と理解してくれた様です。
また動物は、種類によっては、
元から大きくてクリッとした漫画の様な目を持っているものもいます。
しかし、キッテルセンの
『動物は魂を持っているか?』
に登場するキャラクターの目は、
そういうのを差し引いても、「漫画の目」なのですね。
瞳の描き方が、独特なのです。
黒目は光が反射して「C」の形になっていますが、
これは、パックマンの様な形の黒目の先駆けの様にも思いましたが、
どうでしょうか?
『動物は魂を持っているか?』
のアルファベットの題名を2種類示しましたが、最初のは、
キッテルセンによる表記に従ったもので、デンマーク語と思われます。
というのも、昔のノルウェー語は、
デンマーク語の影響力が強かったからです。
括弧内のは、ノルウェー語のブックモール表記です。
「コミック・ストリップ」の実質的元祖と見做されているのは、
『カッツェンジャマー・キッズ』(The Katzenjammer Kids)1897年
と言われ、また、
『イエロー・キッド』(The Yellow Kid)1895年
もその様に見做される事もあるそうですが、
『動物は魂を持っているか?』はこれらよりも先です。
しかし、Wikipediaには「イエロー・キッド」よりも更に早い、
『ザ・リトル・ベアーズ』(The Little Bears)1892年
というコミック・ストリップがあるとも出ていて、
『動物は魂を持っているか?』よりも僅かに先でした。
(この作品については、後述します)
The Little Bears - Wikipedia English
因みに、大きな楕円の縦目がはっきりと出ている絵です↓
(画像はコチラから)Omfavnelse by Theodor Kittelsen on artnet
抱擁
Omfavnelse
悪魔(?)の目が、思いっきり「縦」ですねェ・・・。
と、こんなわけで、キッテルセンの作品を紹介しましたが、
日本の美術館で展示されているのでしょうか?
よく分からないのですが、少なくとも、画集は出版されている様です。
『ノルウェー トロルのふるさと』(MEDUSA)
ノルウェートロルのふるさと - 古本買取販売 ハモニカ古書店
1993年の出版だそうですが、現在は絶版だそうです。
因みに、キッテルセンは、昨年(2014年)に没後100年だったので、
昨年弊ブログで取り上げれば良かったなあと思っていますが、
地元では記念イベントが行われていたのかどうかについては、
ちょっと分かりませんでした。
(画像はWikipediaより)
キッテルセンの自画像(1888年)
Selvportrett
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ポール=ジョゼフ・アドル(1835-1875年)
Paul-Joseph Hadol
(画像はWikipediaより)
1870年のために描いたヨーロッパの新しい地図
Nouvelle carte de l'Europe dressée pour 1870
フランスの諷刺画家、イラストレーター、広告デザイナー。
Paul Hadol - Wikipedia Français
当時のヨーロッパ諸国の状況を漫画風に表したもので、
人や動物の仕草を、領土の形に上手く当てはめています。
この手の絵は色々とあると思うのですが、
もしかしたら、コレが元祖なんでしょうか?
(断言はしません)
私が驚いたのは、1870年頃に描かれたにしては、
絵柄がかなり所謂「漫画風」にデフォルメされている所。
目がクリッとしていて、如何にも、
20世紀初頭のアメリカの漫画、アニメキャラクターみたいな?
「ベティ・ブーブ」と共演させても違和感無い感じ?
でも、アドルのその他の作品を画像検索で調べたものの、
「これは」と思う物を見つけられませんでした。
実在の人物の胴体を動物にした諷刺画が殆ど。
こういう絵柄でもっと他にも色々描いて欲しかったですね。
40歳の若さで亡くなったのが何とも残念です。
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J・J・グランヴィル(1803-1847年)
J.J. Grandville
(画像はコチラから)SC 2004:19-10 - Five College Museums Collections Database
予算の檻のなかで税金を吸い上げる怪物の餌食にされる人々(1833年)
Le Peuple livré aux impôts suceurs dans la grande fosse du budget
(画像はコチラから)Photos of The Mythical Zoo - The volvoce by J. J. Grandville
ヴォルヴァス - 1833年流行のコレラを怪物にしてみた
Le Volvace, comme le choléra en 1833
(※ネット上には「Volvoce」「Volvox」表記もあり混乱気味)
(画像はコチラから)Teleleli - A-Political.
双頭獣の檻 - 「もうひとつの世界」より
La fosse aux doublivores
19世紀前半に活躍した諷刺画家。
若い頃に、胴体は人間だが首から上が動物で描かれる、
『現代版変身譚』(Les Métamorphoses du jour)1828-1829年
で名声を確立。
(私は『フランス版鳥獣戯画』と勝手に命名)
後年は、諷刺画から幻想的な作風へと変化し、
花の擬人化である、
『花の幻想』(Les Fleurs animées)1847年
(日本で出版されています)などを制作。
『もうひとつの世界』(Un autre monde)1844年
の幻想的な作風は、
シュルレアリスムの先駆けと思われる。
晩年(といっても40代)は、作品が理解されず、
愛する家族が亡くなるなど不幸が続いたため、
心を病み、精神病院で亡くなる。
グランヴィルは、
恐らく隠れ(?)ファンとか結構いそうな気がします。
私は、
『諷刺の毒』(埼玉県立近代美術館)1992年
という展覧会で初めて知ってファンになり、
いつかは、グランヴィルだけの展覧会でも開催して欲しい、
と願っていたところ、その19年後に、念願の、
『グランヴィル-19世紀フランス幻想版画展』(練馬区立美術館)2011年
が開催されました。
その時の鑑賞記を記しています。
J.J.グランヴィル展(J.J.Grandville)練馬区立美術館(20年ぶりの再会)
2011年4月6日
擬人化された動物漫画好き(要はケモナー)という理由で、
グランヴィルが好きというのもあるのですが、その他にも、
「ウルトラ怪獣」の先駆けみたいなデザインも行っており、
彼の想像力妄想力の凄まじさは正直羨ましいと思っております。
そういうわけで、ウルトラ怪獣の様な作品を集めてみました。
この一つ前の記事では、自作の架空動物を紹介しましたが、
それとも内容的に関連すると思います。
【絵画・イラスト】幻想生物シリーズ Fantastic Animal Series (再掲)
つまり、グランヴィルは「私の先輩」という所でしょうかね。
でも、グランヴィルを超えよう等とは思いませんし、
彼の足許にも遠く及ばないかも知れませんが、
架空生物が上手くデザイン出来ればいいなと思っております。
(画像はWikipediaより)
グランヴィルの肖像画 - 画:エミール・ラサール(1840年)
Portrait par Émile Lassalle
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ジミー・スウィナートン(1875-1974年)
Jimmy Swinnerton
(画像はコチラから)The Little Bears - Wikipedia English
リトル・ベアーズ(1892年)
The Little Bears
スウィナートンは、アメリカの一番最初の漫画家なのでしょうか?
そして、アメリカの一番最初の漫画が『リトル・ベアー』なのでしょうか?
1892年の時点で、今と変わらない漫画の絵柄を確立していますね!!
しかも、1875年生まれなので、
若干17歳位で描いたという事になります。
ちゃんと吹き出しもあるし。
そして更に、衝撃的なのが・・・↓
(画像はコチラから)Comic Strips: Jimmy Swinnerton - AnimationResources.org
アララト公園の音楽
Music in Ararat Park
「―02」の表記が「1902年」を意味するのかどうかはよく分かりませんが、
もしそうだとすれば、今と殆ど変わらない擬人化動物漫画を、
20世紀も始まったばかりの頃に既に描いていたという事になります。
色々と驚きの連続です!!
(画像はコチラから)Jimmy Swinnerton - Bodega Bay Heritage Gallery
スウィナートンの肖像写真
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というわけで、漫画的描写で、
時代を先駆けているのではないかと
私が勝手に思いこんでいるものや、
ウルトラ怪獣の先駆けみたいなものをご紹介いたしました。
次回は一応最終回のつもりですが、
もしネタをその後も見つけたら、
その後もこのシリーズを続けるつもりです。
次回は「中世・古代編」となります。
古代にも、現代漫画っぽい絵柄の絵があるのです。
これにも正直驚いたのですが・・・。