柳原陽一郎JIROKICHI SESSION 通算20回突破記念Special/高円寺JIROKICHI(09/02/23)
ゲスト 久松史奈vo.
1.ファミリープラン
2.サボテンちゃん
3.涙があふれてる
4.大丈夫
5.妄想ヘルスメーター
6.オリオンビールの唄
7.君を気にしてる
8.ゴーイングホーム
9.徘徊ロックNo.5
10.King of Rock'n Roll
11.天使の休息
12.そっとI think so
13.Happy Birthday
14.5月の空
15.ブルースを捧ぐ
16.ジャバラの夜
17.ブルーアイズ
18.Love
19.徘徊ロックNo.5
20.ふしぎな夜のうた
今月はJIROKICHI35周年月間で、毎日のメンバーがかなり豪華であった(その分3月はしょぼめ)。
前売りありの、ゲストありので、普段のJIROKICHIライブとはかなり趣が違っていた。
ただ、前売りがあったので、普段なら整理券と入場で2回並ぶのだが、1回で済んだのは楽であった。
ゲストは豪華ではあるのだが、少々心配なところはあった。
ゲストに遠慮して、余所行きの選曲や演奏に落ち着いてしまうのでは、というものである。
カッコよいところを魅せようと、カッコよさそうなラインナップになってしまう気がしていた。
だから、あまり期待しすぎないように行くことにした。
整理番号順に入場、問題なく座れる。
日曜日のJIROKICHIライブは立ち見でギッシリになることも多いが、今回はかなり余裕がある。
平日のせいか、ゲストが出て曲が少なくなるせいかは分からない。
今回もギターはなく、ピアノ1本での演奏が確定する。
開演時間から程なく、柳原陽一郎登場。
普段着とさほど変わらない、青系のシャツにジーンズ?系のズボンの出で立ちであった。
「ファミリープラン」でスタート。
この曲は、ギターで弾かれることが多い。
ギター曲の多くを、ピアノに移植しているところなのだろう。
「ママは冷蔵庫」「流線型」など、象徴的な歌詞が印象的で、好きな歌詞ではある。
伴奏の付け方は「ブルーアイズ」のピアノ的に、軽やかな方向を目指しているように見えた。
「サボテンちゃん」は、しっとりとした伴奏になる。
歌詞は、3人称的な人物描写と2人称的なメッセージ性が共存したような立ち位置である。
この曲は、間奏のコード進行や後奏が美しく、水谷浩章のアレンジが壊れないように流用されているのかもしれない。
「涙があふれてる」は、前のモード(前の前かもしれないが)でよく演奏された曲である。
アルバムが再発されるとのことで、またよく演奏されるようになった。
以前にも似たようなことを書いたが、この頃のモードは「立ち止まって思索し、また歩き続ける」感があった。
今のモードは、「肩の力を抜いて歩き、出会ったものを受け入れていこう」という自然体である。
今回再発されるアルバムは、ロックシンガーへの志向性を持っていたときの産物であるようだが、その試行錯誤も感じ取れる。
やはり、ゲストもいて気合が入り調整が万端なのか、声の出がよい。
同じく再発の、「大丈夫」へと続く。
ボサノバ調のメジャーセブンス系の曲なので、アレンジをそれっぽくすると、また面白いかもしれない。
そういえば、「間違いなんかじゃない」を昔、レコーディングのとき「間違いだらけ~」にしようとして、皆に止められたらしい。
何回前か忘れたが、MCでそのように言っていた。
「妄想ヘルスメーター」は、最近必ず演奏している。
アンコールのMCで、久松史奈が歌詞を大絶賛していた。
ちなみに、「酒を飲んで呂律が回らなくなってきた」という時事ネタが、最後の語りで入った。
この曲は、曲調を絶望的に暗くしてこの歌詞を付けたのが妙なバランスを産み、よかったのであろう。
「オリオンビールの唄」も、ピアノで弾くのは始めてである。
いよいよ、ピアノマンとして生きていく意志が出てきたと思われる。
ロックシンガーへの志向性を外れたため、拍車をかけたところもあるのであろう。
だが、正直なところ、ノーテンポで弾く部分と、低音部で大きな溜めを設ける弾き方は引っかかるところがあった。
ギターであれば、ある程度躍動感は途切れることなく続き、その中で微細な溜めを設けることは容易である。
しかし、ピアノはテンポをキープするための楽器でなく、音の減衰もないので、溜めたいだけ溜められ、無限に自由が利く。
「アンドロメダ」からはアップテンポ気味になったが、個人的には本当に強調したい部分のみテンポをいじった方が、聴き手に伝わりやすいのではと感じた。
「35周年なのでやらない曲を」とのことで、「君を気にしてる」の演奏となる。
極端なレア曲ではないが、この曲を歌うときは何かを思わせるMCが軽く入ることが多い。
いつものことではあるが、この日も熱演で、前半のハイライトであった。
「砂漠で別れた~」のあたりが、心に沁みる。
「ゴーイングホーム」で前半終了。
この日のMCでは何も言っていなかったが、派遣切りのニュースなどから生まれた曲らしい。
ただ、歌詞だけ見れば原点回帰への志向性が見られないでもない。
JIROKICHIでよくライブをするようになったのも、その一環かもしれない。
後半は「徘徊ロックNo.5」でスタート。
前半気合が入ったのか、少し喉の調子が前半と変わった。
前奏は「風博士」などに近い軽快な感じだが、歌詞は現在のモードのど真ん中の曲である。
おそらく、しばらくはこの曲を演奏しないことはないと思われる。
JIROKICHI35周年のお祝いに作った「キングオブロケンロール」だが、表記は英語かカタカナかは分からない。
「レスポール」や「チョーキング」など、それっぽいキーワードは出てくるが、あまり「ロケンロール」な曲調ではない。
和音はジャジーなところもあり、リズムもブルースがかっている感もあった。
ここで、久松史奈の登場となる。
デビュー当時のジャケットを見て心の準備をしていたが、不自然に細すぎた感のあった輪郭はナチュラルになり、違和感なくJIROKICHIの舞台にマッチした。
そこでいきなり「天使の休息」となる。
おそらく、この曲しか知らない聴衆がほとんどで(自分もそうだが)、アンコールあたりで「さよなら人類」あたりと一緒に演奏するのかと思っていた。
声質はなかなか興味深い。
弦楽系ではなく、吹き込んだ管楽器の豊富な倍音の音に近い。
NOKKO系の抜けた高音域の倍音に、安定した基本フォルマントを組み合わせたような特殊構造で、歌詞も聞き取りやすい。
馴染みのある歌に、この声なので、十分楽しむことはできたが、サビでハモってほしいとも感じた。
MCで血液型の話となり、会場で挙手を伴うアンケートが行われた。
A型は非常に少なく、B型は柳原陽一郎のサイド側一角にのみ固まっている。
O型がほとんどで、AB型はほんのわずかである。
カットスイカに喩えるなら、赤い部分がO型、皮と白い部分がB型、種がA型で、上にかけた塩がAB型と言えよう。
「そっとI think so」という曲からは知らない曲ばかりである。
岩崎良美の「I think so」とは関係のない、別曲である。
バラードっぽい曲調だったかと記憶しているが、最後の「あーいしーんそー」の部分でハモリが聴けたのは非常によかった。
たま時代は、「ハモりハモられ生きていた」ところがあり、それは他のメンバーにも言えることであった。
メインのボーカルだけではなく、コーラスであの声質が被ると、危うい調和の美しさが感じ取られ非常によかった。
先日の「電柱」で知久寿焼とワタナベイビーとのハモリが聴けたが、この日もハモリの美しさを実感できた。
最近、柳原陽一郎は、ボーカルに関してはかなりよいポジションにいる。
水谷浩章や鬼怒無月(きどなつき)など、飛び抜けて技術のある音楽家とセッションをしても、ボーカルは全面的に任されている。
合いの手やユニゾンコーラスが入ることがあっても、対等の力量で3度や5度の声が被ることはほとんどない。
ほぼ最初で最後に聴いた「対等の」ハーモニーは、「蜃気楼中央線」のワタナベイビーとのセッションまでさかのぼる。
もっともそれも、メインボーカルを取っていたので、ハーモニーの引き立て役で本気を出したのを聴くのは初めてだったかもしれない。
もしかすると、カルメン・マキとのステージでは本日と同じような場面があったのかもしれないが、残念ながら行っていない。
「Happy Birthday」は3拍子の明るい曲。
ファンがいたのか、ステージで求めたのか、2と3で叩く手拍子が起こる。
TOMOVSKYで言えば、「ワルクナイヨワクナイ」型の手拍子である。
普段行くライブは、手拍子どころか拍手も音が全部消えてから叩くところにしかあまり行かないので、慣れない。
この曲も、美しいハーモニーが聴けたのは嬉しい。
そして、この日のために作られた「5月の空」の演奏となる。
作詞が久松史奈で、作曲が柳原陽一郎であった。
歌詞は初恋のときの思いを歌にしたもので、爽やかな世界であった。
曲は「柳原陽一郎の和音」とも言うべきコードが多用されていて、上品な作りになっている。
具体的には、「涙があふれてる」的な歌詞を浮き立たせるコードに加えて、「回れ糸車」的な微妙な中間色コードで文末を修辞している。
水谷浩章と関わった以降の曲では、「あの娘は雨女」のようなシンプルな和音展開は減り、音楽的に柔らか味を付けようとしているように感じる。
歌詞も曲もハモリもよい曲なので、ぜひ音源化されてほしいと思う。
予想通り、現在のテーマソング「ブルースを捧ぐ」で本編終了。
アンコールで「ジャバラの夜」が演奏され、驚く。
本日は、「余所行き」の選曲に徹すると思われていたからだ。
ピアノ一本での演奏は記憶がない。
「じゃばらじゃばらばじゃばらばば」の部分が、「カモン」で求められ舞台と客席との掛け合いになる。
歌詞も、本日の他の曲とはだいぶ異なる雰囲気であった。
だが、その後出てきた久松史奈の評判もよかったので、次回の共演があればこのような曲もセッションしてみても面白いのではないだろうか。
例えば、久松史奈と「オゾンのダンス」や「とんかち」あたりを歌ってほしいとも思う。
久松史奈のボーカルで、柳原曲の「ブルーアイズ」の演奏となる。
この曲は、おそらく一番自在にピアノを弾きこなせる曲である。
柳原幼一郎時代のソロ曲は、ハレルヤなどのカバー曲を抜かせば3曲ある。
そのうち、「みんなおぼえてる」「アメリカンボーイ」はギターでの演奏が多いが、「ブルーアイズ」はピアノ伴奏である。
たま時代の曲は一人で演奏するには時間がかかったとのことなので、ソロ演奏で一番長いキャリアがあるともいえるであろう。
「クラクション」の部分の後の半音で重ねた音を擬音化するなど、細かい工夫も安定感もある。
この曲は自分の曲のためか、コーラス(というより合いの手)もかなり遊びの要素を入れていた。
最後に外国曲(ナット・キング・コール)のカバーで「LOVE」。
山口智充(通称「ぐっさん」、「もっさん」ではない)がNTTコミュニケーションのプラチナ・ライン
のCMで歌っている歌、と書けば分かるかもしれない。
よい雰囲気で終わり、よかったと思っていたら、まだアンコールが鳴り止まない。
再度、一人で柳原陽一郎の登場。
リクエストはないですか、と客席に声をかける。
スーツ姿のビジネスマン(若くはない)が挙手し、「第2部の1曲目」と答える。
「徘徊ロックNo.5」は、最近のライブでは必ず聴ける曲である。
レア曲が来ると覚悟していた本人には、意外な反応だったかもしれない。
「第2部の1曲目」という言い方は、あまり常連ファンはしない。
おそらくは柳原ライブに来るのは初めてで、もしかすると久松史奈の方のファンなのかもしれない。
だが、この曲には日々の生活に疲れたビジネスマンには、一つの前向きなメッセージが込められているとも考えられる。
多分、無防備で聴いていた歌詞の中に、琴線に引っかかる部分があったのだろう。
正直なところ、自分はこの場面ではレア曲を聴きたい。
だが、最近の柳原陽一郎のライブはほぼ全部出かけ(ウェアハウスはなかなか行けないが)、様々な曲を耳にしている。
アンケートで書きまくったおかげで、「満月ブギ」も「ジャバラの夜」も「寒い星」まで引っ張り出すことができた。
リクエストの場面でいつも心は動くが、やはりこのような客に権利は譲るべきかなとも思う。
度胸があれば、「とんかち」とか騒いでいたかもしれないが。
昔、JIROKICHIでお披露目をしたという「ふしぎな夜のうた」でクローズ。
この曲と「ジャバラの夜」は、普通にリクエストしたかった曲なので素直に嬉しい。
「ふしぎな夜のうた」は、前にも書いたが、他の曲にないほどの透明感がある歌詞と旋律である。
知久寿焼でいえば、「いわしのこもりうた」の存在に近い。
そう言えば、「不思議な~月の夜」のシリーズも、もしかしたらこの曲となんらかの関係があったのかもしれない。
今の組み合わせが内外で好評であったために固定化しているが、もともとはいろいろなミュージシャンとツアーを行う企画だった覚えがある(記憶違いなら申し訳ない)。
ゆくゆくは柳原陽一郎ともセッションを、と企てていたのかもしれないとも思うが、考えすぎであろうか。
総括として、普段聴けない側面や、新たな方向性への一歩という点では、来る価値の十分にあるライブであった。
個人的には、前回の440よりも楽しむことができた。
「天使の休息」と「さよなら人類」の距離から、おそらく「今回はパス」したファンも少なくはないであろう。
だが、どんな相手でも埋没することのないものを、今の柳原陽一郎は持っている。
できれば、次の共演では「余所行き」モードを払拭して、あきれられるぐらいまで突き抜けてほしいとも思う。
アルバム「長いお別れ」は、もうすぐ発売である。