上記のノンフィクション(実話)を元にした映画。
日本で公開されたのは去年、2020年。
主演は、メル・ギブソンとショーン・ペン。
どういう内容かと言うと、
オックスフォード大英語辞典を苦心して作り上げた人たちの、努力の物語。
その中心となった主幹者がメル・ギブソン演じるジェームズ・マレー博士で、
一方のショーン・ペンは、マレー博士率いる辞典作成者たちが事例収集に行き詰っているという話を知り、単語の実用例や、言葉の意味をつづった手紙を博士宛てに送ってくる、そういう謎の人物の役をやっている。
ウィリアム・マイナーというその人物は、しかし実は精神を病んでいて、過去に殺人事件を起こしてしまった男であり、治療所のようなところに半ば軟禁状態となって暮らしている人物なのだ。
だからタイトルは『博士と狂人』。マレー博士と狂人ウィリアム・マイナーの物語。
この二人の交流を主軸にして物語が展開してゆく。
鑑賞した上での結論、感想としては、
そもそも作り上げること自体至難の難事業、到底実現不可能と思われた、すべての英語を含めた大辞典を作るという大事業。その過程が描かれていること自体が興味深い。
しかも辞典作成の物語のみにに留まらず、そこに協力者として手紙を送りつづけるマイナー医師との関係を描いている部分がいっそう興味深く、この先どうなるのだろうと、最後まで視聴者を引き付けて止まない魅力を持っている。
そうした名作、傑作であると、わたしは見ていて感じました。
冒頭から間もないシーンで、マイナー医師が、路上で出会った人物を、自分を付け狙う男だと勘違いして、逆に逆襲をかけて追いかけて、最後には殺してしまう場面が描かれている。
勘違いされて追われる男は、なぜ自分が銃で狙われるのか、さっぱりわからない。必死になって走って逃げ、自宅の入り口にまで到達するのだが、そこで妻の名を呼びながら結局助からず、マイナー医師に撃ち殺されてしまう。
マイナー医師は精神を病んでいて、被害妄想症にかかっていて、現実に対する正常な判断が出来ない。だからそうした無関係の男を射殺する、という狂気の凶行を行なってしまったのだ。
殺された男の妻、そして子供たちは、一家の主を失って、貧窮のどん底に落ちてしまう。
この冒頭にあるシーンは、まるでアクション映画かサスペンス映画か、といった衝撃的なシーンであり、しかして、これは過去にあった事件としてその後の物語展開のベースとなる、重要なモチーフとなり、
そうして物語は、大辞典作成のメインストーリーへと切り替わってゆく。
男を殺したマイナー博士は、罪の意識を抱きながら、精神病者を収容する治療所の中で、その後の人生を生きている。自分が殺した男の家族への償いをしたい。そうした思いでいるマイナー博士の苦しみ。
それと並行して、マレー博士たちが苦心惨憺して作り上げようとしている、大辞典作成の壮大なドラマが交錯してゆく。
マレー博士自身、驚くほどの博識の人物で、あらゆる言語を解し、あらゆる名著を読み込んで知っているほどの博識な人間なのだが、それでも、辞典に収録されている単語についてすべてを押さえることは不可能、だから必要な事例を集めきれないことがあって、途方に暮れてしまっている。
そうしてついに、英国の市民全体に向けて協力をつのるのだが、その多くは必要とする事例データには程遠い内容しか持っておらず、辞典作成は頓挫しかねないほどの状態に陥っている。
そこへ、マイナー医師からの大量の手紙が届くのだ。
その数は膨大な量であり、マレー博士たちが必要として、突き止め得なかった単語の事例を、マイナー博士はあらゆる名著から引用して、この事例を使って単語の説明とすればよい、と送ってくるんですね。
ジョン・ミルトンの名がよく出てきます。ミルトンの著作に使われている、という事例を使えば、それはその単語の使用事例として十二分に証拠としての価値を持つことになる。
マレー博士とスタッフは大喜びして、マイナー医師から届いた手紙の知識を使って、辞典の作成を続けることが出来たのでした。
しかして … マイナー医師の罪と罰、その苦しみと改悛の思い。
彼を憎む、被害者の妻、そして子供たちとの関わり合い。
こちらのテーマの重さが、ドラマに重厚さを与えて、わたしの興味を非常にひきつけてやまない。
マイナー医師を演じるショーン・ペンの演技が素晴らしく、画面に目が釘付けにされます。
おススメ。
原作のノンフィクションも読んでみようと思い、映画視聴後にすぐに購入してしまいました。
題名だけは知っていたんですけどね。こういう内容だったのかと。
映画というのは、手軽に読むには躊躇するような、未知のテーマの著書などを、映像やドラマを通してその魅力を伝えてくれる、という素晴らしい効用がありますね。
そうして原作本を、いっそうの興味をもって読む時に、わたしたちはその都度あらたな何かを学ぶことが出来る。
映画も本も素晴らしいなぁ、と思うのでありました。