さて、最近、蔡李佛拳の中の套路、というかほとんど併伝武術のようになっている太拳をやっているのですが、この中にはムエタイお馴染みの、頭の処で両手を組み合わせて片膝を上げるというディフェンスがあります。
もちろん中国武術なので、動作一つに対して三つくらいの意味はある物なのですが、もっともシンプルな見方で言うなら、これはムエタイのブロックだと解釈が出来ます。
古式ムエタイの通称はドリアン拳法(ムエトゥリアン、ムエは拳法のこと)だそうで、固い肘膝で身体をよろって相手の攻撃に合わせてゆき、破壊的防御(南派武術によくある破橋)を行うことが流儀の基礎コンセプトであったことがうかがえます。
この動作なのですが、より詳しく説明いたしますと、片手を盾のようにして頭の脇に立て、もう片方の腕を直角に盾の腕の肘にくっつけます。
これで立体構造が作られて、強打に対しても丈夫な囲いが形成されます。
上部に張り巡らされた梁のようなこの防御の中から相手を伺いみて、攻撃に肘をぶつけてゆくようにして用います。
この動作は現代ムエタイでも生き残っており、私も格闘技時代にはなんども痛い目を見たり見せられたりしてきました。
この時に、盾の方の腕には地面に垂直に立てるバージョンと完全に頭を覆うようにするバージョンがあります。
後者の方は虎抱頭と言って、少林拳ではスタンダードな物になります。
立てている方には、格という言葉があります。
中国語では大人数の軍隊同士の戦いを戦と言い、集団戦のことを闘と言い、個人同士の戦いは格と言うそうです。
中国武術での格は個人専用の動きと言う意味ではなくて、両手腕が組み合っていて格子状になっているから格なのでしょうね。
この格も五祖拳にもある動きですし、洪拳の中にもあります。
しかし面白いのは、洪拳から出来た蔡李佛では太拳でしか出てこない。
もしかしたら、蔡李佛の標準的な間合いからすると格では少し距離が近すぎるのかもしれない。
蔡李佛は基本的に、防御の区別が無い武術で、なんでもかんでも届く範囲でひたすら手足をぶっつけてゆくというコンセプトがあるので、南派武術では例外的にレンジが遠い、長橋大馬の武術として知られています。
だからこそ、太拳のような肘膝と言う中節をぶつけて戦う特殊な拳術の套路が備わっているのかもしれません。
ですのでこの段階では、ついつい前腕で迎撃してしまわないように、我慢して近場まで相手をひきつけておいて肘膝を合わせるという練習を繰り返さないとなりません。
ところが、今度はこれに慣れてしまうと相手が兵器を持っているときに前腕を出せずについ肘で受け止めてしまう。これはちょっと痛めの経験となります。
とはいえまぁ、まともに頭部や頸部に食らうより良いですよね。
昔の泰族の戦士は、前腕に添うように作られた防具を付けていたそうです。いわゆるトンファーのような武器です。
蔡李佛では、両手に前腕くらいの長さの刀を逆手に持つ反手刀が伝わっています。
また、同じく格がある五祖拳でも、両手に鉄尺を逆手に持つようです。
拳術は兵器の基礎、どんな動きでも、必ず対応する兵器があるということなのでしょう。