二足歩行の機序 | サウス・マーシャル・アーツ・クラブ(エイシャ身体文化アカデミー)のブログ

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 私たちのしている中国武術と言うものは、人間の中に有る動物の本能を引き出して動く物です。

 二足歩行をして進化した物を、また四足歩行の動物のOSに戻してそれで二足歩行の動きをする、というのが中核コンセプトになっています。

 そういう不思議なことを中国の人は長い間研究していたのですね。

 だからこそ、人間が人間であることにとどまっていては出来ない力が引き出せます。現代の格闘技とは違う個性ですね。

 というようなことをしているため、先日、ラジオに大学の先生が出演していて、霊長類のこの二足歩行への進化の機序について話したときには大変興味深く聞き入りました。

 この先生が仰るには、元々すべての霊長類は樹上生活をしていたそうです。

 それが地上に降りた時に、我々人類になった。

 つまり、四足歩行が二足歩行に変化したのは、樹から生活の場を移動したことが原因だと言うのです。

 キャリステニクスのカリスマ、ポール・ウェイド・コーチの提唱するコンヴィクト・コンディショニングのシステムは、明らかに中国武術の影響下にあります。

 そのためでか、彼は良く人類が樹上生活の時に持っていた力を取り戻すのだと言うことを表現します。

 そして、キャリステニクスでは物を握るときに親指を使わない握り方、ウェイト・トレーニングなどで言うサムレス・グリップのことをモンキー・グリップと呼んだりします。

 この名の通り、樹上生活者である人類以外の霊長類は親指を使って握ることをしません。

 親指を使って握るのは地上生活者である人類の特徴だと言います。

 しかし、ラジオに出ていた先生が曰くには、この特徴が出来たのは、樹上生活があったからだと言います。

 そもそもが樹上生活を送る霊長類のご先祖様たちは、馬や牛のような四足歩行だったと言います。

 現在の猿のような手の遣い方も出来なかったかもしれない。

 それが、樹に昇るようになったことで空間認識能力が発達して脳が大きくなり、また左右の手の分業が出来るようになったのだと言います。

 タスクが増えたからだと言うのですね。

 つまり、手を使って上ると言う移動をしながら、別の手で食べ物を掴んだり、姿勢を枝の間でスティしながら一つの手で食べないといけない。

 これは立体の居住環境にいない平原の動物では発達出来ない能力ですね。

 こうして四肢の分業、指の使い分けが出来るようになったのは、樹上生活のためだと言います。

 そして、その状態での移動に用いる足としての前肢においては、指は地面を踏んで歩く時のようにまとまって動くというシステムを継承しています。

 しかし、自然環境が変化して住むべき森林を失ったとき、霊長類の前肢は手へと進化することになり、後肢は移動を専らとした足になったと言います。

 手指は独自進化して足指とは全く違う物になり、親指の機能という物が発達しました。

 親指と言うのは、他の四指と拮抗する指です。

 一般にはこれは、握りしめるときに多用されます。

 そのため屈筋優位の物となります。

 他の四指に対して一本で拮抗するのですから、親指にはとても強い筋力が伴います。

 ご自身の掌を見てみたら、母指球が他の指の指丘とは比べ物にならないくらいに筋肉が発達していることが分かるでしょう。

 これが親指の独自進化、屈曲筋の強さです。

 ここから独自研究を展開しましょう。

 この、強い親指の屈曲を手に入れたことで、人類は屈曲筋優位の身体に発展しました。

 物をつまんでひねるという力、掴んで引き寄せるという力は、人類独特の物です。

 東洋医学的に言うと、この自分の方に引き寄せる求心的な力は陰陽の陰の力です。

 陰の力の中心は身体の腹側です。ここに流れる経脈を陰経と言い、その真ん中にある大きな経絡を任脈と言います。

 人類が他の動物と較べて勝っている筋肉の第一は大殿筋です。

 これは生物中最大の比率を持つと言われています。直立歩行をするからですね。

 先ほど話に出た掌と同じく、直立歩行をするためにはバランスを取るための拮抗する筋肉が必要となります。

 それがお尻の前にある筋肉、つまり腹筋です。

 これが人類が特徴的に発展した筋肉の一つです。

 同様の腹筋があるのは同じ霊長類や上体を立てるカンガルーなどで、四足歩行の動物はこの腹筋が発達しません。

 身体の前側の筋肉は弱いんですね。

 ですので、お腹を見せると言うのは弱点を晒すということになります。

 百獣の王のライオンでさえ、人類のようなお尻と腹筋は持っていない。

 そして、この腹筋が無い結果、大きくて強い動物でも物を引き寄せると言う力は育ちませんでした。

 物凄く力持ちの牛や馬でも、物を引き寄せるということは出来ません。

 四肢を伸ばして押し飛ばすという力は強いのですが、陰側の力は弱いのですね。

 以上のような次第で、人類は握りしめるとか、引き寄せると言う能力を特異的に進化させた生物だと言うことができます。

 結果、人類は相対的に伸ばす力が弱くなりました。生活様式への適応です。

 これは中国武術的に言うと、打つ力の弱体化の側面を意味します。

 そこで、身体のシステムを引き寄せ形から押し伸ばし型に書き換えることで、動物の力を再獲得しようという次第です。

 いやしかし、樹上生活をする霊長類たちは片腕で気にぶら下がったり、身体を身軽に樹上に引き上げたりと引っ張る力が強そうではないかと思うかもしれません。

 あれは実は、伸ばす力を使っているのです。

 関節の運動だけを見ると人間のように屈曲筋で身体を引き上げているように見えますが、実はあれは下の方にある足で身体を押し上げているのです。

 はしごやジャングルジムを登るとき、私たちも同じようにしますね。

 そうやって身体を上に推し進めている。

 それと同じ要領で人を打つように身体のシステムを換え、器質的な発達を求めてゆきます。

 上半身を動物の前肢にし、下半身は馬のように強くする、という次第です。