欧州歴史映画「わが命つきるとも」 「ユートピア」の作者・トマス・モアを描いた名作! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「わが命つきるとも」

(原題:A Man for All Seasons)

 

A Man For All Seasons

 

「わが命つきるとも」 予告編

 

1966年12月12日公開。

ヘンリー8世とトマス・モアをもとにした戯曲の映画化。

興行収入:1275万米ドル。

 

受賞歴:

アカデミー作品賞
アカデミー監督賞:フレッド・ジンネマン
アカデミー主演男優賞:ポール・スコフィールド
アカデミー脚色賞:ロバート・ボルト
アカデミー撮影賞 (カラー部門)
アカデミー衣裳デザイン賞 (カラー部門)

脚本:ロバート・ボルト

監督:フレッド・ジンネマン

 

キャスト:

トマス・モア:ポール・スコフィールド

ヘンリー8世:ロバート・ショウ

アン・ブーリン:ヴァネッサ・レッドグレイヴ

アリス:ウェンディ・ヒラー

マーガレット:スザンナ・ヨーク

ウォルジー枢機卿:オーソン・ウエルズ

クロムウェル:レオ・マッカーン

 

Best Picture #39: A Man for All Seasons – Cinema Etc.

 

あらすじ:

イングランド国王ヘンリー8世(ロバート・ショウ)は、若く精力旺盛であった。

彼は王妃キャサリンと離婚し、王妃の侍女であるアン・ブーリン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)との結婚を考えていた。

しかしローマ・カトリックが国教であるイングランド国王の離婚には、ローマ法王の許しを得なければならなかった。

王の2度目の結婚を法王に弁護できる者は、サー・トマス・モア(ポール・スコフィールド)をもって他にないと考えられた。

モアは王の高等評議会の一員で信仰心あつく、ヨーロッパ中の人々から愛されていた。

ある時、モアがチェルシーの領地で、妻のアリス(ウェンディ・ヒラー)、娘のマーガレット(スザンナ・ヨーク)や友人たちとの宴を楽しんでいると、ウォルジー枢機卿(オーソン・ウエルズ)からの使いが来て、ハンプトン宮殿へ召喚された。

枢機卿はモアに、ヘンリー8世と王妃の離婚を法王が承認するよう取りはからうように依頼する。

しかしモアはそれを拒否した。

1年後、ウォルジー枢機卿は王の離婚実現に失敗し、大寺院で寂しく死んだ。

ある夜ヘンリー8世がモアの館を訪れた。

今や大法官の地位に就いているモアは、王に忠誠こそ誓ったがローマ・カトリックへの信仰から王の離婚に決して賛成しなかった。

間もなく評議会がカンタベリー大寺院で招集され、国王はローマ法王に対する忠誠を放棄し、自ら英国教会の主となることが発表された。

そうして王はキャサリンと離婚し、アン・ブーリンと結婚式を挙げた。

大法官の地位を躊躇なく棄てて、一市井人として静かな生活を送っていたモアだったが、ヘンリー8世が発布した国王至上法に反対したため、大法官秘書クロムウェル(レオ・マッカーン)の策により、査問委員会にかけられる。

遂にモアは反逆罪で逮捕され、ロンドン塔に幽閉された。

やがて彼はウエストミン・ホールの裁判にて死刑宣告を受ける。

モアは長い沈黙を破り、こう宣言した。

「私は王の忠実な召使いとして死にます。

だが王よりも第一に神のために死ぬのです!」と。

 

A Man for All Seasons (1966) - IMDb

 

コメント:

 

「ユートピア」の作者でもある、中世イギリスの賢人・トマス・モアの壮絶な生涯を描いた作品である。

 

ストーリーは、月並みにいえば、馬鹿な王様に死刑にされた賢人の物語だ。

ヘンリー8世という王様が、自分が一目ぼれした王妃の付き人である女性と結婚したいと望んだが、裁判所長官の立場にあったトマス・モアという高潔な人物に反対されてしまう。

そこで怒った王様はモアを反逆罪で逮捕して、死刑にしてしまったという、あり得ないお話だ。

王様の恋路の邪魔をした頭の固い役人がバカだったのか、王様がアホで残忍だったのか分からない話である。

 

これは史実なのだろうか。

 

トーマス・モアは、ルネサンス、宗教改革時代のイギリスの代表的人文主義者(ヒューマニスト)。

『ユートピア』の作者として知られている。

離婚問題でヘンリ8世を批判したため大逆罪とされ、1535年に処刑された。

モアは、オックスフォードでギリシア語を学び、ヒューマニズムを知る。

次いで法律を学び、法律家となる。

若い頃、ロンドンにきたエラスムスと知り合い、生涯の友情を結んだ。

エラスムスの『愚神礼賛』はロンドンのモアの家で書かれ、モアに献呈されている。

1515年、外交交渉の一員としてオランダに渡り、アントウェルペンに滞在中に『ユートピア』を書き始め、翌1516年にロンドンで発表した。

外交交渉での手腕を買われ、帰国後ヘンリ8世の宮廷に出仕し、裁判官として務め、1529年には法律家としては最高位の大法官に任命された。

しかし、そのころ、ルターの宗教改革の嵐がイギリスまで及んできて、宗教界は大きく揺らぎ始めた。

トマス=モアは、ローマ教皇から信仰擁護者とされたヘンリ8世を支持し、ルターの改革には反対し、カトリックが唯一の正当なキリスト教である立場を守った。

ところが、ヘンリ8世は、男子世継ぎを得るため王妃の離婚問題が起こると、モアはローマ教会の認めない離婚は不可であるとし、さらにヘンリ8世がローマ教会からの分離を図った首長法(国王至上法)の制定に対しても、俗人が教会の首長となることは不可能であるとして賛成せず、大法官を辞任した。

ヘンリ8世は、反逆罪に当たるとしてモアをロンドン塔に幽閉、裁判の結果死刑が確定し、1535年7月6日に断頭台で処刑された。
その代表的な著作である『ユートピア』は1516年に発表され、新世界の独立国を訪ねるということに仮託して、当時の絶対王政のあり方をするどく風刺し、またエンクロージャー(第1次)の進行する社会を告発した。

この書はルターの宗教改革の前年であった。

「エンクロージャー」というのは、絶対王政時代のイギリスのテューダー朝・エリザベス1世の時期に典型的に見られる、領主および富農層(ジェントリー=地主)が、農民(小作人)から取り上げた畑や共有地だった野原を柵で囲い込んで羊を飼うための牧場に転換したことをいう。

15世紀末に始まり、16世紀を通じて続いたこの動きを第1次エンクロージャー運動(enclosure は「囲い」という意味)という。

この状況を告発し、「羊が人間を食べている」と表現したのがトマス=モアであった。

 

1535年7月6日、15ヶ月近く幽閉されていたため見るかげもなくやつれていたモアは、ついに処刑のために塔から引っ張り出された。

その朝、ヘンリの使いが来て、刑場で群衆に向かって余り物をいわないようにとの命令を伝えた。

途中で長女のマーガレットはモアの姿を群衆にまじってじっと見ていた。その際やせ衰えたモアに一人の婦人がすすみよって葡萄酒をすすめたが彼はそれを辞退した。

モアはゆっくり断頭台にのぼり、ひざまずいて・・・・聖書の「詩編」五十一編を誦した。

いよいよ最後になった時、モアはその場にいた人々に向かって「どうか私のために祈って下さい、そして私が聖なるカトリック教会の信仰を持ち、またその信仰のために、ここに死刑に処せられると言うことの事実の証人となって下さい。」と言った。

また伝説的な物語として、一度首きり台に首を横たえてから、また急に首斬人に向って「一寸待ってくれ、髯をのけるから。この髯だけは大逆罪を犯していないからね。」といったという話がある。

かくして、「法の名の下に行われたイギリス史上最も暗黒なる犯罪」が行われたのであった。

 

死刑の後、彼の頭(こうべ)はロンドン橋の上にさらされた。

モア家には、こういう話が伝わっている。

ある日、彼の娘のひとりが橋の下を通りすがりに、父親の頭を仰ぎ見て、こう言った。

「あのおつむりは、なんど私の膝の上で眠ったことでしょう。どうか神様、下を通ります私の膝に、あのおつむりを落として下さいませ。」彼女の願いは叶えられて、頭は彼女の膝の上に落ちた。

そして今は、カンタベリー大聖堂の納骨所に納められている。

 

ということで、トマス・モアという聖人が愚かな王のために命を落としたという事件は史実のようだ。

 

最後に、この映画の原題「A Man for All Seasons」は、一体どういう意味なのだろうか。

「for all seasons」というのは、直訳すると「全ての季節のために」となるが、それでは意味が分からない。

「オールシーズン」という言葉は、「全天候型」という意味でファッション業界で使われた言葉だったが。

 

色々調べた結果、どうやら、

「確固たる信念を持つとともに、多才で、さまざまな状況に対応することができる、頼りになる人」

と訳すのが最適のようだ。

 

つまり、トマス・モアは、「生きる時代が変わろうと、自分の信念のままに行動する人物」だったのだ。

聖書に則って「ダメなものはダメ」と言い切れる人、言い換えれば「ぶれない人」だ。

 

たしかに、この人は死の寸前にこう言い放っている:

「私は王の忠実な召使いとして死にます。

だが王よりも第一に神のために死ぬのです!」

 

こういう人は、いつの世にもなかなかいないが、そんな類まれな賢人こそ、トマス・モアだったということだろう。

 

このタイトルにそんな高尚な深い意味があったとは驚きだ!

 

 

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