「赤い影」
(原題: Don't Look Now)
1973年12月9日公開。
水の都ベニスを舞台にしたオカルト・サスペンス。
興行収入:1.3百万米ドル。
原作:ダフニ・デュ・モーリエ「Don't Look Now」
脚本:アラン・スコット、クリス・ブライアント
監督:ニコラス・ローグ
キャスト:
ジョン:ドナルド・サザーランド
ローラ:ジュリー・クリスティ
ジョニー:N・スレイター
クリスティン:S・ウィリアムス
ヘザー:ヒラリー・メイソン
ウェンディ:クレリア・マタニア
バルバリゴ僧正:マッシモ・セラート
バベッジ夫妻:D・トリー、A・ライ
ロンギ警部:R・スカルパ
あらすじ:
考古学者のジョン(ドナルド・サザーランド)と妻のローラ(ジュリー・クリスティ)は、二人の子供をつれて休日を別荘で過ごしていた。
彼の仕事は、沈下の一途をたどるヴェニスの教会と歴史的な価値のある像を移転させることだった。
その教会を撮ったスライドに、あやまって酒をこぼしてしまった。
スライドをふいたところ、教会の椅子にすわっていた人物の赤いプラスチックのレインコートから血のようなものが流れ出した。
その時、ジョンは何かを感じて外へ飛び出した。
息子のジョニー(N・スレイター)が叫んでいる。
池の中に娘クリスティン(S・ウィリアムス)が沈みかけていた。
彼が池に飛び込み、抱きあげた時には、すでにクリスティンは死亡していた。
号泣するジョン。
それから数ヵ月後、ジョンはヴェニスの仕事場に妻を同伴した。
二人がレストランで食事をしていると、盲目の婦人が自分の方を見ている気がした。
突風のためにゴミが目に入った女性を助けるローラがいた。
彼女は盲目の女性ヘザー(ヒラリー・メイソン)の姉で、ウェンディ(クレリア・マタニア)と名乗った。
霊媒だというヘザーは、「あなたはお嬢さんを亡くしたでしよう。私には赤いレインコートを着てあなた方の間で楽しそうにしているのが見えましたよ」と語る。
この言葉に衝撃を受けたローラは、気を失い救急ボートで病院ヘ運ばれる。
夫に二人の婦人のことを話すが、彼は本気にしない。
ローラは、その後、二人に再会。
「クリスティンがヴェニスを去れと言っていた」とヘザーは告げる。
次の日、ジョンはバルバリゴ僧正(マッシモ・セラート)と会い、教会のモザイク画の検討をしていると、突然足場がくずれ、急死に一生を得た。
ローラはウェンディらがとまっている家ヘ行き、再び「ヴェニスを去るように」と言われる。
夜、ロンドンの寄宿学校のバベッジ夫妻(D・トリー、A・ライ)から、ジョニーが負傷したという電話が入った。
翌朝、ローラはロンドンに向かう。
船で仕事場の教会に行こうとしたジョンは、葬式船に黒衣をまとったローラ、ヘザー、ウェンディが乗っているのを目撃。
あわてて後を追うが姿を見失う。
ヘザーの泊まっていた家を尋ねたが、引き払ったあと。
ついに警察へ行きロンギ警部(R・スカルパ)に捜査を依頼する。
もしかしてと思ってロンドンに電話すると、ちゃんとローラが電話口に出た。
警察に行き、捕まっていたヘザーとウェンディに詫び、ホテルにまで連れてゆく。
彼がホテルを出ていった頃、ヘザーは「彼を行かせては駄目!」とわめくが、すでに彼の姿はなく、ロンドンから戻ったローラが夫の後を追う。
ジョンは運河のそばを歩いているうちに赤いレインコートをきた子供のような姿を発見する。
それは教会のスライドに写っていた姿に似ていた。
どんどん迷路のような街を走ってゆく赤いレインコート。
廃墟に追いつめるジョン。
それは子供ではなく小人だった。
小人はジョンの首をナイフで切り裂く。
翌日、ヴェニスの川を葬式船が流れて行く。
船上には黒衣をまとつたローラ、ウェンディ、ヘザーが乗つていた。
コメント:
自分の葬送を目撃した男の異様な体験を描くオカルト映画である。
『鳥』、『レベッカ』などのアルフレッド・ヒッチコック作品で知られる小説家ダフニ・デュ・モーリエの短編「いまは見てはだめ」を映画化したもの。
ニコラス・ローグ監督によるオカルト色の濃いサスペンス・スリラーで、赤を効果的に用いたイメージと、カットバック映像を凝らした撮影監督出身らしい視覚映像で迫る作品。
幼い娘が冬の最中赤いレインコートを着て庭で遊んでいる。
自転車を乗り回す兄の姿。
凍える冬の空気。
娘が小さい手で投げるボールが氷の張った池に落ちる。
それだけで娘が川に転落しないかと息を飲む。
部屋では教会の写真に赤いインクが禍々しく流れる。
不吉な予感に突き動かされ部屋を飛び出す娘の父親。
数々の映画に影響を与えたと言われる恐怖を植え付けられる冒頭のシーンが秀逸である。
幼い娘を事故で亡くす悲劇の父親役にドナルド・サザーランド。
その妻にジュリー・クリスティ。
実に美しい。
『天国から来たチャンピオン』の神秘的な目が魅力の教師の役も良かったが、何と言ってもこの二人の激しいベッドシーンが凄い。
「コール・ガール」ではジェーン・フォンダと、そして本作ではジュリー・クリスティと共演。
もう完璧にハリウッド映画の主演スターになってきたサザーランド。
特にこの映画での濡れ場は、かなり濃厚でしかも長い。
これはサービスシーンなのかとボヤボヤしていたら、これは非常に重要なシーンなのだと監督自身がインタビューで答えているらしい。
娘を亡くして悲しみの日々を送り、お互いの身体にも触れなくなってからの営みである。
「お腹が弛んできたわよ」
この台詞だけでそれがわかる かつては深く愛し合っていたこともわかる。
この夫婦がお互いに愛し合っていること分かるセリフになっている。
映像で表現する為に必要なカットだったのだ。
作品を覆う不穏なホラーな空気のほかに、もうひとつの別のテーマは夫婦の愛だったことがわかる。
つまり、倦怠期を迎えた夫婦が再びお互いを求め合う、切ないメロドラマがもう一つの顔だったのだ。
Rotten Tomatoesでは81件のレビューで支持率は94%、平均点は8.90/10となった。
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