「ふるさとの風」
1959年8月16日公開。
キャッチコピー:
「あの山、あの川、あの高原! 聞こえ来る初恋の調べ!」
原作:新田次郎「ひとり旅」
脚本:池田忠雄
監督:原研吉
キャスト:
山本豊三 | 篠原銀作 |
市川春代 | 母おしげ |
石川竜二 | 弟春雄 |
古賀さと子 | 朝川みどり |
永井達郎 | 父朝川 |
浅茅しのぶ | 母婦美子 |
川津祐介 | 田村正雄 |
清川新吾 | 吉村 |
稲川善一 | 岩田社長 |
日比野恵子 | 吉野幸江 |
瞳麗子 | 葉山アヤ |
あらすじ:
信州のある高原。
父を亡くした銀作(山本豊三)は高校を中退して、母おしげ(市川春代)、弟の春雄(石川竜二)と百姓をしていた。学校に行けぬ銀作の慰めは、同級生だったみどり(古賀さと子)が宿題を教えてもらいに来ることと、ラジオの勉強だった。
恩師熊井先生は彼を町のラジオ屋に職を探してやったが、息子の清太と喧嘩して馘になった。
数日後、みどりは銀行の支店長をしている父が東京に転勤になることを銀作に告げた。
彼女は想い出にオルゴールを置いていった。
みどりの同級生吉村(清川新吾)も彼女を愛していた。
銀作はみどりの父の紹介で、東京の電機メーカーに就職することになった。
上京した銀作は、出社して社長秘書の吉野幸江と宣伝写真のモデル葉山アヤ(瞳麗子)に会った。
みどりとも再会した。
寮で同室の田村(川津祐介)とも親しくなり、無線技師の国家試験の勉強に励んだ。
吉村は東大に合格した。
吉村は卒業したらみどりに求婚するつもりで、銀作にも応援を頼んだ。
銀作の気持は沈んだ。
アヤの誘惑を銀作は受けつけなかった。
しげは銀作の試験合格の通知を受け、熊井先生に地元の放送局の就職を頼んだ。
みどりがカリエスで倒れた。
しげから就職の決まった通知が来た。
だが、銀作はみどりのことを想うと心が迷った。
見舞いにいった銀作に、みどりは信州に帰るようにすすめた。
そして、彼に見守られながら、静かに息をひきとった。
数日後、信州に向けて出発した汽車の中に、オルゴールを抱き、悲しみに沈んだ銀作の姿がみえた。
コメント:
原作は新田次郎の長編小説「ひとり旅」。
「白い夏」の2年後の作品である。
1959年に秋元書房より刊行された。
新田は、1966年に気象庁観測部測器課長を最後に気象庁を依願退職する7年前だから、作家としては気象庁職員との兼業中だった。
よくぞそれまで数多くの小説が書けたものだ。
最初の映画化作品「白い夏」よりも暗い内容のようだ。
貧しいながらも必死に勉強し、国家試験に合格し、放送局への就職も決まった主人公だった。
だが、初恋の相手だった女性はカリエスという重い病でこの世を去ってしまう。
そして、彼は彼女への想いを抱きつつ、ひとりで田舎の長野への汽車に乗って帰ってゆくのだった。
こういう身の上の人が実際に昭和の時代にはいたのかも知れない。
新田次郎らしい、まじめで勤勉で、節度もわきまえて懸命に生きる青年を描いた小説が、映画になったのだ。
だが、この映画は、現在どこにも見つからない。
看板だけが残っている。
キネマ旬報サイトにも、あらすじと キャスト、スタッフの名前が確認できるのみである。
観た人が2人いるらしいが、レビューは見当たらない。