「ブリット」
(原題:Bullitt)
1968年10月17日公開。
カーチェイス・シーンを熱演したマックィーンの存在感が半端ない。
興行収入:42.3百万米ドル。
キャスト:
ブリット:スティーブ・マックィーン
チャルマース:ロバート・ヴォーン
キャシー:ジャクリーン・ビゼット
あらすじ:
やくざ者のジョニーは仲間を裏切り、200万ドルを持ち逃げした。
その彼が目ざすはサンフランシスコ。
少壮政治家チャルマース(ロバート・ヴォーン)が、もしジョニーが上院で証言台に立ってくれれば身柄を保護してやろうと確約してくれたからだ。
しかしサンフランシスコにやって来たジョニーはニセ者だった。
彼の本名はレニック。
夫婦そろってのヨーロッパ旅行を報酬に身替わりになったのだ。
そうとは知らず敏腕刑事ブリット(スティーブ・マックィーン)は、彼の護衛役をつとめた。
だが、ある夜ブリットが恋人キャシー(ジャクリーン・ビゼット)に会いに行っている最中、ニセのジョニーは2人の男に射たれ重傷を負った。
病院にかつぎこまれたが、そこでも、あやしげな男たちが、常につきまとう。
チャルマースはブリットの失態を責めるが、何故かブリットはチャルマースの行動に疑問を抱く。
政治的野心のためのなにかを……。
医師の努力もむなしくニセのジョニーは死んだ。
だがブリットは、彼がまだ生きていると見せかけて病院の外に運び出した。
2人の殺し屋がブリットを追い、サンフランシスコの急坂道で、すさまじい追跡が展開される。
一方、チャルマースは、ブリットをこの事件から手をひかせようと懸命だった。
だがブリットはひるまず事件の究明を続け、死んだジョニーはニセ者だったことを知った。
そしてヨーロッパ旅行を楽しみにしていた彼の妻も殺されていた。
彼女のカバンの中にはトラベル・チェックが入っていた。
ブリットの勘がひらめく。
本物のジョニーはヨーロッパへ行く!
空港だ!
広い夜の空港を逃走するジョニー。
追うブリット。
ついにロビーに追いつめ、拳銃が火を吹き、彼を捕まえたのである。
やくざ者ジョニーの背後にあった巨大な権力に、ブリットは自分の職務のすべてを賭けたのである。
コメント:
タイトルの「ブリット」とは、主人公の警部補の名前である。
スティーブ・マックイーンが運転する1968年型フォード・マスタングGT390と敵の1968年型ダッジ・チャージャーによる、サンフランシスコの急斜面を利用したカーアクションやクライマックスの空港での追跡劇が描かれる。
サンフランシスコ市警察本部捜査課のブリット警部補(スティーブ・マックィーン)は、チャルマース上院議員(ロバート・ヴォーン)から裁判の重要証言者の保護を命じられる。その証言者とは、ジョー・ロスというマフィア組員。ロスは組の金を横領し、ヒットマンから狙われたために、司法取引によってマフィアを潰す証人となることで身の安全を図ったのだ。
ブリットは、部下のデルゲッティ部長刑事やスタントン刑事と交代でホテルの一室にてジョー・ロスを保護する。ところが、ブリットが非番の日に、ロスは部屋のドアを開け、入ってきたヒットマンに射殺されてしまい、スタントン刑事も重傷を負う。
スタントン刑事の証言により、ロスがヒットマンと示し合わせたかのようにドアを開けたことを知ったブリットは、事件の裏になにかがあることを感じ取り、ロスが死んだことを報告せず、デルゲッティ部長刑事と捜査を開始する。車を運転中にヒットマンに襲われ、カーチェイスの末に倒したが、ヒットマンは顔も判別不能なほど焼けただれて、ロス殺しの犯人と断定することは出来なかった。
ロスが病院から消えたことでブリットを責め、担当から外させようと圧力をかけて来るチャルマース上院議員。上司から明日までの猶予を与えられたブリットは、ロスが襲撃される前に電話をかけたドロシーという女を訪ねて滞在先のホテルに向かった。しかし、ドロシーは殺され、彼女と夫のローマ行きのチケットやパスポートが消えていた。
ドロシーの素性を調べて、彼女の夫であるレニックこそ、ロスとして殺された男だと突き止めるブリット。本物のロスは大金でレニックを雇って出頭させ、ヒットマンに殺されるよう仕向けた上で、ドロシーを殺してパスポートを奪ったのだ。
ロスの出国を止めるために空港へ急ぐブリット。ロスがローマではなく別の便に乗り換えたと推理したブリットは、出発直前のロンドン行きの機をゲートに戻らせた。後部ドアから飛び降りて滑走路へ逃げるロス。ブリットは、証言が済むまで殺すなと命ずるチャルマース上院議員の言葉を無視してロスを射殺した。
これぞマックイーンといえる映画だ。
研ぎ澄まされた映画。現実感のある舞台の中で展開する緊迫感が魅力。居丈高な政治家とやり手の刑事。恋人の働く世界で起きていることに戸惑う女。ミステリアスなドラマにしびれる。
本作は、ほぼ完全にサンフランシスコのロケで撮影された最初の長編映画である。
シカゴでのオープニングセットピースを除いて、映画全体はシカゴで撮影された。
1968年のインタビューでダナトーニは、実際の場所を使用することで建設に多額の費用が節約されたため、交通費と住居費はあったものの、サンフランシスコで撮影するのにロサンゼルスで撮影するよりも費用はかからないと主張した。
撮影された場所は以下の通り:
マーク・ホプキンス・ホテル
ケネディ・ホテル (エンバカデロとハワード沿い、エンバカデロ高速道路近く)
ノブ・ヒル
カウホロー
パシフィック・ハイツ
グレース大聖堂
エンリコズ (ブロードウェイ、カーニーストリート)
サンフランシスコ国際空港
だが、何といっても、この映画の見どころはカーチェイスだ。
この映画の公開当時、すべてのドライバーシーンでマックィーンがハンドルを握るエキサイティングなカーチェイスシーンは、驚異的な興奮を巻き起こした。
レナード・マルティンは本作を「今や古典的なカーチェイスであり、スクリーン史上最高の作品の一つ」と評した。
エマニュエル・レヴィは2003年に「『ブリット』には映画史上最もエキサイティングなカーチェイスのひとつ、ハリウッドの基準に革命をもたらしたシーケンスが含まれている」と書いた。
ブルース・ウェーバーはピーター・イェーツの追悼文で「イェーツ氏の評判はおそらく安泰だろう」と書いた。
彼の最初のアメリカ映画である『ブリット』(1968年)が最高であり、実際にある特定のシーンでは、すぐに古典となった長時間にわたるカーチェイスがあった。」と述べている。
カーチェイスを描いた作品としては、世界第1位を獲得したことで有名だ。
この映画は、エンターテイメント情報サイト・コリダーが、映画に登場する最高のカーチェイス作品としてブリットを第1位に選出している。
コリダーが企画した最高のカーチェイス映画を選ぶ投票で、1968年にスティーヴ・マックイーンが主演した『ブリット』のアクション・シーンが選ばれたのである。
サンフランシスコの坂を駆け巡るカーチェイスは、後のアクション映画に大きく影響した。
カーチェィス映画の決定版ともいえる大ヒットシリーズ最新作「ワイルド・スピード ICE BREAK」の公開を記念し、2015年に米Colliderが「最高のカーチェイス12選」と題して特集を組んだ。
同サイトのライターらがスタントや演出など様々な側面から厳選した、映画史上最もクールなカーチェイス・シーンを誇る映画12本は以下の通り。
■「ブリット」(1968)
ピーター・イエーツ監督、スティーブ・マックィーン主演による刑事アクションの名作。
サンフランシスコの急な坂道を舞台に繰り広げられるカーチェイスは、音響効果と編集を巧みに駆使して観客をアクションの真っただ中に引きずり込む。
■「フィフス・エレメント」(1997)
ブルース・ウィリス演じるタクシー運転手コーベンと、ミラ・ジョボビッチ扮する完全無欠の美女リールーが、入り組んだ路地から高層ビルの谷間まで、ありとあらゆる地形を網羅して繰り広げる型破りな追跡シーンは、SF映画史上最高のカーチェイスと言って間違いなし。
■「アンダーカヴァー」(2008)
ニューヨーク市警による警護のもと、隠れ家に護送される途中でヒットマン一味に襲撃されるナイトクラブのマネージャー、ボビー(ホアキン・フェニックス)。アクションを追う代わりにフェニックスの表情に焦点を絞ったジェームズ・グレイ監督の演出が、地味ながらも緊迫感を煽るいぶし銀のカーチェイス。
■「フレンチ・コネクション」(1971)
ジーン・ハックマン演じるニューヨーク市警の刑事“ポパイ”ことジミー・ドイルが繰り広げる高架線下のカーチェイスは、ご存知映画史に残る名場面。地面をなめるようなローアングルで捉えたウィリアム・フリードキン監督のカメラワークも秀逸。
■「L.A.大捜査線/狼たちの街」(1985)
今では見慣れたフリーウェイを逆走するカーアクションを初めて試みたことで有名な本作だが、忘れてはならないのが走る列車を追って線路をまたぎ、干上がった川床へと疾走する4分間にわたる珠玉のカーチェイス。前述の「フレンチ・コネクション」と同様、フリードキン監督のセンスが冴え渡る臨場感とリアルさ満点のカーチェイスは必見だ。
■「ブルース・ブラザース」(1980)
行く手にあるもの全てをぶっ壊して突っ走るカーチェイスは、痛快さの点で右に出るものなし。中でもジェイク(ジョン・ベルーシ)とエルウッド(ダン・エイクロイド)のブルース兄弟が、無駄口をたたきながらショッピングモールを走り抜ける場面は爆笑必至。
■「RONIN」(1998)
ロバート・デ・ニーロとナターシャ・マケルホーンの切羽詰まった表情を巧みに織り交ぜた、混乱と緊迫感マックスのパリ街中でのカーチェィスは、ジョン・フランケンハイマー監督の真骨頂と言える名シーン。
■「重犯罪特捜班 ザ・セブン・アップス」(1973)
「ブリット」「フレンチ・コネクション」の製作を手がけたフィリップ・ダントニ製作・監督による刑事アクション。音楽を一切使わず、ハンドルを切る音やタイヤが地面をこする音など効果音だけでつづった、クライマックスの10分を超えるカーチェイスは圧巻の一言。
■「マトリックス リローデッド」(2003)
エフェクトも含め、作品そのものとしての出来は改善の余地ありと言ったところだが、死体から死体へと飛び移るエージェントや車自体が武器に変わるといった、「マトリックス」の世界ならではの斬新なアイデアは健在。シリーズ3部作で唯一のカーチェイスという点でも要注目だ。
■「ロジャー・ラビット」(1988)
複雑なカーチェイス・シーンは実写版でも大変。まして当時はまだ技術的に今ほど進歩していなかったことを考えると、アニメーションと実写の合成でカーチェイスを見事に描いてみせただけでも奇跡と言えるだろう。
■「ザ・ドライバー」(1978)
名匠ウォルター・ヒルの映像作家としての力量が全編に冴え渡る犯罪サスペンスの傑作だが、特筆すべきは何と言ってもダイナミックでリズム感あふれるカーチェイス。ライアン・オニール演じるプロの逃げ屋があらゆる運転テクを駆使してパトカーの追跡を振り切り、強盗団を逃がす場面は、映画史上屈指のカーチェイス・シーンの1つ。
■「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(2015)
ある意味、全編カーチェイスでつづられる本作だが、中でも砂嵐の中で繰り広げられるチェイスシーンは圧巻。突風と砂と炎に巻かれて宙に舞い上がった車が次々と爆破されるシーンでは、実際のスタントとCGを巧みに融合させた、見た事もないほど大胆でスリリングな映像と共に、クレイジーな演出で知られるジョージ・ミラー節が炸裂する名シーンだ。
後日、カーチェイス映画特集を本ブログサイトでも掲載したい。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能: