「ディア・ハンター」
(原題:Deer Hunter)
1978年12月8日公開。
鹿狩りを楽しむ若者たちが経験するベトナム戦争の悲惨さを描く名作。
現代の米国の社会問題を予感させる異色作。
興行収入:$48,979,328。
受賞歴:
- 第51回アカデミー賞
- 受賞・・・作品賞/監督賞/助演男優賞/音響賞/編集賞
- ノミネート・・・主演男優賞/助演女優賞/脚本賞/撮影賞
- 第33回英国アカデミー賞
- 受賞・・・撮影賞/編集賞
- ノミネート・・・作品賞/監督賞/脚本賞/主演男優賞/助演男優賞/助演女優賞
- 第36回ゴールデングローブ賞 監督賞
- 第44回ニューヨーク映画批評家協会賞 作品賞/助演男優賞
- 第13回全米映画批評家協会賞 助演女優賞
- 第4回ロサンゼルス映画批評家協会賞 監督賞
- 第53回キネマ旬報ベスト・テン 委員選出外国語映画部門第3位/読者選出外国語映画部門第1位
- 第22回ブルーリボン賞 外国作品賞
- 第3回日本アカデミー賞 最優秀外国作品賞
脚本:デリック・ウォッシュバーン
監督:マイケル・チミノ
キャスト:
マイケル: ロバート・デ・ニーロ
ニック: クリストファー・ウォーケン
スティーブン: ジョン・サベージ
スタン: ジョン・カザール
アクセル: チャック・アスペグレン
ジョン: ジョージ・ズンザ
リンダ: メリル・ストリープ
アンジェラ: ルタニア・アルダ
あらすじ:
1968年のペンシルベニア州クレアトン。
マイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スチーブン(ジョン・サページ)、スタン(J・カザール)、アクセル(チャック・アスペグレン)の5人は町の製鋼所に勤める親友グループ。
彼らは、休日には山で鹿狩りを楽しむ平凡な若者たちだった。
ある土曜日、ベトナムに徴兵されるマイケル、ニック、スチーブンの歓送会と、スチーブンとアンジェラ(ルタニア・アルダ)の結婚式が町の教会で合同で行なわれた。
祝福する人々の中には、アル中の父親を抱える身ながら、帰還後のニックと結婚の約束をしたグループのアイドル的存在のリンダ(メリル・ストリープ)もいた。
式の後、彼らはそろってアレゲニーの山へ鹿狩りに出た。
1970年、北ベトナムでの戦況は酸鼻を極めていた。
逃げまどう農民を虐殺するベトコンに対し、マイケルは狂ったように撃ちまくっていたが、偶然にも、その戦場でニックとスチーブンに再会した。
しかし、北側の攻勢は激しく、3人は捕虜になってしまい、床下につながれる身となった。
その小屋では、ロシアン・ルーレットというゲームが行なわれていた。それは、弾丸を一発だけ込めたリボルバーを捕虜が交互にこめかみに当てて撃ち合い、それにベトコンたちが金を賭けるというものだった。
3人の番になり、スチーブンが発狂寸前になったため、マイケルは一瞬のスキを窮ってベトコン数人を撃ち倒して逃走。
丸太にしがみついて濁流を下った。
間もなく、友軍ヘリコプターが飛来したが、マイケルとスチーブンは力尽き、3人は離ればなれになった。
l年後、サイゴンの軍人病院を退院したニックが別人のようになって町をさまよっていた。
それから2年後、マイケルは戦場での働きによって将校に昇進してクレアトンに生還した。
人々は温かく迎えたが、マイケル自身は昔の明るさを失っていた。
その頃、スチーブンは脚を失って陸軍病院に入っており、彼の口からニックがベトナムで生きていることを知ったマイケルは、陥落寸前のサイゴンへ飛んだ。
しかし、ニックは場末の工場の2階で、あのロシアン・ルーレットの射手になっており、意識は朦朧としていた。
マイケルは彼の記憶を呼び醒そうと必死に呼びかけ、最後の手段として、ロシアン・ルーレットのテーブルに向かい合った。
そして弾丸はニックの番で発射されたのだった。
その後、マイケルはニックの遺体と共に故郷に戻り、親友たちと真心の葬儀を行ったのであった。
コメント:
タイトルの「ディア・ハンター」とは、「鹿狩りをする人」という意味だ。
実際に、主人公たちはペンシルベニア州で鹿狩りを楽しむ若者たちだった.
だが、ある日突然、ベトナム戦争に駆り出されて、生死をさまよう戦地での地獄を味わうことになるのだ。
この映画には、数多くのスリラーシーンがある。
ベトナムでの米国と北ベトナムとのすさまじい戦闘シーン、ロシアン・ルーレットでの衝撃死のシーンなど。
なぜこの映画が数多くの映画賞を獲得したのか。
この作品以外にもベトナム戦争絡みの洋画で映画賞総なめの映画はたくさんある。
例えば、「地獄の黙示録」、「7月4日に生まれて」、「プラトーン」など。
米国の栄光が傷ついた最大の事件こそ、ベトナム戦争の失敗だった。
デニーロ主演の「タクシードライバー」も、ベトナム帰還兵が主人公だったが、この作品はもっと深刻なベトナム戦争の様子が克明に描かれている。
マイケル、ニック、スティーブンの3人の青年の、死の恐怖が目の前で演じられる。
演技とは思えないベトナム兵による捕虜への虐待、ロシアンルーレットで賭けをしてアメリカ兵を弄ぶシーンは衝撃的だ。
再会したマイケルの目の前に出現する、ニックのロシアン・ルーレットの射手に変わり果てた姿。
ベトナム戦争がアメリカに与えた深い傷を見る思いだ。
マイケル、ニック、スティーブンの三人の若者がベトナム戦争を経験したことによりすっかり人が変わってしまう姿が生々しく描かれている。
前半スティーヴンとアンジェラの結婚式のシーンから鹿狩りのシーンまでに50分程費やしており、カットできる部分はかなりあったのではないかと思ったが、戦争前と戦争後の違いを印象づけるためには十分過ぎるぐらいの役割を果たしていたのだ。
戦争中の三人が捕虜になってしまうシーンは、あまり今まで映画では観たことのない戦争の姿が描かれていてショッキングだ。
その後は三人のそれぞれの歩む道が全く異なってしまう。
マイケルは、戦場で華々しい活躍をして、将校となって帰還した。
しかし、心の中には深い闇が巣くっているのだ。
スティーブンは、脚を失ったため、祖国に帰っても車いすの生活を強いられている。
ニックは、サイゴンに残ってロシアンルーレットの射手となり、最後に亡くなってしまう。
戦争の怖さを米国民に知らしめる暗くて重い作品だ。
マイケルが帰還した時に、家に飾られている歓迎の旗を見てそのままタクシーで通りすぎて行くシーンは印象的だ。
反戦的な内容の作品だが、生死を賭けた戦いを経験したものと、しなかったものとの間にはやはり大きな違いがあって、戦場を経験したものだけにしか見えない真理もあるのだ。
二度目の鹿狩りのシーンで絶好のシチュエーションで鹿を捉えたマイケルが撃つのをやめたことと、戦争に行かなかった仲間のスタンが口論となったアクセルに銃を向けた時に、すかさず銃を奪ってロシアンルーレットのように弾を一発だけ込めてスタンの眉間に突きつける姿が心に残る。
サイゴンに残り自分が虐待を受けた状況と全く同じ状況に自ら身を置いたニック。
後半の全く血の通っていないニックの表情にはぞっとさせられる。
結婚式で始まったこのドラマが、最後悲しい葬式で終わるのも印象的だ。
各賞総なめとなった映画史上に残る偉業を達成したこの映画。
やはり、実際にベトナム戦争を体験して心身共に深い後遺症を引きずる人々がいる米国ならではの作品だ。
もう戦争はこりごりだと訴えている映画である。
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