「影なき狙撃者」
(原題:The Manchurian Candidate)
1962年10月24日公開。
無意識に殺人を犯す男の悲劇を描くサイコ・スリラー。
興行収入:$2,757,256。
原作:リチャード・コンドン
脚本:ジョージ・アクセルロッド
監督:ジョン・フランケンハイマー
キャスト:
- ベネット・マーコ: フランク・シナトラ
- レイモンド・ショウ: ローレンス・ハーヴェイ
- アイスリン夫人: アンジェラ・ランズベリー
- ロージ・チェニー: ジャネット・リー
- アイスリン上院議員: ジェームズ・グレゴリー
- チャンジン: ヘンリー・シルヴァ
- ジョスリン・ジョーダン: レスリー・パリッシュ
- ジョーダン上院議員: ジョン・マッギーヴァー
- ジルコフ: アルバート・ポールセン
あらすじ:
1952年朝鮮戦争の最中、ベン・マーコ大尉(フランク・シナトラ)の小隊は、ガイドのチュンジンの裏切りで中共軍の捕虜となった。
そこで、心理学者イェン・ローの研究する洗脳の実験台にされたのは、レイモンド・ショウ軍曹(ローレンス・ハーヴェイ)だった。
ショウはトランプ占いのハートのクイーンが出た時には催眠術で夢遊状態におかれ、その時に言われた言葉通りの行動を起こすように暗示された体にされた。
やがて彼らは、本国に送還された。
マーコはワシントン諜報部に勤務したが、不思議な夢ばかりを見続け、その夢の意味が分からないまま、1月の休暇をとった。
その時、彼は、ロージ・チェニー(ジャネット・リー)という女性と知り合った。
ショウは継父のアイスリン上院議員と母を嫌ってニューヨークで新聞記者となった。
母は夫を大統領にさせようといろいろと手段をこうじていた。
一方、マーコは夢の原因を探ろうと、心理学者や脳外科の診察を受けた。
その結果、中共で洗脳の実験にされたことが分かり、だれかが中共のスパイとなっているということが分かった。
ワシントン諜報部では事の重大さにCIA、FBIを動員して帰還兵をチェックした。
マーコはショウとの交際を命じられた。
ある晩、マーコとショウが酒場で飲んでいる時、トランプのクイーンを見たショウが夢遊病のごとき状態となった。
そんなショウを見てマーコは不思議に思った。
一方、ショウの母親は、夫のアイスリンを副大統領に司令するためパーティーを開いた。
だが、彼と対立するジョーダン議員は頑強に反対した。
彼の娘ジョシーは、ショウと結婚していた。
その晩、ジョーダンとジョシーは、何者かに射殺された。
マーコはある日、テレビを見ていて、はっとなった。
奇術師の催眠術を見ていた時だった。
マーコは早速ショウを部屋に呼び、トランプを見せながらいろいろな実験をやった。
そしてトランプ催眠術のすべてを暴露した。
ショウはその時、初めて自分が妻とその父親を殺したと知って愕然とする。
やがて党大会が始まろうとしていた。ショウは母親に呼ばれた。
そしてトランプ占いをさせられた。
ショウは呆然となった。
母が中共のスパイとなって自分を操っていたのだ。
母は父と対立ある人物を党大会で射殺せよと命じた。
ショウは催眠術にかかったふりをした。
そしてその当夜がやってきた。
ショウは怒りをこめて母と父を射殺し、自殺した。
やがてマーコが駆けつけた時はすべてが終わっていた。
コメント:
この映画は、冷戦時代の最も「象徴的な」映画の 1 つとして知られている。
本作は、リチャード・コンドンによる同名の小説を原作としている。
21人のアメリカ人捕虜が帰国せずに中国に移ることを決意するという反共産主義のパラノイアの物語だ。
1953年の朝鮮戦争後の米国を舞台にしている。
この映画はケネディ政権の作品でもあった。
ジョン・F・ケネディ大統領と同様に、右翼のヒステリーと官僚の自己満足の両方に対して警告している。
この映画自体は、冷戦政治を再開し、反共産主義の思想を「復活させる」ことを意図していたとされている。
本作には、共産主義に対する冷戦時代の感情が凝縮されている。
共産主義はソ連や中国などの国々に端を発する一枚岩の国際陰謀として描かれている。
これは、朝鮮戦争中に中国が「満州人候補者」、つまり完璧なロボットのような兵士を作り出すという共産主義の目的で米兵を洗脳していたという通説を伝えているのだ。
原作となったリチャード・コンドンの小説と同様、この映画は冷戦時代に米国国民が恐れていたすべてを表現しているとして、現在でも米国ではしっかり認識されているようだ。
朝鮮戦争の米軍の英雄(ハーヴェイ)が、実は東側の手で暗殺者に洗脳されており、無意識下で殺人を重ね、大統領候補まで標的にするが、それを元上官(シナトラ)が食い止めようとするという、東西冷戦を背景にした政治サスペンス映画。
キューバ危機の最中に公開された。
東西冷戦構造の下での反共映画でストレートに中国とソ連の共産主義を悪党として描いているプロパガンダという側面も持つ作品。
原題の「The Manchurian Candidate」とは、直訳すると「満州の候補者」である。
だが、この言葉が意味するものは、「朝鮮戦争で米国が戦った相手である中共(中華人民共和国)の軍隊によって洗脳された者たち」である。
マインドコントロールされる怖さは、オウム真理教の事件を経た今日、そのマインドコントロールされたものがテロを起こすという点では、冷戦構造が崩れてもテロとの戦争に入り込んだという視点に立てば、古びていないのかもしれない。
共産主義者たちが拉致した米軍兵士を洗脳するところで、兵士達には園芸クラブのおばさん連中の集まりにいるように見えて、カットが変わると共産主義者たちが兵士たちをマインドコントロールしているという設定は面白い。
なんだか非現実的な場面に思えるが、園芸クラブと共産主義者たちがいるカットが交互に見せることで、洗脳される怖さはストレートに伝わる。
フランク・シナトラが扮する主人公も、共産主義者に洗脳されているが、そのマインドコントロールがいつ解けたのかわからないのが難点。
洗脳された主人公ローレン・ハーヴェイが恋人とその父親を殺す場面は刺激的だ。
父親が持っている牛乳パックに貫通して心臓を打ち抜くが、血が流れる代わりに穴が開いたところからミルクが流れるという面白さ。
また、恋人を何のためらいもなく操れたハーヴェイが射殺する非情さもなかなかの見せ場だ。
ハーヴェイの母親アンジェラ・ランズベリーが共産主義者で再婚した夫を大統領にすべく画策しており、そのため息子も利用する。
またどこか母子の近親相姦的なイメージがあり、息子を支配するというところが強烈。
製作当時は女性をこういうキャラクターにして悪役に持ってくるのは珍しかったのではなかろうか。
エンディングの射殺と自殺のシーンはすさまじい:
ストーリーも演出も、1962年の制作とは思えない、新しさが感じられる力作だ。
見応えのある作品であることは間違いない。
とりあえずCGで派手な場面を作っておけば誰が監督しても大差ない今日の映画に比べたら、はるかに作家性があり作り手の主張が伝わる力作だ。
主役をつとめたフランク・シナトラは、歌手として有名だが、映画俳優としても数多くの作品に出演して存在感を示した名優でもあった。
また、マフィアなどの犯罪組織や、ケネディ大統領を筆頭にした米国の政界とも交流があった人物でもある。
この映画は、以下のサイトで配信中: