「めまい」
(原題:Vertigo)
1958年5月9日公開。
ヒッチコック監督のサイコ・スリラー。
興行収入:$7,797,300。
原作:ボワロー=ナルスジャック『死者の中から』
脚本:アレック・コペル、サミュエル・テイラー
監督:アルフレッド・ヒッチコック
キャスト:
ジョン・ファーガスン:ジェームズ・スチュアート
マドレイヌ:キム・ノヴァク
ジュデイ:キム・ノヴァク
ミッジ:バーバラ・ベル・ゲデス
ゲビン・エルスター:トム・ヘルモア
あらすじ:
元刑事のジョン・ファーガスン(ジェームズ・スチュアート)は、屋上で犯人追跡中に同僚を墜死させたことから、高所恐怖症にかかって今は退職していた。
商業画家の女友達、ミッジ(バーバラ・ベル・ゲデス)の所だけが、彼の気の安まる場所だった。
そんなある日、昔の学校友達ゲビン・エルスター(トム・ヘルモア)から電話があって、彼はその妻の尾行を依頼された。
美しい妻のマドレイヌ(キム・ノヴァク)が、時々、昔狂って自殺した曽祖母のことを口走っては、夢遊病者のように不可解な行動に出るというのだ。
しかも、彼女は、まだ自分にそんな曽祖母のあったことは、知らぬ筈だという。
翌日から、ジョンの尾行がはじまった。
マドレイヌの行動範囲はサンフランシスコ一帯に及んだ。
ある時は曽祖母の埋められている墓地に、ある時は曽祖母が昔住んでいたというホテルに、ある時は若かりし頃の曽祖母の画像の飾られている画廊に。
しかも、ぼんやりと絵に見いる彼女の、手にもつ花束の型や髪型は画像の曽祖母と同じものなのだ。
そしてある日、彼女は海に身を投げた。
ジョンは彼女を救って、自宅に連れ帰り、介抱した。
そして、今はもう彼女を愛している自分を知った。
彼女は、自分の行動もよく覚えてはいなかった。
何事かを恐れるマドレイヌの心理を解きほぐすために、ジョンは彼女を、よく夢に見るというサンフランシスコ南部のスペイン領時代の古い教会にともなった。
しかし、突然彼に愛をうちあけながら彼女は、教会の高塔にかけ上り、めまいを起したジョンが階段にたちつくすうちに、身を投げて死んだ。
そのショックから、ジョンはサナトリウムに療養する身となった。
まだ自分をとりもどすことの出来ぬ彼は、街をさまよっているうちに、ふとジュデイ(キム・ノヴァク)というショップ・ガールに会った。
身なり化粧こそげびて俗だったとはいえ彼女の面ざしはマドレイヌに似ていた。
ジョンは、いつか彼女の面倒をみてやる身となった。
彼は彼女にマドレイヌに似た化粧や身なりを教えた。
しかし彼女はそれをいやがった。
何故なら彼女こそは、妻を殺すためにジョンの高所恐怖症を利用したゲビンに使われ、ジョンをあざむいて顔かたちの似たマドレイヌになりすましていた女だったのだから。
あの時、高塔の上には殺した妻を抱いたゲビンがいた。
そして、めまいを起こして高所に上れぬジョンを証人につかって、かけ上ってきたジュデイとタイミングを合わせて妻の死体を塔から投げ下ろし、自殺に見せるというトリックを使ったのだ。
サンフランシスコ一帯にジョンを引きまわし、彼と恋におちたマドレイヌとは、実はジュデイその人だったのだ。
ある夜、死んだはずのマドレイヌのものだった首飾りをジュデイの胸にみつけたジョンは、彼女をあの教会の白亜の高塔につれていって詰問した。
総ては今やはっきりした。
しかし、今はジョンを愛するジュデイは、彼への愛を口走りながら、恐怖のために塔から足をふみ外して墜死した。
コメント:
これは、何度も高いところから墜落死するシーンが出てくる映画である。
高所恐怖症の人は観ないでほしい。
この映画の怖さは、犯人側の凶悪で執拗な加害的な怖さではなく、犯罪に利用された者が精神的なバランスを失って病的な執拗さで結果的に犯人側を追い詰めていくことになる怖さだ。
主人公ジェームズ・スチュアートは高所恐怖症という症状を利用されたうえに、図らずも恋愛感情を募らせた挙句に病的になってしまうという合理的な理由づけがなされている。
高所恐怖症の怖さを様々な手法で視覚的に見せてくれる。
確かに怖さが伝わってくる。
さらに、二役を演じるキム・ノヴァクも、人妻に扮していた時のほうが魅力的で、主人公が恋していたその姿を蘇らせ追慕しようとする気迫にも一応の理由はある。
こわいのはもう一つ。
キム・ノヴァク扮するマデリンを尾行するうちに、彼女の曾祖母であり過去に非業の死を遂げた人物、カルロッタの存在を知る。
カルロッタは髪型から首飾りまでマデリンそっくりの女性であり、エルスターから「マデリンはカルロッタの亡霊に取り憑かれている」とする見解を聞かされるという場面だ。
先祖の霊に取りつかれるという別の恐怖だ。
とにかく、ヒッチコックという監督は、どうやったら観客を驚かせることができるか、どうやったら観客を怖がらせることができるかを常に考えていたのだろう。
キム・ノヴァクの美しさを堪能できる作品になっている。
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