「チャイナタウン」
(原題: Chinatown)
1974年6月20日公開。
1930年代のロサンゼルスを舞台に、政治的陰謀に巻き込まれた私立探偵の活躍を描く。
ジャック・ニコルソンが主演。
受賞歴:
ゴールデングローブ賞 監督賞(ロマン・ポランスキー)
英国アカデミー賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン)
ゴールデングローブ賞主演男優賞(ジャック・ニコルソン)
アカデミー主演男優賞ノミネート(ジャック・ニコルソン)
アカデミー脚本賞(ロバート・タウン)
エドガー賞(映画脚本賞)(ロバート・タウン)
脚本:ロバート・タウン
監督:ロマン・ポランスキー
キャスト:
ジェイク・ギテス:ジャック・ニコルソン
イヴリン・モーレイ:フェイ・ダナウェイ
ノア・クロス:ジョン・ヒューストン
ホリス・モーレイ:ダレル・ツワーリング
あらすじ:
私立探偵ジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)の事務所に、ミセス・モーレイと名乗るダム建設技師の妻が現れ、夫の浮気の調査を依頼した。
ギテスは早速行動を開始した。まずモーレイ技師(ダレル・ツワーリング)の身辺を洗い、彼がロサンゼルス川に異常な関心を持っていること、町をあげての新ダム建設には地盤がゆるくて危険だという理由で反対であること、そして若い娘のような恋人がいるらしいことをつきとめた。
更に、モーレイは妻イブリンの父で町の実力者のノア・クロス(ジョン・ヒューストン)と、何かで対立しているらしかった。
しかしギテスには、依頼された問題以外の争いや、水資源問題などどうでもよかった。
だが、事件は意外な事が発端となった。
モーレイの浮気がゴシップ新聞で暴露され、弁護士を共なったモーレイ夫人(フェイ・ダナウェイ)が名誉きそんで訴えるべく事務所に乗り込んできたのだ。
しかも、夫人は最初に依頼してきた女とは違う人間だった。
すると最初の女は何者で、何の目的があったのか。
かつてチャイナタウンの警官だったギテスの第六感がはたらいた。
数日後、モーレイが放水溝から溺死体となって発見された。
貯水池に疑問を持ったギテスは、深夜、立入禁止の貯水池に忍び込むが、二人組の男に捕らえられてナイフで鼻を切られてしまう。
こうなったら意地でもあとにはひけない。
ギテスはイブリンに接しているうち、次第に事件の核心へと近づいていった。
そこにはイブリンの父クロスが大きく浮かび上がってきていた。
ギテスに問いつめられたイブリンの告白によると、モーレイと親しくしていた娘はキャサリン(ベリンダ・パーマー)といい、クロスの娘だった。
そして驚くべきことに、キャサリンの母はイブリンだった。
15のときに力づくで父親に犯されたイブリンは、キャサリンを妊んだままメキシコへ家出し、そこで知り合ったモーレイと結婚したのだった。
今度の事件は義父と娘婿との対立だった。
クロスは既にロス市郊外の砂漠地帯を手広く買い占めていた。
モーレイが新ダムを建設し、砂漠へ水を流せばそれによって厖大な利益がころがり込む筈だが、理想主義者のモーレイが同調しなかった。
事件は次第に解決の方向に向かったが娘を父の手から守るためにメキシコに逃げようとしてチャイナタウンにひそんでいたイブリンがクロスに発見された。
イブリンをかばうギテスは捜査に当っていたかつての同僚のエスコバー警部補にクロスの悪行をまくしたてたが、警部補は耳をかそうとはしなかった。
その間にクロスがイブリンの車に近づき、キャサリンを降ろそうとしたため、イブリンが彼の腕を撃ち、車をスタートさせた。
走り去る車に警官が発砲し、車は停まった。
一同が駆け寄ると、イブリンは絶命していた。
コメント:
1930年代後半のカリフォルニア州ロサンゼルスを舞台に、私立探偵が偶然にも関わってしまった殺人事件を通じ、誰にも変えられない運命の綾に踊らされる姿を描いたフィルム・ノワールである。
1930年代当時のカリフォルニア州ではロサンゼルス上水路に絡む水利権や供給問題により水不足が深刻化しており、後にカリフォルニア水戦争と呼ばれる社会問題が発生していた。
本作では、水源開発スキャンダル「オーエンズバレーレイプ事件(The Rape of Owens Valley)」をプロットに取り入れることで、ファッションや文化の入念な時代考証と併せて、単なる懐古趣味に留まらないリアリティのあるドラマを構築している。
原案・脚本を手がけたロバート・タウンにとっても代表作というべき作品であり、彼は本作によって、アカデミー脚本賞と1975年のエドガー賞(映画脚本賞)を受賞している。
1991年にはアメリカ国立フィルム登録簿にも登録された。
タイトルの「チャイナタウン」は、主人公がかつて警官だった時代にパトロールした下町であり、作中でも短いシークエンスながら登場して、印象的なシーンの背景となっている。
登場人物の澱んだ哀しみを反映した「チャイナタウン」という含意に富んだタイトルが秀逸で、その意味深な言葉が、この物語のアンニュイでメランコリックなトーンを見事に象っている。
シニカルなタフガイを見事に演じきったジャック・ニコルソンや、哀しきファムファタールがよく似合うフェイ・ダナウェイの役にはまった好演が光る作品である。
時代風俗をリアリスティックに再現したレトロなセットや衣装にメイク、物語をノスタルジックに盛り上げるムーディーな撮影と音楽がすばらしい。
禍々しい利権構造にショッキングな人間関係をミステリアスに封じ込めたシナリオや、オーソドックスに徹したR・ポランスキーのこなれた語り口など、それらが高いレベルで陰影深く一体となり、全編にハードボイルドな余情を醸し出したフィルムノワールの名作。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能:
本作は、ニコルソンとダナウェイにとって「カッコーの巣の上で」や「俺たちに明日はない」といった自身の代表作とも並ぶベストアクトのひとつだ。