「ローズマリーの赤ちゃん」
(原題:Rosemary's Baby)
1968年6月12日公開。
異才ロマン・ポランスキー監督のホラー映画。
興行収入:33.4百万米ドル。
原作:アイラ・レヴィン
監督・脚本:ロマン・ポランスキー
キャスト:
ローズマリー:ミア・ファロー
ガイ:ジョン・カサヴェテス
ハッチ:モーリス・エヴァンス
ローマン:シドニー・ブラックマー
ミニー:ルース・ゴードン
あらすじ:
ニューヨーク、現代。
若い俳優ガイ(ジョン・カサヴェテス)と妻ローズマリー(ミア・ファロー)が、マンハッタンの古いアパートに引越してきた。
2人がつき合っている初老の友人ハッチ(モーリス・エヴァンス)によれば、このアパートは、以前から不吉な噂がたえないという。
だが若い2人は、いっこうに平気だった。
隣人はローマン(シドニー・ブラックマー)とミニー(ルース・ゴードン)のカスタベット夫妻。
親切だが、少々おせっかいの老夫婦だ。
彼らには養女が1人いた。
彼女は、いつもタニスの入った異様な匂いを発するペンダントをしている。
そして、ある夜、彼女はアパートの窓から飛び降り自殺をとげてしまった。
理由のわからない不可思議な死であった。
翌日、カスタベット夫婦は、ガイとローズマリーを夕食に招待した。
ローズマリーは、この夫婦をあまり好まなかったが、何故かガイは親密なつきあいを始めていった。
そしてミニーは、例のタニスの入ったペンダントをローズマリーにプレゼントし、一方的な親切をみせ始めた。
この頃から、ガイの仕事の上に変化が起こり始めた。
いつも彼をだしぬいて、いい役にありついていた俳優が急にめくらになり、ガイに役がまわってきた。
そしてガイは急に、赤ちゃんを作ろうと言い出し、その日にちまで決めてしまった。
ローズマリーに異論のあるはずはない。
その当夜、夕食の時、ミニーがデザートを持ってきてくれた。
だが、まずくてローズマリーは食べられなかったが、ガイの強いすすめで半分ほど食べた。
その結果、彼女は目まいがして意識を失ってしまった。
その夜、ローズマリーの見た夢は、まさに悪夢というにふさわしい。
翌朝目ざめると、彼女の身体は、ひっかき傷でいっぱいだった。
おかしな、そして不気味な一夜であった。
やがて彼女は妊娠した。
するとカスタベット夫妻は親切ごかしに産科医の指定をしたり、栄養があると称する飲物を毎日運んでくれさえした。ガイは何も言わない。
だが日が経つにつれ、ローズマリーの身体は弱まり顔色は悪くなるばかり。
訪ねてきたハッチは心配してくれた。
様子がおかしい。
彼は翌日、彼女と会う約束をして帰っていったが、その約束の日、彼は急病で倒れ、数ヵ月後に死んでしまった。
彼は死ぬ間際、ローズマリーに“魔女のすべて”という本をくれた。
ローズマリーは読みふけり、すべての謎を解いた。
カスタベット夫妻は、魔族だ!
そしてガイも一味になったのだ!
ローズマリーはもうすぐ生まれる我が子の安全のため1人で事を運ぶ決心をした。
だが産科医さえもグルだったのだ。
もう逃れるすべはない。
ローズマリーの出産が始まった。
気づけば、出産に立ち会ったみんなは死産だったと言う。
しかし、時たま隣室から子供の泣き声がする。
ある夜、肉切り包丁を持った彼女は1人、隣室に入っていった。
するとそこには、魔族が大勢集まり、ガイもいる。
黒づくめで十字架のついた、ゆりかごまである。ローズマリーは近づいた。
中の赤ちゃんは、瞳孔がない。
悪魔の子だ!
自分の生んだ子、ローズマリーの赤ちゃんは悪魔大王の子なのだ!
妊娠したあの夜、ガイの身体に悪魔が、のりうつったのだろう……。
ローズマリーは、その子に微笑みかけるのだった。
コメント:
ポランスキー監督によるオカルト映画の傑作。
前の借主が自殺を遂げたという曰くつきのアパートへの引越しから始まる不可解な出来事の連続。
ローズマリー・ウッドハウスと売れない役者の夫ガイは、ニューヨークのアパートに引っ越してくる。
隣人のローマン・カスタベットとミニーの夫妻は、少々お節介なほど世話好きな人達だ。
カスタベット夫妻にはテレサ・ジオノフリオというアフリカ系アメリカ人の養女がいたが、若くして自殺していた。
ガイはカスタベット夫妻と親密になり、ミニーはテレサの形見のペンダントをローズマリーにプレゼントする。
その後ガイとローズマリーの夫婦は計画を立てて子供を作ろうとするが、その当夜ローズマリーは気分が悪くなって失神し、悪魔に犯されるという、夢とも幻覚ともつかない体験をする。
実はカスタベット夫妻も、彼らが勝手に変えたかかりつけの産婦人科医も、それどころか夫すら悪魔に魂を売り渡した悪魔崇拝者だった。
自殺したとされるテレサはローズマリーの前任の悪魔の子を宿す候補者であった。
ローズマリーを心配して再訪を約束した唯一の味方である初老の童話作家エドワード・ハッチも謀殺されてしまう。
悪魔崇拝者に囲まれたローズマリーの運命は?
舞台となるこのアパートの外観は、ジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫婦が住んでいたことで有名なダコタ・ハウスである(室内はセット撮影)。
怪しい隣人たちの存在が徐々にヒロインのローズマリー(ミア・ファロー)を追い詰めていくという流れは、後年の作品「テナント」でも、繰り返されている。
初々しい新妻役を演じたミア・ファローが、徐々に周囲に違和感を覚えはじめ、疑心暗鬼が募っていく様子を好演していて印象的。
悪魔崇拝者たちの陰謀に巻き込まれているとヒステリックに夫(ジョン・カサヴェテス)にすがるも、相手にされない。
周囲の人々への信頼が揺らいでいくあたりの描写は、大戦中にユダヤ人として周囲から孤立せずにはいられなかった、監督自身の実体験も生かされているのかも知れない。
自分が宿した子供ならば、それが例え悪魔の子だったとしても慈しむ感情を抑えることができない。
母性の深さを感じさせもするラストも秀逸。
その後70年代に入ってオカルト映画ブームが到来することになるが、その先駆けともなった記念碑的作品だ。
この映画は、制作スタッフが次々と奇怪な事件を引き起こして死んでゆくという、怪奇現象を引き起こしたことで有名だ。
映画公開から半年後の1968年12月、ポランスキーと同郷で音楽を担当したクシシュトフ・コメダは、同じくポーランド出身の脚本家だったマレク・フラスコらとの屋外パーティの最中、ふざけたフラスコに突き飛ばされて崖から転落し、脳血腫を起こして昏睡状態となった。
また担ぎ込まれた先の病院はキャッスルが入院した病院であった。
コメダは翌1969年4月23日に37歳で死去。
結果的にコメダを死に追いやったフラスコは、ポランスキーに呼ばれる前に住んでいたドイツに戻り、コメダの死のわずか2か月後に35歳で謎の死を遂げた。
映画公開から約1年後の1969年8月9日、ロマン・ポランスキー監督宅がチャールズ・マンソンのカルト教団に襲われ、監督の妻だった女優のシャロン・テート、ヘア・スタイリストのジェイ・セブリング、監督の親友ヴォイテック・フライコウスキー、その恋人で有名コーヒーブランド「フォルジャーズ」の社長令嬢アビゲイル・フォルジャーが惨殺される「テート・ラビアンカ殺人事件」が起きた。
亡くなったシャロン・テートも劇中のローズマリー同様、当時妊娠8か月の妊婦だった。
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