「四畳半襖の裏張り」
1973年11月3日公開。
奇才・神代辰巳監督による春本の映画化。
R15+
原作:永井荷風「四畳半襖の下張り」
監督・脚本:神代辰巳
キャスト:
宮下順子 | 袖子 |
江角英明 | 信介 |
山谷初男 | ぴん助 |
丘奈保美 | 夕子 |
絵沢萠子 | 花枝 |
芹明香 | 花丸 |
東まみ | 菊子 |
粟津號 | 幸一 |
吉野あい | 染香 |
あらすじ:
日本全国で米騒動が頻発する大正中期、東京・山の手の花街の夏。
料亭“梅ヶ枝”では、おかみが芸者・袖子(宮下順子)を待ちかねていた。
客の信介(江角英明)は、三十歳半ばのちょっとした役者風のいい男で、世の中は米騒動で騒々しい最中なのに遊びに興じようという根っからの遊び人である。
座敷に通された信介は、袖子の恥かしそうな仕草がもどかしい。
信介が上になって布団をはがそうとすると「初めてですもの、恥かしい」と電気スタンドの明りを暗くする袖子……。外では号外の音が鳴り、騒がしい。
置き家、“花の家”では、芸者の花枝(絵沢萠子)と花丸(芹明香)がすっかり仕度を整え、あてのない客を待っていた。
一方、信介の動きがだんだん激しくなるが、袖子は半分お義理である。
そのうち信介が横になると袖子も仕方なしに横になる。
やがて、袖子の鼻息も次第に荒くなり、夜具は乱れ、枕はきしみ、伊達巻も徐々に乱れてくる。
そして、信介の動きにつれて、袖子はもう気が遠くなりかけていた。
袖子は初めの様子とはうって変わり、次第に激しさも加わり、枕がはずれても直そうとせず身悶えるのだった。
そんな袖子の乱れる反応を、信介は反り身になって見つめていた。
やがて、信介は袖子の様子を見ながら、じっと辛棒していたが、袖子が「あれ! どうぞ」と髪が乱れるのにもかまわず泣きじゃくるのにとうとう我慢ができなくなり、袖子におおいかぶさっていった……。
そして、二人は一息入れた後、二度、三度と頂点を極めるのだった。
コメント:
永井荷風原作の『四畳半襖の下張』の映画化で、遊びの限りをつくした中年男と初見の芸者との床シーンの数々を描く。
永井荷風の原作といわれる”四畳半襖の下張り”をヒントに、神代辰巳がシナリオ化した問題作。
遊びの限りをつくした中年男と初見の芸者・袖子との床のシーンが映像化され、エロティシズムの原点に帰った本格的ポルノ映画作りに神代辰巳演出も冴えわたっている。
人妻役にかけてはNo.1の宮下順子が、今までの集大成にと、袖子役に体当たり演技を披露し、中年男にベテランの江角英明が汗みどろの共演だ。
生の生き死にと、性の生き様。落語の語りで解説を入れて、人間の業のおかしさ、切なさを見事に表現している。
それにしても宮下順子は生々しい。
濡れ場は、今見ても秀逸だ。
どう見ても、これは傑作。
芸者・宮下順子と旦那・江角英明、芸者・丘奈保美と恋人・粟津號、先輩芸者・絵沢萠子と半玉・芹明香という三つのエピソードがあるリズムでカットバックしながら描かれ、そこに大正時代のニュースが散りばめられる。
このカットバックは、脚本の時から想定されていたのか、それとも芝居を見ながら編集で作っていったのか。
おそらく、脚本である程度作っていたのを、芝居を見て変えていったのではないか。
ふつうはこうはつながないよなというカットバックなのだが、これがすごく映画に合っていて、得も知れぬリズムを作り出している。
見ていて、とても気持ちがいい。
初めて見た時には、最後に絵沢萠子が蠅を道具で取るところで、ストップモーション、あっけなくエンドクレジットが出てしまうのにも驚いた。
こんな終わり方、ないだろう。
しかし、2回見ると、3つのエピソードがようやくつながっているのに気が付く。
丘奈保美が宮下順子の店に芸者として上がる。
丘奈保美が芹明香とすれ違う。
芹明香が宮下順子に水揚げしてくれる旦那を紹介してくれと頼む。
それと同時に唐突に絵沢萠子のストップモーションとなる。
そこに映画が終わっても、彼女たちの人生が続いていくのだという神代の思いのようなものを感じるのだ。
出演者が皆素晴らしい。
どうしてあんなに生き生きしているのだろうか。
ここにも神代マジックがある。
というよりも、おそらく永井荷風が毎夜のごとくエンジョイしていた東京下町の遊郭では、男たちと遊女たちとが本気でエロの世界をさまよっていたのだろう。
良い時代だったことは間違いない。
YouTubeには、この映画の動画はアップされていない。
だが、原作の朗読がアップされていて、テキスト付で楽しめる。
これを見ながら聞いていけば、何を言っているのかよくわかる。
実に具体的に「床上手」になるためのヒントがつづられているのだ。
男にとっても、女にとっても、参考になるだろう。
永井荷風がいかに色の道を究めんとしていたのかが、分かってくる。
日本の最高裁が「わいせつだ」と判決した書物が、今やこういう形で日本中の人たちが見れる時代になったのだ。
すばらしい!
おそらく荷風先生も、「いよいよ、俺の時代になったな!」と草葉の陰で感慨もひとしおだろう。
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