「ファーゴ」
(原題: Fargo)
1996年3月8日公開。
コーエン兄弟の判事コメディ作品。
狂言誘拐をめぐる人間模様を描いたサスペンス、ブラックコメディ。
R15+指定。
興行収入:$60,611,975。
受賞歴:
アカデミー脚本賞。
アカデミー主演女優賞(フランセス・マクドーマンド)。
カンヌ国際映画祭監督賞。
英国アカデミー賞監督賞。
脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
監督:ジョエル・コーエン
キャスト:
女性警察署長マージ・ガンダーソン:フランセス・マクドーマンド
ジェリー・ランガード:ウィリアム・H・メイシー
ジーン:クリスティン・ルドリュード
ウェイド:ハーヴ・プレスネル
カール:スティーヴ・ブシェーミ
グリムスラッド:ピーター・ストーメア
ノーム:ジョン・キャロル・リンチ
あらすじ:
87年冬。
ミネソタ州の自動車ディーラー、ジェリー・ランガード(ウィリアム・H・メイシー)は多額の借金を負い、早急に大金を必要としていた。
彼は妻ジーン(クリスティン・ルドリュード)を偽装誘拐して、自動車業界の大物である妻の父親ウェイド(ハーヴ・プレスネル)から身代金を引き出し、借金返済に回そうとしていた。
ジェリーは整備工場で働く元囚人から2人の男を紹介してもらい、ノース・ダコタ州ファーゴへ向かった。
神経質に喋り通しの変な顔の男カール(スティーヴ・ブシェーミ)と一言も喋らない凶暴そうな大男グリムスラッド(ピーター・ストーメア)は、誘拐の実行を約束する。
ジェリーは義父と彼の財政顧問に駐車場を作るという提案をしており、そのための借金を申し込んでいた。
だが、義父が彼に大金を投資するわけがなく、そこで考えた最後の手段が偽装誘拐計画だった。
ところが、自宅に帰ったジェリーに義父は、新事業の打ち合わせをしようと言う。
慌てたジェリーは2人組に連絡を取ろうとするが、彼らはつかまらない。
とりあえず打ち合わせに行くが、義父たちは無能なジェリーに投資する気はなく、自分たちで事業化して手数料を彼に払うつもりだった。
ショックを受けるジェリーは、雪に埋もれた駐車場で怒りを爆発させる。
一方、カールとグリムスラッドは白昼堂々、誘拐を決行。
しかし、隣町ブレイナードへ逃走中、グリムスラッドはパトロール中の警官と目撃者をあっけなく殺してしまう。
しかも、彼らは人目につきそうなトラック停留所に立ち寄ったり、通りすがりの女たちと寝たりと、ずさんなことこの上ない。翌朝、ブレイナードの女性警察署長で出産を控えているマージ・ガンダーソン(フランセス・マクドーマンド)が殺人事件の捜査に乗り出した。
彼女は残された証拠を一つ一つ洗い、ついに犯人が乗っていた車からジェリーにたどり着いた。
彼は予期せぬマージの出現に動揺し、その場は何とかごまかすが、逆に彼女に不信感を抱かせる。
身代金の受け渡しの時間が来て、ジェリーは自分で金を運ぶと主張するが、彼を全く信用していない義父は自ら運ぶと押し切る。ジェリーの計画は完全に狂い、受け渡しももつれて、カールは義父を射殺する。
カールは何とか湖畔の隠れ家に逃げ戻るが、短気なグリムスラッドはジーンを殴り殺してしまっていた。
一方、マージの追求はさらに激しくジェリーに向かうが、それを知った彼は逃亡する。
マージは2人組の隠れ家を探し当てるが、そこではグリムスラッドが仲間割れして殺したカールの死体を、除雪機械に突っ込んで処理していた。
マージはグリムスラッドを逮捕し、間もなくジェリーも捕まった。
「なぜ、こんな事件が……」と暗鬱な気持ちになったマージが帰宅すると、画家の夫ノーム(ジョン・キャロル・リンチ)が3セント切手に自分の画が採用されたと告げ、彼らは小さな幸せを感じた。
コメント:
雪深いアメリカの田舎町を舞台に、ほんの手違いで単純な偽装誘拐から血生臭い殺人へと発展していく犯罪事件の顛末を描いた異色作。
タイトルの「ファーゴ」は、アメリカ合衆国最北部にあるノースダコタ州の南東部に位置する都市の名前。
ファーゴ市は、アメリカ合衆国で最も空気が清浄な都市として知られる場所だという。
冒頭の酒場のシーンは、そんな町が舞台となっているのだ。
多彩な登場人物が織り成す、滑稽で哀しい事件を通した逆説的な人間讃歌が、えも言われぬ味わいを醸し出す。
コメディとしても評価されたようだが、展開はサスペンスフルな事件ものである。
本作の監督をつとめたジョエル・コーエンと、女性警察署長を演じたフランシス・マクドーマンドは、夫婦である。
このコンビは、この作品で一気に知名度が上がった。
狂言誘拐で身代金をだまし取ろうとする男。
わざわざ自分の妻を。
義父が大金持ちだからである。
あまりに安易なアイデアと思えるが、現代人のあるあるに見えてくる。
そこから、不連続の殺人へと展開されていく。
流れる血の色よりも、雪景色のような白が強調されている。
また、劇中のマクドーマンドの夫婦も変わっているが、彼女が普通以上に陽気なことも異色だ。
結果、陰惨な印象から、どちらかというと滑稽な感じに転じている。
この味わいが面白いと評価され、AFIはコメディ部門でも93位に選出している。
映画は1996年3月8日に北米で公開され、約2400万ドルの興行収入を挙げた。
これまで、批評家たちからの評価は高いものの、興行的な成功とは縁遠かったコーエン兄弟の映画としては、『赤ちゃん泥棒』以来のヒット作となった。
批評家たちからも絶賛を受けたこの作品は、名実共に彼らの代表作となった。
同年度のアカデミー賞では作品賞を含む7部門の候補となり、そのうち主演女優賞、脚本賞の2部門で受賞した。
その他にもカンヌ国際映画祭監督賞、英国アカデミー賞監督賞など受賞多数。
インディペンデント・スピリット賞では作品賞や監督賞を含む、候補になった6部門全てを受賞すると言う快挙を成し遂げた。
日本では1996年度のキネマ旬報外国語映画ベスト・テン第4位にランクインした。
1998年にアメリカン・フィルム・インスティチュートが選んだ映画ベスト100においては、第84位にランクインした。
2006年にはアメリカ国立フィルム登録簿に登録された。
フランシス・マクドーマンド演じる女性署長マージは、その印象的なキャラクターによって映画史に特筆される人気者となった。
役作りのために知人からミネソタ訛りの英語を習得したマクドーマンドの演技は絶賛され、第69回アカデミー賞の主演女優賞を与えられた。
主役の女性警察署長を演じたフランセス・マクドーマンドは、アメリカ合衆国の女優、映画プロデューサー。
イリノイ州シカゴ出身。
これまでにアカデミー賞、エミー賞、トニー賞を受賞し、「演技の三冠」を達成している。
両親は共にカナダ人。
牧師であった父親の都合で各地を転々として育つ。高校時代にピッツバーグに落ち着き、ウェストバージニア州のベサニー大学で演劇を学ぶ。
さらにイェール大学スクール・オブ・ドラマ(Yale School of Drama)で学ぶ。
1980年代初めにホリー・ハンターがコーエン兄弟やサム・ライミと共に暮らしていたことが縁で、1984年にコーエン兄弟監督の『ブラッド・シンプル』で映画デビュー。
1989年に出演した『ミシシッピー・バーニング』でアカデミー助演女優賞に初ノミネート。
1996年の『ファーゴ』、2017年の『スリー・ビルボード』、及び2021年の『ノマドランド』でアカデミー主演女優賞を獲得。
主演女優賞の複数回受賞は史上13人目、3回の受賞はキャサリン・ヘプバーン(4回)に次ぐ快挙であり、イングリッド・バーグマンとメリル・ストリープに並ぶものとなった。
アカデミー賞では、この他に助演女優賞に3回ノミネートされており、プロデューサーの一人に名を連ねた『ノマドランド』では作品賞の受賞者ともなっている。
テレビや舞台でも活躍しており、1988年には舞台『欲望という名の電車』でトニー賞にもノミネートされた。2011年、『Good People』でトニー賞 主演女優賞 (演劇部門)を、2015年『オリーヴ・キタリッジ』では、エミー賞 主演女優賞 (リミテッドシリーズ・テレビ映画部門)を受賞した。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能: