「晩餐八時」
(原題:Dinner at Eight)
1933年8月23日公開。
名匠・ジョージ・キューカー監督の人気コメディ。
興行収入:$2,156,000。
脚本:フランシス・マリオン、ハーマン・J・マンキーウィッツ
監督:ジョージ・キューカー
キャスト:
- カルロッタ・ヴァンス:マリー・ドレスラー
- ラリー・ルノー:ジョン・バリモア
- ダン・パッカード:ウォーレス・ビアリー
- キティ(ダンの妻):ジーン・ハーロウ
- オリバー・ジョーダン:ライオネル・バリモア
- マックス・ケイン(ラリーのエージェント):リー・トレイシー
- ウェイン・タルボット:エドマンド・ロウ
- ミリセント(オリヴァーの妻):ビリー・バーク
- ポーラ(ジョーダン夫妻の娘):マッジ・エヴァンス
- ジョー:ジーン・ハーショルト
- ルーシー(ウェインの妻):カレン・モーレイ
- アーネスト(ポーラの婚約者):フィリップス・ホームズ
あらすじ:
ニューヨーク市の社交界の著名な貴婦人であるミリセント・ジョーダン(ビリー・バーク)は、英国で最も裕福なファーンクリフ卿夫妻が今度のディナーパーティーへの招待を承諾したという知らせを受け取り、大喜びした。
ジョーダン汽船会社の社長オリバー・ジョーダン氏夫妻がイギリスから渡来するファーンクリフ卿夫妻を主賓として晩餐会を催そうというのがことの発端だったからだ。
しかし、海運王である夫のオリバー(ライオネル・バリモア)は、ファーンクリフ卿を退屈な人だと感じていた。
オリバーは妻のミリセントに、ヨーロッパから来たばかりの伝説の舞台女優カルロッタ・ヴァンス(マリー・ドレスラー)を招待するよう頼む。
同席の栄に浴すべき客人として白羽の矢をあてられたのだ。
彼女はその昔オリヴァの憧憬の的になった華やかな生活の記憶もあるが今では姥桜で贅沢な生活を続ける金もないので自分が所有するジョーダン汽船株の売却を依頼しにジョーダン氏を訪れたのだ。
次に登場するのが工夫上がりの成金事業家ダン・パッカード氏である。
彼はジョーダン汽船会社の窮乏に付け込んで会社乗っ取りを策しているが、上辺は親切ごかしに資金の融通を計ってやるような顔をしている。
彼の妻のキティも怪しげな素性の成り上がり女だけに社交界入り込みたい野心に燃えている。
さらにキティは、有閑マダムの通性として、医師タルボット博士と恋愛遊戯に耽っている様な女だ。
タルボット博士夫妻もまた晩餐に呼ばれた客の1組である。
オリバーは、ディナーパーティーにパッカードも招待することにする。
キティはその誘いに熱心に応じる。
夫のダンは、最初行くことを拒否するが、ファーンクリフ卿も出席すると知って考えを変える。
次がラリイ・ルノーなる活動俳優である。
無声映画華やかなりし頃の彼の人気はトーキーの出現と共に消え失せ、今は小遣い銭にも困る様な窮状をただ酒に紛らせている中年を過ぎた男である。
だが、過去の名声とその美貌に打ち込んで命までの捧げようという情熱の乙女が何とジョーダン氏の娘ポーラであった。
ルノーにはしかしもう恋の興味の全然失われていたので彼は自分の醜悪な過去をポーラに物語って自分を思い切って許婚者のアーネストと結婚する様切に進める。
晩餐の夜が来た。
主賓たるべきファーンクルフ卿夫妻は着米早々電報1本で出席を断ってフロリダへ行ってしまった。
晩餐会は全然骨抜き同然となる。
ジョーダン夫人はそれでくさる。
ジョーダン氏は会社の株が何物かの手に買い占められてしまったことを知り、持病が重なって呻吟している。
娘のポーラはルノーのことがあきらめ切れずに同じくクサリを切っている。
晩餐の時間が来た。
客の1人ルノーが来ないのだ。
理由はカーサロッタが知っている。
ルノーはプロデューサーのステンゲルと喧嘩し、永年ルノーのために尽くした宣伝屋のマックス・ケインに避難されて絶望の極ガス自殺をとげたのだ。
ポーラの悲鳴は極度に達する。
わずかに慰められたのはジョーダン氏だった。
なぜならダン・パッカードが妻のキティの懇請により、ジョーダン汽船乗っ取りの陰謀を捨ててしまったからだった。
コメント:
「グランド・ホテル」に次ぐメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)のオールスター映画として1933年に製作された映画である。
華やかなニューヨークの社交界の裏に潜む、実業界での会社乗っ取りの動き、映画界でのスタッフと俳優との裏の駆け引き、男女の不倫など、いくつものトピックスを描く群像コメディだ。
「グランド・ホテル」と同じくデイヴィッド・O・セルズニックが製作にあたった超特作品で、「私重役様よ」のマリー・ドレッスラー、「グランド・ホテル」のジョン・バリモア、ライオネル・バリモア、ウォーレン・ビアリー及びジーン・ハーショルト、「紅塵」のジーン・ハーロウ、「ロシア探訪飛脚」のリー・トレイシー、「彼女の用心棒」のエドモンド・ロウ、返りさきのビリー・バーク、「ヘル・ビロウ」のマッジ・エヴァンス、「肉体」のカレン・モーリー、「男子戦わざるべからず」のフィリップス・ホームス、「今日限りの命」のルイズ・クロッサー・ヘイル、「令嬢殺人事件」のメイ・ロブスン、「心の青空」のグラント・ミッチェルと言うオール・スター・キャストであるとのこと
。
この中でご存じの俳優が何人いるだろうか。
とにかく、戦前の映画なので、ハリウッドのオールスターだと言われても、知らなくて当然だ。
主人公のオリバー・ジョーダンを演じているライオネル・バリモアと、自殺するラリー・ルノーを演じたジョン・バリモアは、名作「グランド・ホテル」に出ているので、この映画が好きな人なら思い出すだろう。
この二人は兄弟らしい。
この映画のトップクレジットになっている、老女優カルロッタ・ヴァンスを演じたマリー・ドレスラーは、なんとオスカー受賞者らしい。
だからトップに名前が出ているのだ。
マリー・ドレスラーは、カナダ出身の女優。
世界恐慌の時期に60歳を過ぎてスターとなった遅咲きの女優。
1930年の『惨劇の波止場』で第4回アカデミー賞の主演女優賞を受賞するなど、1930年代前半に活躍した。
この人は、1892年にブロードウェイデビュー。
その後、ヴォードヴィリアンとしても活動し、1900年代初頭にはヴォードヴィルのスターとなる。
1910年に主演舞台『Tillie's Nightmare』がヒット。
旧知の仲だった映画監督マック・セネットが同作を『醜女の深情け(原題:Tillie's Punctured Romance)』(1914年)として映画化する際に彼女を主演に起用。
これが彼女にとっての映画デビュー作となる。
なお、同作はハリウッド初の長編コメディ映画であり、共演のチャールズ・チャップリンにとっては自らが監督しない最後の作品となる。
その後、同じ役柄による続編的な作品『Tillie's Tomato Surprise』(1915年)や『Tillie Wakes Up』(1917年)など何本かの映画に出演するが、キャリアが飛躍することはなく、1918年には仕事が来なくなる。
仕方なくヴォードヴィルの仕事に戻るが、1919年にニューヨークで起きたコーラスガールらによるストライキの代表者に選ばれ、積極的に活動したことからブラックリストに載り、1920年代はニューヨークで仕事をすることが難しくなる。
彼女の窮状を知ったMGMの脚本家フランシス・マリオンは、自ら脚本を担当した『The Callahans and the Murphys』(1927年)の主演にドレスラーを起用する。
彼女の可能性に気付いたMGMの大プロデューサー、アーヴィング・タルバーグは、彼女をスターとして再生させることを決める。
その結果、徐々に人気が出始める。
彼女をスターとして復活させたのはトーキーである。
1930年にマリオンが脚本を担当し、グレタ・ガルボ初のトーキー作品となった『アンナ・クリスティ』での演技が高く評価され、同年の『惨劇の波止場』では第4回アカデミー賞の主演女優賞を受賞する。
更に1932年の『愛に叛く者』で第5回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされる。
1930年から1933年にかけて、主演を含め、様々な映画に出演する他、1933年8月には「タイム」誌の表紙を飾り、同年にMGMが開いた大規模な誕生日パーティがラジオで生中継されるなど、ハリウッドを代表するスターとして人気を集める。
1934年に癌で死去。
この映画は、残念ながら、動画配信もレンタルも見当たらない。
DVDはアマゾンで販売されているが、日本語ではない: