「花嫁の父」
(原題:Father of the Bride)
1950年5月18日公開。
エリザベス・テイラーが花嫁を演じたコメディ。
興行収入:$10,135,000。
原作:エドワード・ストリーターの小説『Father of the Bride』
脚本:フランシス・グッドリッチ、アルバート・ハケット
監督:ヴィンセント・ミネリ
キャスト:
スタンリー・バンクス:スペンサー・トレイシー
妻:ジョーン・ベネット
ケイ:エリザベス・テイラー
バクリー・ダンスタン:ドン・テイラー
あらすじ:
娘のケイ(エリザベス・テイラー)を新婚旅行に送り出して、弁護士のスタンリー・バンクス(スペンサー・トレイシー)は披露宴の残骸の中へがっくり身を落とした。
――ケイが、バクリー・ダンスタン(ドン・テイラー)という青年と結婚したいと両親を驚かしたのは、何ヵ月前のことだったか。
妻(ジョーン・ベネット)は落ち着き払っていたが、スタンリーはダンスタン家が立派な名門であり、バクリーがなかなかしっかりした青年であることを知るまでは、オチオチ眠れもしないのだった。
晴れて2人の婚約がすむと、スタンリーの頭痛の種は結婚費用だった。
なるべく式も内輪にすませたい彼の意志に反して、妻や娘は一生の願いとして教会で盛大な式を挙げたがった。
いっそ、娘が男と駈け落ちしてくれた方が、まだ安くつくではないか。
ようやく教会の式も決まり、披露宴招待の人数も折り合って、知人から続々と贈物が届くようになった頃、ケイは突然破談にしてくれと言い出した。
新婚旅行の行き先について、バクリーと他愛ない喧嘩を始めたのである。
ところが親父が仲裁に乗り出す間もなく、若い2人はケロリと仲直りしてスタンリーに背負い投げを食わせる始末である。
式の予行練習も済み、スタンリーは眠れぬ結婚式前夜を過ごした。
晴れの式では、ケイは堂々たる花嫁ぶりで、動転した親父を圧倒し、旅立って行った。
知人たちがただのシャンパンを飲みに集まる披露宴の混雑で、スタンリーは遂に去り行く娘に言葉をかけてやる暇さえなかった。
――もの想いに沈むそのスタンリーに、その時電話がかかってきた。
駅からケイが父親に送る最後の「おやすみ」であった。
スタンリーは、晴れ晴れと妻を抱いて古い恋歌のレコードをかけながら踊り始めた。
コメント:
娘の結婚式の準備に奮闘する男性を描いた1950年のアメリカ合衆国のコメディ映画。
原作はエドワード・ストリーターの小説『Father of the Bride』。
監督はヴィンセント・ミネリ。
子役出身のエリザベス・テイラーは、当時18歳で、本作が大人の女性を演じ成功をおさめた最初期の作品となった。
父と娘を描いた映画では感情が過敏になるので、きっとこの映画でも泣かされるかとも思ったが、そういう作りでもなくむしろ笑わされるシーンが多い。
結婚式が終わった後の、凄惨な家の中、呆然と座り込んでいる“花嫁の父”スタンリー(スペンサー・トレイシー)の姿から映画は始まる。
これは娘の結婚に際しての、父親のドタバタな奮闘振りを描いた作品だ。
娘ケイ役がエリザベス・テイラー。
とにかく美しい。
当時19歳。
こんな娘が年頃になれば、父親は毎日が不安であろう。
どんな男たちが言い寄ってくるのか。
父親が気付いたのは、香水の良い香りと、上機嫌な娘の態度。
食卓ではそれからすんなりと、結婚の問題になだれ込んでいく。
父親はとにかく相手に文句をつけたい。
まだ会ってもいないのに、あらぬ心配をするのだ。
母親(ジョーン・ベネット)の方はむしろ楽しそう。
やはり娘の味方だ。
そして自分がその昔我慢したことがあるので、出来れば娘には思い通りにしてあげたいのだ。
それにしても、父親はどうしてこうもケチをつけたがるのだろうか。
娘が可愛いのは実感している。
それが自分の元を離れていくのが耐えられないのか。
娘が小さい頃、父親はヒーローでいられた。
しかし大人になるとそうはいかない。
見透かされてしまう。
娘の相手やその両親が立派であることを願いながら、あまりに立派過ぎると今度は自分と比べてみじめに感じてしまう。
もう見栄を張っても仕方がない。
スタンリーは娘たちのやることに、悉く反対するのだが、結局折れるのは父親の方である。
それならば最初から反対しなければいいのに、それでも言いたくなるのが父親という存在の悲しい性であろう。
言えば言う程、自分の価値を下げてしまうのだが…。
もしかしたら、そうして率先して嫌われることによって、子別れの儀式をやっているのかも知れない。
スタンリーはよくしゃべる。
娘の結婚相手のバクリー・ダンスタン(ドン・テイラー)に聞きたいことがあると言っては、自分で一方的にしゃべり、バクリーの両親に会っても、自分だけ散々しゃべっておきながら、眠り込んでしまう。
弁護士でありながらそれほど立派な大人には感じられない。
しかし、その行動は憎めない。
演じるスペンサー・トレイシーは当然素晴らしい。
二十年前の礼服を無理やり着ようとするシーンは大笑いだ。
お祝いの席で一人で酒を作って終わってしまうシークエンスも滲み出るような可笑しさである。
そして娘は嫁に行く。
残された夫婦の関係性に幸福感が感じられてしみじみとしたエンディングになっている。
「花嫁の父」というタイトル通り、嫁いでゆく娘を想う父親の心情がすばらしい演出で描かれている傑作である。
コメディという分野にもあてはまるが、ファミリー・ラブストーリーとしても永遠に残る名作だ。
監督をつとめたヴィンセント・ミネリは、イリノイ州シカゴ出身。
父はシチリア系アメリカ人、母はフランス系カナダ人。
舞台の演出家からハリウッド入りを果たす。
主にミュージカル映画を手掛けた。
1958年にレスリー・キャロン主演のミュージカル映画『恋の手ほどき』でアカデミー監督賞を受賞した。
私生活では、1945年に女優のジュディ・ガーランドとの結婚を果たして娘ライザ・ミネリをもうけるが、5年後に離婚した。
1986年(昭和61年)7月25日、死去した。満83歳没。
主な監督作品は以下の通り:
- キャビン・イン・ザ・スカイ - Cabin in the Sky(1943)
- 若草の頃 - Meet Me in St. Louis(1944)
- ジーグフェルド・フォリーズ - Ziegfeld Follies(1946)
- 踊る海賊 - The Pirate(1948)
- ボヴァリー夫人 - Madame Bovary(1949)
- 花嫁の父 - Father of the Bride(1950)
- 巴里のアメリカ人 - An American in Paris(1951)アカデミー賞作品賞を受賞
- 悪人と美女 - The Bad and the Beautiful(1952)
- バンド・ワゴン - The Band Wagon(1953)
- ブリガドーン - Brigadoon(1954)
- 蜘蛛の巣 - The Cobweb(1955)
- お茶と同情 - Tea and Sympathy(1956)
- 炎の人ゴッホ - Lust for Life(1956)
- バラの肌着 - Designing Woman(1957)
- 恋の手ほどき - Gigi(1958)
- 黙示録の四騎士 - Four Horsemen of the Apocalypse(1961)
- さよならチャーリー - Goodbye Charlie(1964)
- いそしぎ - The Sandpiper(1965)
- 晴れた日に永遠が見える - On a Clear Day You Can See Forever(1970)
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