「寒椿」
1992年5月30日公開。
東映のドル箱路線"宮尾登美子原作シリーズ"第6弾。
昭和初期の土佐高知の色街を舞台にした愛と侠気の世界。
原作:宮尾登美子
脚本:那須真知子
監督:降旗康男
キャスト:
- 富田岩伍
- 演 - 西田敏行
- 芸妓小妓を売買する女衒をしており、陽暉楼と付き合いを持つなど忙しくしている。サイドカー付きのバイクを愛用している。昔は関東にまで名の知れた博打打ちで手のつけられない暴れん坊として“火の玉のヤゴ”の異名もあったが、現在は人の心の分かる女衒になった。自身が芸姑にした娘たちからは“父(とと)さん”と呼び慕われている。
- 牡丹(貞子)
- 演 - 南野陽子
- 21歳になったばかりの生娘。みねに舞などの芸を仕込まれた後芸姑として働き始め、華やかでいて儚げな雰囲気が好評となり程なくして売れっ子となる。岩伍とみねを第二の父母のように慕う。芸姑になる前に岩伍からもらった反物を「私の守り神」として売れっ子になった後も大事にしている。
岩伍や牡丹と関わる主な人たち
- 仁王山(におうやま)
- 演 - 髙嶋政宏
- 侠客の修行中の身。牡丹が売れっ子芸姑となった頃に偶然知り合い、それ以来彼女に夢中になる。前頭まで行った元力士なためケンカに強く力持ち。侠客に憧れており、本人は「侠客は命を張って強気をくじき、弱気を助ける男の中の男。ヤクザとは違う」として主張している。短気で血の気が多い性格に加え、特に牡丹のことになると周りが見えなくなり勝手な行動を取ることも多い。
- 松崎みね
- 演 - かたせ梨乃
- 子方屋『松崎』の経営者。10人程度の芸姑たちを抱え、彼女たちから“母様(かかさま)”と呼ばれている。『松崎』にいる時はいつも長いものさしを携帯し、厳しい口調で指導するため芸姑たちから少々怖がられている。厳しいながらも面倒見は良い性格だが、金に関してはケチである。富田から紹介された貞子を一人前の芸姑に育て、その後は大事な稼ぎ頭として陽暉楼で働いてもらう。
- 富田健太郎
- 演 - 西野浩史(本作のナレーションも担当)
- 小学生ぐらいの男の子。当初弱虫な性格だったが、徐々に気持ちの強い性格に育つ。「(女を売る方よりも)買う方が悪い」と批判するなど女衒の仕事を嫌っており、将来は真っ当な仕事に就くため勉学に励んでいる。岩伍に育てられながら、牡丹や仁王山など様々な大人たちの人生を垣間見る。
- 富田喜和(きわ)
- 演 - 藤真利子
- 過去に親の反対を押し切って岩伍の妻となったが、彼の仕事に馴染めず冒頭で富田の家を出る。ちなみに岩伍の自宅庭にある寒椿は、自身が植えた物。しばらく後に健太郎と東京で暮らすことを考え始めるが、岩伍が離婚することも息子を引き取らせてくれないことに悩む。
- 田村征彦
- 演 - 萩原流行
- “こくしかい”高知支部支部長の肩書を持つやくざ。東京から来て高知で金貸しを始め、仁王山や雲竜など地元のごろつきたちを手懐けた。選挙では中岡を支持し金の力で色々と策を講じる。どちらかと言うと今で言うインテリヤクザのようなタイプで、作中にしては都会的な雰囲気を持ちなかなか頭の切れる人物で策士。
芸者と陽暉楼の人たち
- 小奴
- 演 - 野村真美
- 「松崎」の芸姑で、牡丹の先輩芸姑にあたる。仁王山に好意を寄せているがなかなか振り向いてもらえず、彼が牡丹の話をするたび落ち込んでいる。不満が溜まると「松崎」から逃げたがる癖がある。芸姑をしているため普段は和服を着ているが、内心モガに憧れている。
- 染弥(妙子)
- 演 - 海野圭子
- 「松崎」の芸姑で、牡丹の先輩芸姑にあたる。陽暉楼のお座敷で田村の相手をしていた所気に入られ、岩伍の了承を得て身請され強引に田村に連れて行かれる。思ったことを口にする性格で口が悪い。田村の妻となった後は彼がする金貸し業の事務の仕事をするようになる。
- 山岡源八
- 演 - 津嘉山正種
- 陽暉楼の主人。牡丹の名付け親[6]。昭和の初め頃に芸姑を300人ほどを抱え西日本一の店と評されている。陽暉楼で時々面倒なことが起こりだし、頭を悩ませる。
- お鹿
- 演 - 浅利香津代
- 陽暉楼の雑用係らしく、客をお座敷に案内したり料理を配膳するなどしている。牡丹のことを「華やかでいて儚げ」と評し、彼女に興味を持った中岡にている。客から売れっ子の牡丹を座敷に呼ぶよう言われて、お茂と組んで融通を利かせることで小遣い稼ぎをしている。
- お茂
- 演 - 岡本麗
- お鹿の妹分で陽暉楼で同じような仕事をしている。陽暉楼に来た中岡に、牡丹目当てに多田が通いつめていると告げる。その後みんせい党側に協力するが、政友会側に協力するお鹿と対立する。
多田親子と中岡、その支持者
- 多田守宏(ただもりひろ)
- 演 - 白竜
- 中岡の対立候補。周りから“若”と呼ばれている。政友会から支持を受けて選挙に臨む。普通選挙法施行により有権者の数が一気に倍になり、政党の区別がつかない人にまで頭を下げなければならなくなったことに愚痴をこぼす。
- 多田宇一郎
- 演 - 高橋悦史
- 守宏の父。土佐銀行を経営する地元の有力者の一人。守宏を国会議員にするべく後押しするが、少々脇が甘い息子に世話を焼かされる。
- 百鬼勇之助(どめき)
- 演 - 黒部進
- 地元の有力者の一人。裏社会にも顔が利き、“どめきの親分”として恐れられている。貧困層の有権者の扱いに長けており、宇一郎から貧困層の票の取り込みを依頼される。
- 井上貢
- 演 - 児玉謙次
- 多田親子と政友会を支持する人。金融恐慌の影響で銀行が痛手を負った状況で、作中の選挙について「土佐銀行となんかい銀行の生き残りを賭けた選挙」と位置づける。
- 筆の海
- 演 - 大前均
- 多田側のごろつき。選挙期間中に自身と同じような政友会に付くはずの人たちを乗せた車を運転していた所、仁王山たちに仲間と車をみんせい党に奪われてしまう。
- 中岡亮太
- 演 - 神山繁
- “なんかい銀行”の会長。民政党の公認候補として議員に立候補する。私利私欲のために選挙に出て私腹を肥やそうとする多田一族を敵視し、彼らに後押しする百鬼に対抗できるよう田村に命じる。陽暉楼の売れっ子芸姑として活躍する牡丹を気に入る。
- 雲竜(うんりゅう)
- 演 - 荒勢
- 田村のもとで働くごろつき。いつも仁王山を含めた10数人のごろつきたちと共に行動し、陽暉楼がある地元で我が物顔で傍若無人な振る舞いをしたり、多田陣営の邪魔をするなどしている。
その他の人たち
- 庄
- 演 - 三谷昇
- 富田家の番頭らしき人。店の仕事以外にも健太郎を“ぼん”と呼び慕い、色々と気にかけている。
- 小笠原楠喜
- 演 - 本田博太郎
- 喜和の兄。喜和と健太郎が実家に戻ってきた直後、連れ戻しに来た岩伍に2人の面倒を見ることを告げる。
- 桑名勝造
- 演 - 笹野高史
- 貞子の父。博打でできた借金を返すため貞子を年季5年、1000円の条件で富田に売る。しかし博打好きは直らずその後も賭場に訪れている。
- 英次
- 演 - 段田安則
- 岩伍の同業者で以前から親しくしている知人。満州と日本を行き来し、日本で買い付けた女たちを満州で売って儲けようとする。ある時岩伍からの頼みを聞いて彼に協力する。
- 賭場の女
- 演 - 山村紅葉
- 丁半をする仁王山と偶然隣合わせになった女。牡丹のブロマイドをお守りがわりに賭けに当たるよう祈る仁王山に話しかける。
あらすじ:
昭和2年の高知。
21歳の貞子(南野陽子)は、女衒の岩伍(西田敏行)に買われ、高知の妓楼『陽暉楼』へ身売りされる。
永年の女衒(ぜげん)稼業を続ける岩伍は、これまで1度も身売りされる娘やその親に同情したことはなかったが、貞子の初々しさには何か心にひっかかるモノがあった。
早速「牡丹」という源氏名が付けられた貞子は、女将のみね(かたせ梨乃)のもとで芸事を特訓させられる。
岩伍は先ず一安心だった。
苦界といっても『陽暉楼』なら、それなりの格式もあり客質も上等だ。
牡丹も慣れぬ世界で始めは苦労するだろうが、愚にもつかない父親と暮らすよりは幸せになるだろうと、岩伍はこの商売をしてきて初めて心の安らぎを感じる。
だが、その一方で岩伍の妻・喜和(藤真利子)は、若い娘の身を売買する夫の商売が心痛で、息子の健太郎を連れて家出をしてしまうのだった。
しばらくたって牡丹が座敷へ出る日が訪れ、たちまち『陽暉楼』の1番の売れっ子となった。
岩伍は我がことのように喜び、事あるごとに励ましの言葉をかけた。
だが、牡丹に熱い想いを寄せる力士くずれのヤクザ・仁王山(髙嶋政宏)は、そんな岩伍に強い憎しみを覚える。
それから数日後、仁王山が牡丹をさらって姿をくらます事件が起こる。
牡丹の身を心配した岩伍は単身で2人の捜索に旅立つ。
やがてある寂しい漁村で2人を見つけ出した岩伍。
2人は高知に連れ戻された。
仁王山は牡丹をあきらめることで組に戻り、牡丹は財閥の御曹司・多田守宏(白竜)に見受けされることを承知して『陽暉楼』に戻った。
だが、牡丹が心底好いているのは岩伍だけだった。
そのことを告白された岩伍は胸が熱くなるが、女衒が売り買いした女を抱ける道理はなかった。
そして傷心のうちに見受けされて東京に発つ牡丹。
しかしその後、牡丹は満州へ売られ、それを知った岩伍は満州へ向かい牡丹を助ける。
そして再会する牡丹と仁王山。
そんな2人に再び魔の手が襲いかかり、岩伍は死闘の末、牡丹と仁王山を追っ手から逃がすのだった。
コメント:
原作は、宮尾登美子の同名長編小説。
『鬼龍院花子の生涯』(1982)、『序の舞』 (1984)など、多くのヒット作がある宮尾登美子の同名小説の映画化。
名匠・降旗康男が監督をつとめた名作である。
主人公の女衒を西田敏行が演じている。
宮尾作品で宮尾の父親をモデルとする役は、それまで仲代達矢と緒形拳が演じたが、全体的に若返りをさせたいという意見が出て、岩伍役には西田敏行が起用されたという。
夏目雅子を始め、数多くの女優がヌードになり、本格派女優の登龍門といわれた宮尾登美子原作映画への出演に南野陽子は「シナリオの面白さに惚れ込んで、思い切ってヌードになった」と話し、髙嶋政宏とのハードな濡れ場を演じた。「映画って、職人さんが周りにいっぱいいるでしょ。皆さんにこだわりがあって、テレビドラマだと、『まぁいいや』って終わっちゃうところが、映画はそうはいかなくて、そういうところがすごく好きです。40、50歳になっても、ずーっと映画に参加したいです。脱アイドルと言われることに対しては特に意識はしていません。アイドルとしてデビューしたことは後悔はないです。もうデビューして7年ですから、高校生の役じゃなく、こういう娼婦の役とかどんどん挑戦していきたい。恋愛だけに悩むような女の子の役はないので、そういう役もやってみたいです。他にも右翼とかヤクザの役も挑戦したいです。テレビに較べたら映画はしっかりした映像として残りますから、人の心に迫るようなものにトライしたい」等と語った。
タイトルの『寒椿』は、正にヒロイン牡丹の半生を象徴する名前だ。
牡丹を演じた南野陽子は25歳だった。
運命に流される可憐なヒロイン牡丹を演じた南野陽子が身体を張った演技で魅せている。
この花が散るような悲しさを体で表現していて身につまされる。
高嶋政宏に抱かれるシーンでは、おっぱいをちゃんと出して熱演している。
かたせ梨乃は、高知で芸姑たちをしつける『松崎』の女将を演じている。
堂々とした「かかさま」振りが板についている。
当時まだ35歳だったが、もう立派なおかみさんになり切っている。
この女優の急成長ぶりは素晴らしい。
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