「夜汽車」
1987年1月17日公開。
宮尾登美子原作を基にした女の哀しみを描いた作品。
土佐のやくざを演じるショーケンがカッコいい。
原作:宮尾登美子「夜汽車」、「岩伍覚え書」
脚本:松田寛夫、長田紀生
監督:山下耕作
キャスト:
- 岡崎露子:十朱幸代
- 岡崎里子:秋吉久美子
- むら咲の蔦江:萬田久子
- 花勇:白都真理
- お辰:新藤恵美
- 牡丹:速水典子
- 政代:水野久美
- 撃剣の浜田:内田勝正
- 竜王山:荒勢
- 小龍:須藤正裕
- 捨吉:丹波義隆
- ジャガラの敬:片桐竜次
- 筆の山:大前均
- 霧子の父:浜田晃
- 吉村:永井秀和
- 坂本:浜田寅彦
- 神田:今井健二
- 山本勢津:松村康世
- 鮫島:阿藤海
- 佐藤病院院長:山本清
- 梵天の信次:小林稔侍
- 百鬼勇之助:遠藤太津朗
- 田村伊三郎:丹波哲郎
- 溝上昇:津川雅彦
- 田村征彦:萩原健一
あらすじ:
昭和10年の秋、高知行きの夜汽車に揺られながら、岡崎露子(十朱幸代)は少女の頃を回想していた。
彼女が13歳の時、母親は妹の里子を産んで死に、やくざな父親は露子を高知一の料亭“山海楼”に売りとばし、その金を酒と博奕に使い果たしたあげく野垂れ死にしていった。
露子は泣く泣く里子を人手に渡し、その養育費を稼ぐために芸妓として各地を転々。
16年ぶりに故郷に帰って来たのだ。
そして、17歳の女学生に成長した里子(秋吉久美子)と再会した。
山海楼に腰を落ち着けた露子は、田村征彦(萩原健一)という男と知り合い愛し合うようになる。
征彦は高知のやくざ一家・田村組の息子だが、途方もない夢を抱いて父親の伊三郎とは別の世界で生きていた。
そんな時、里子が喀血をした。
結核と診断された里子の入院費用として千二百円の金が必要となった。
征彦は金策の途中で、百鬼一家の刺客に狙われ、逆にその刺客を斬ったため高知刑務所へ縛がれる。
百鬼一家は田村と高知を二分するやくざで、田村と敵対していた。
里子をサナトリウムに入院させた露子は、再び借金を背負う身となって各地を転々、三年の歳月が過ぎた。
その間、退院した里子は、出所した征彦に裏長屋を借りてもらったが、征彦と男女の仲になってしまう。
高知に戻って来た露子は、里子を訪ねた裏長家でそのことを知り、泣いて飛びだした。
露子はやがて、南海銀行の新頭取・溝上(津川雅彦)の囲われ者となり、高級カフェを開く。
征彦のもとに伊三郎の子分である浜田(内田勝正)と捨吉(丹波義隆)が訪ねて来た。
伊三郎が高知で飛行機観覧大興行に打って出るので力を貸してくれというのだ。
そんな時、伊三郎は百鬼一家の用心棒・梵天の信次(小林稔侍)に斬られて死んでしまう。
田村組を継いだ征彦は、露子のカフェを訪れ、溝上の力を借りたいと土下座した。
暫くして、征彦を思い切れなかった霧子は、二人が初めて結ばれた宿に征彦を呼び出す。
溝上の資金力と後循を得て、征彦はアクロバット飛行の大興行を成功させた。
だが、それをねたんだ百鬼一家に興行初日の夜、飛行機を爆破させられてしまう。
その上、露子と征彦の仲を知った溝上は、征彦に出入り禁止を言い渡した。
事のすべてを知った里子は、芸妓娼妓紹介業の勢津を訪ねて二千円で身売りする。
高知から遠い娼楼を望んだが、目をつけた百鬼(遠藤太津朗)に力ずくで抱かれ、その時大量の喀血をした。
征彦は梵天の信次に斬られて重傷を負い、病院にかつぎこまれた。
里子を取り戻そうと百鬼一家に乗り込んだ露子は、百鬼、彼の情婦・お辰(新藤恵美)、花勇(白都真理)の前で小指をつめる。
里子は人力車の中で、露子に抱かれて息をひきとった。
天涯孤独となった露子は、満州の新京に渡った。
征彦は、百鬼を射殺しようと待ちぶせしたが、逆に命を落とし、露子のもとに征彦が死んだという電報が届いた。
昭和20年、露子は敗戦と共に、ソ連国境の町、牡丹江で消息を断った。
コメント:
原作は、宮尾登美子の短編小説「夜汽車」と「岩伍覚え書」。
「夜汽車」という小説は、女衒の仕事として高知から大阪の遊郭まで幼い姉妹二人を連れて行く途中の夜汽車の中での様子を描いた作品だ。
「岩伍覚え書」は、宮尾登美子の実の父が実際に高知県から関西や中国、満州に女性を送り込んだ女衒の仕事を父の日記を元に綴ったもので、そこから発想を飛ばしてこの映画を創り上げたという。
映画は、天涯孤独の姉妹が高知で再会するも、男に愛されることで命を燃やす姉と、男を想うことで心を焦がす妹が一人の男を巡って起こす激しい愛憎劇を描いている。
十朱幸代、秋吉久美子、白都真理、新藤恵美、速水典子の五人の女優が乳房露出の激しい濡れ場を披露し、"女の競艶映画"として話題を呼んだ。
五社英雄監督による三部作に続いての宮尾作品の映画を山下耕作監督が創り上げた名作である。
やはり土佐のヤクザ社会や花柳界を舞台にしていて、運命に翻弄される女たちを描いている点は共通している。
薄幸の姉妹に焦点があてられている。
幼い時に親と死に別れ、さらに生木を裂くように別れさせられた姉妹の物語。
妹想いの姉、露子(十朱幸代)は苦海に身を沈めそこで稼いだ金を妹の学費にあてている。
そんな姉に申し訳なさでいっぱいの妹、里子(秋吉久美子)。
堅い絆で結ばれた姉妹の物語で始まるが、間に男が挟まることでドラマが動き出す。
土地のヤクザの二代目征彦(萩原健一)に惚れる姉。
しかし妹が結核を煩い入院費を稼ぐべく再び体を売っての旅に出る。
その間に里子は征彦の手に落ちてしまう・・。
任侠映画を多く手がけてきた山下耕作監督だが、本作では身勝手な男たちに翻弄される姉妹の悲しみを全編に漂わせていて、女の情感がしっかりと描き込まれている。
女優の乳房露出が映画のウリにされたが、下品になりがちな濡れ場のシーンも、情愛を感じさせる美しさを保っていて意外だ。
征彦の借金返済のため、やはり姉と同じ世界に身を沈める里子。
品定めのシーンでの秋吉久美子のフルヌードが美しい。
やはり、ヌードで競ったらこの女優は天下一だ。
ヤクザの二代目として、修羅の世界で生きる男を演じているショーケン。
姉妹二人と深い仲になったり、敵方の侠客と何度も殺し合いをした挙句に死んでゆく。
まるでショーケン自身の人生をそのまま描いているような気がする。
ヒロインの十朱幸代が、迫真の演技を見せている。
ショーケンとの本気モードの濡れ場は、予想外で驚く。
後半で、女だてらに指を詰めるシーンも、その迫力がハンパない。
『極道の妻たちⅡ』での姐さん姿より断然レベルが上である。
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