「オペラハット」
(原題:Mr. Deeds Goes to Town)
1936年4月12日公開。
ゲイリー・クーパーとジーン・アーサーが主演したコメディ映画。
興行収入:4.5百万米ドル。
脚本:ロバート・リスキン
監督:フランク・キャプラ
キャスト:
- ロングフェロー・ディーズ:ゲイリー・クーパー
- ベーブ・ベネット:ジーン・アーサー
- マクウェイド:ジョージ・バンクロフト
- コーネリアス・コッブ:ライオネル・スタンダー
- ジョン・シーダー:ダグラス・ダンブリル
- ウォルター:レイモンド・ウォルバーン
- メイ裁判官:H・B・ワーナー
あらすじ:
ロングフェロー・ディーズ(ゲイリー・クーパー)はヴァーモント州のマンドレイク・フォールスという小さい町で脂油工場を経営していた。
だが、彼の収入は絵葉書に優しい詩を書いて得る金の方が多かった。
彼は町のブラス・バンドのチューバ吹きで、考え事をする時には必ずチューバを吹くのが癖だった。
ところが彼の亡き母の兄にあたる大富豪マーチン・センプルが自動車事故で惨死したので、ディーズは遺産2千万ドルを貰ってセンプル邸の主人となった。
新聞社では彼をインタビューしようとしたが、面会謝絶で会えない。
ディーズはいろんなタカリ屋が押しかけて来るので新聞記者に会うひまはなかった。
センプル老人の法律顧問で委任権を得ていた弁護士ジョン・シーダー(ダグラス・ダンブリル)は約50万ドルを横領していたので、ディーズからも委任権を得てごまかそうと努力したが、ディーズはシーダーの腹黒さに疑いの目を持って保留した。
モーニング・スター社の女性記者ベーブ・ベネット(ジーン・アーサー)は何とかして記事をとろうと、散歩に出かけたディーズの目前で行き倒れを装って近付きとなった。
ディーズはこのメリー・ドースンことベーブ・ベネットを新聞記者とは知らず、夢想の「悩める女性」だと思い込み愛を感じた。
このためにモーニング・スター誌上にはディーズを皮肉った特ダネ記事が出たが、彼はあいからわずベーブとつきあった。
そしてついに彼女に結婚を申し込んだ。
あまりの人の良さに何時しか心をひかれたベーブは新聞社を辞職してディーズにすべてを告白しようとする。
しかしディーズは告白を聞く前に彼女の素性を知り、いたく失望する。
そしてディーズは全財産を失業農夫2千名に分けあたえる計画に着手した。
センプル老人の甥にあたるセンプル夫妻はシーダーと結託して、ディーズを狂人だと言い立てて、彼から財産を横領すべく企てて提訴した。
かくてディーズが狂人であるか否かを決定する審問が開かれたが、失恋したディーズは自暴自棄で、シーダー弁護士の有力な証拠提出にも全然弁護しなかった。
このために彼は狂人として禁治産者となり、病院に収容されそうになる。
いまはディーズに深くも思いを寄せているベーブは、見るに忍びずディーズを弁護する。
彼女の愛を知り得たディーズは、ついにシーダーが提出した狂人なりとする証拠を一々撃破し、裁判長はディーズの正気を言い渡した。
かくてディーズは愛するベーブをその胸に抱くのだった。
コメント:
この作品は、思わぬ莫大な遺産を手にした、正義感の強い、ちょっと”天然”な純朴な青年と、彼の周りに集まってくる有象無象の輩たちの姿が描かれる傑作コメディである。
原題が「Mr. Deeds Goes to Town」なのに、日本語タイトルが「シルクハット」というのは変だ。
だが、このタイトルは、原作の雑誌連載時のタイトルが「Opera Hat」だったためのようだ。
それは、オペラ帽が小説の示唆的な小道具として使われていたからだという。
映画のストーリーは、特ダネをものにしようと主人公の青年に近づいてきた女性記者とのロマンスがあったり、邪魔者として彼を追い落とそうとする一派との裁判劇があったりと、ワクワクさせてくれる展開で楽しませてくれる。
そして最後は、青年と女性記者の恋愛が成就し、めでたしめでたしとなるラブ・コメディになっている。
本作は、『或る夜の出来事』の名匠・フランク・キャプラの傑作コメディ。
名作は、色褪せないものだ。
アメリカのヒューマニズムを理解する上で貴重なコミカル作品である。
ポイントを列挙すると以下の通り:
❶マッチング:消化良好。
➋スクリューボール・コメディの傑作で、ゲイリー・クーパー(34歳)の魅力が満開。相手役のジーン・アーサー(35歳)も女ざかりで、カップルとしてベストマッチと言える。監督のフランク・キャプラも38歳で若い。
➌舞台は1930年代の古き良き時代のアメリカで、笑いの中に涙と感動がある。心が豊かになる。まさに、「アメリカン・ヒューマニズムの理想的なテキスト」と呼ぶに相応しい内容だ。
❹登場するミュージックナンバーは、お馴染のものばかりで楽しい。
①②「彼はいいやつだ/ For He's a Jolly Good Fellow」と「蛍の光/ Auld Lang Syne」:ゲイリー・クーパーが故郷を発つ時の見送りに合奏する。
③「スワニー河/Old Folks At Home (Swanee River) 」:ゲイリー・クーパーとジーン・アーサーがデュエットする。
④「ドヴォルザークのユーモレスク」:ゲイリー・クーパーがハミングする。
❺カメラはキャプラ監督と相性の良い、ジョセフ・ウォーカー(43歳)。「ソフトフォーカス」、「パンフォーカス」に加え、「夜のシーンで、スターの顔だけにライトを当てて目立たせる」等の撮影技法が認識出来た。
❻トリビア:主人公のゲイリー・クーパーは、事故で亡くなった叔父の大富豪の2,000万ドル遺産を相続するが、それにより彼は「全米一の大金持ち」になった。
アカデミー9部門(作品・主演女優・助演女優・監督・脚色・撮影・室内装置賞・編集賞にタールバーグ記念賞)受賞のハリウッド映画史上不滅の超大作にして最高傑作と言われる『風と共に去りぬ(1939)』の製作費が390万ドルであったことから、この遺産のずば抜けた大きさが想像出来る。
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