宮尾登美子の映画 「鬼龍院花子の生涯」 夏目雅子の名セリフ「なめたらいかんぜよ!」 | 人生・嵐も晴れもあり!

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鬼龍院花子の生涯

 

 

鬼龍院花子の生涯 予告編

 

 

1982年6月5日公開。

夏目雅子の不朽の名作。

土佐の侠客・鬼龍院政五郎とその周辺の女たちの生き方を描いた作品。

高知出身の直木賞作家・宮尾登美子の同名小説の映画化。

配給収入:11億円

 

 

脚本:高田宏治

監督:五社英雄

 

 

キャスト:

鬼龍院政五郎
演 - 仲代達矢
鬼龍院一家の親分。
松恵
演 - 夏目雅子
政五郎の養女。学業に優秀で県立の高等女学校に入学し、後に小学校教師となる。
少女時代の松恵
演 - 仙道敦子
当初弟・拓(ひらく)だけが養子になる予定だったが、政五郎に「賢そうな顔をしている」と気に入られたため急遽、鬼龍院家にもらわれる。

鬼龍院家の家族

演 - 岩下志麻
政五郎の妻。鬼龍院家で働く女中や手下たちに睨みをきかせる。
花子
演 - 高杉かほり
政五郎とつるの実子。
つる
演 - 佳那晃子
元々は末長の所で働いていた女中。政五郎と会った時に強引に連れて行かれそのまま妾となる。
牡丹
演 - 中村晃子
政五郎の妾。
笑若(えみわか)
演 - 新藤恵美
政五郎の妾。

政五郎の手下

相良(さがら)
演 - 室田日出男
政五郎の手下たちのまとめ役。
兼松
演 - 夏八木勲
元々は『かいじん』と名付けた土佐闘犬を愛情を持って育て、闘犬競技に情熱を注ぐ男。
六蔵
演 - 佐藤金造
兼松の手下。
丁次
演 - アゴ勇
鬼龍院家の手下
演 - 益岡徹
鬼龍院家の手下
冬喜(ふゆき)
演 - 松野健一
鬼龍院家の手下
演 - 古今亭朝次
鬼龍院家の手下
太市
演 - 広瀬義宣
鬼龍院家の手下

恭介とその関係者

田辺恭介
演 - 山本圭
高知商業の学校の教師。貧しい人たちの味方。
近藤
演 - 役所広司
土佐電鉄労働組合の委員長。
田辺源一郎
演 - 小沢栄太郎
恭介の父。

山根とその関係者

山根勝
演 - 梅宮辰夫
山根組の組長。
権藤哲男
演 - 誠直也
山根組の若い衆。
辻原徳平
演 - 成田三樹夫
政五郎と山根勝を引き合わせた人物。

平蔵とその関係者

末長平蔵
演 - 内田良平
末長組の組長。
秋尾
演 - 夏木マリ
平蔵の妻。
三日月次郎
演 - 綿引洪
平蔵の兄弟分。

その他

須田宇市
演 - 丹波哲郎
政五郎から御前(ごぜん)と呼ばれ畏敬の念を抱かれる存在。
 

 

あらすじ:

大正十年、松恵は土佐の大親分・鬼龍院政五郎の養女となった。

松恵は政五郎の身の回りの世話を命じられたが、鬼龍院家では主屋には正妻の歌が住み、向い家には妾の牡丹と笑若が囲われており、その向い家に政五郎が出向く日を妾二人に伝えるのも幼い松恵の役割りだった。

ある日、政五郎は女や子分たちを連れ土佐名物の闘犬を見に行った。

そこで漁師の兼松と赤岡の顔役・末長の間で悶着がおき、政五郎の仲介でその場はおさまったが、末長は兼松の持ち犬を殺すという卑劣な手段に出た。

怒った政五郎は赤岡に出向いたが、末長は姿を隠していた。

帰りぎわ、政五郎は末長の女房・秋尾の料亭からつるという娘を掠奪した。

この確執に、大財閥の須田が仲裁に入り一応の決着はついたが、以来、政五郎と末長は事あるごとに対立することになる。

これが機縁となってつるは政五郎の妾となり、鬼篭院の女たちと対立しながら翌年、女児を産んだ。

花子と名付けられたその子を政五郎は溺愛する。

勉強を続けていた松恵は、女学校に入学した。

昭和九年、土佐電鉄はストライキの嵐にみまわれ、筆頭株主である須田の命を受けた政五郎はスト潰しに出かけた。

そこで政五郎はストを支援に来ていた高校教師の田辺恭介と知り合い意気投合、須田から絶縁されるハメに陥った。

だが政五郎は意気軒昂、田辺を十六歳になった花子の婿にし一家を継がせようとしたが、獄中に面接に行かされた小学校の先生となっていた松恵と田辺はお互いに愛し合うようになっていた。

やがて出所した田辺は政五郎に松恵との結婚を申し出、怒った政五郎は田辺の小指を斬り落とさせた。

そして数日後、政五郎に挑みかかられた松恵は死を決して抵抗し、転勤を決意し、鬼龍院家を出た。

十六歳になった花子と神戸・山根組との縁談が整い、披露宴が開かれる。

だが、その席で歌が倒れた。腸チフスだった。

松恵の必死の看病も虚しく歌は死んだ。

松恵は再び家を出、大阪で労働運動に身を投じている田辺と一緒に生活するようになった。

だが、花子の婚約者がヤクザ同士の喧嘩で殺されたのを機に、田辺と共に鬼龍院家に戻った。

南京陥落の提灯行列がにぎわう夜、花子が末長に拉致され、これを救おうとした田辺も殺された。

政五郎が末長に殴り込みをかけたのはその夜のうちだった。

それから二年後、政五郎は獄中で死んだ。

そして数年後、松恵は行方不明だった花子の消息を知る。

松恵が大阪のうらぶれた娼家に花子を訪ねた時は、彼女はもう帰らぬ人となっていた。

 

 

コメント:

 

原作は、宮尾登美子の同名長編小説。

『別冊文藝春秋』145号から149号に連載された。

大正、昭和の高知を舞台に、侠客・鬼龍院政五郎(通称・鬼政)とその娘花子の波乱万丈の生涯を、12歳で鬼政のもとへ養女に出され、約50年にわたりその興亡を見守った松恵の目線から描いた作品。

 

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この映画で特筆すべきところは、高知県の闘犬などの文化がかなりリアルに描かれており、その時代背景にある大正時代が、よくある東京の大正ロマン的なものとは違った地方独特のノスタルジーに溢れている点である。

 

五社英雄監督ならではの、独特な濃厚なタッチで描かれるヤクザの世界も地方らしさが出ており、映像の美しさが際立っているところに五社作品としての価値がある。

 

主演の仲代達也や夏目雅子の演技は言うに及ばず、他の出演者である岩下志麻や夏木マリの演技も鬼気迫るものがあり、この作品に大きな彩りを添えている。

 

仲代達也の演じる極道ぶりは凄まじい迫力がある。

夏目雅子も一世一代の名セリフが光る。

他の役者も文句ない演技であり、2時間半近い上演時間に全く冗長さを感じない。

 

宮尾登美子原作の映画は外れがないところで有名であるが、本作が初の映画化である。

 

この映画の成功の裏には、監督をつとめた五社英雄の渾身の演出があった。

五社監督自身にとって、本作制作の直前まではプライベートで数々の修羅場があったとされる。

もう映画監督としては無理ではないかという逆境を乗り越え、復帰第一作目となったのが本作である。。

 

仲代達矢が大抑しい演技で土佐の侠客「鬼政」になりきっている。

 

また、鬼政の妻・歌を演じた岩下志麻の存在感も素晴らしい。

本作の4年後に始まる「極道の妻たち」シリーズを予感させるような堂々たる演技だ。

 

五社英雄は東映・岡田社長に「岩下志麻と組みたい」と直談判したという。

岩下は松竹の至宝で、松竹は貸し出しを渋ったといわれる。

五社から「この役は粋で仇っぽくて、岩下さんは今までそういう役をやっていないから、そういうものを引き出したい。この役で、そういう芸域を広げていくきっかけにしたらどうか」とアドバイスを受け承諾した。

岩下のヤクザの姐御役は本作が初めて。岩下は太ももの入れ墨を見せる官能的なシーンを自ら提案し、東映という縁遠かった世界に一気にのめり込んだ。

本作では夏目に人気を持っていかれたが、これが1986年からの当たり役「極道の妻たちシリーズ」に繋がる。

『極妻』では凄みの効いた低い声で「あんたら、覚悟しいや!」とピストルをぶっ放し"姐御"イメージを決定的にした。松竹育ちの岩下は京撮の初日はびくびくだったと話している。

仲代と岩下は、すでに『雲霧仁左衛門』(1978年)で五社と一緒に仕事をしており、気心が知れていた。

 

 

しかし、この映画の大ヒットを決めたのは、何といっても、夏目雅子の渾身の「なめたらいかんぜよ」という名せりふだ。

これは、彼女を一世風靡させた永遠の言霊となった。

白血病で世を去る3年前の映像である。

夏目雅子の美しさには目を見張るものがある。

 

名セリフのシーンがこれ:

 

「なめたらいかんぜよ!」

 

 

今回のブログ掲載に当たり、宮尾登美子の原作を読み通してみた。

 

そこで分かったことがいくつもある。

 

ひとつは、「なめたらいかんぜよ」というセリフは原作には全く存在していないことだ。

そのようなヤクザとの諍いのシーンすら無い。

つまり、このセリフは、名匠・高田宏治の脚本によって創られた名文句なのだ。

この人は、日本映画界における名脚本家として間違いなくトップ10に入る。

代表作だけでも以下の通り名作ばかりだ:

『柳生武芸帳』シリーズ
『まむしの兄弟』シリーズ
『東京-ソウル-バンコック 実録麻薬地帯』
『殺人拳シリーズ』
『仁義なき戦い 完結篇』/『三代目襲名』
『日本の首領シリーズ』
『ドーベルマン刑事』/『赤穂城断絶』
『鬼龍院花子の生涯』
『極道の妻たちシリーズ』

 

 

さらに、この映画の原作は、宮尾登美子自身の生い立ちをヒントにしていることだ。

宮尾登美子は、高知の遊郭で芸妓紹介業(女衒)を営む岸田猛吾と愛人の子として生まれた。

実母は女義太夫だった。

その後彼女は苦労して女性ながら学校の先生になっている。

 

本作では、女衒ではないヤクザの親分・鬼龍院政五郎の養女となったのが、夏目雅子演じる松恵だ。

やくざの家から出て学校の先生になる彼女の姿は、宮尾自身の生い立ちを感じさせる。

 

また、親分・鬼龍院政五郎のモデルとなる人物は実在したようだ。

小説に、「鬼政(鬼龍院政五郎)」が飛行家フランク・L・チャンピオンを高知に招聘(しょうへい)し、曲芸飛行を行ったシーンが登場する。

この飛行興行の最中に、フランクチャンピオンは墜落死してしまう。

実際に、高知市柳原という所に「フランクチヤムピオン之碑」が建立され、その碑頂部には飛行帽があしらわれているようだ。

フランクチャンピオン記念碑

「フランクチヤムピオン之碑」


「鬼政」は実在の人物「鬼頭良之助(きとうりょうのすけ)(本名 森田良吉(りょうきち))」がモデルで、大親分(侠客)であるようだ。

 

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高知の航空史を語る上で欠かせない存在でもある。

この鬼頭の足跡を高知市内にいくつか見ることができ、かるぽーと近くにある「九反田地蔵尊」もその一つである。

本尊は石仏で、石田三成の娘に関わる伝承を有し興味深い。

この境内に姿彫りの地蔵尊と火災復旧記念碑、百度石があり、いずれも鬼頭良之助の足跡が記されている。

真新しい石灯籠は「鬼政」を演じた俳優・仲代達矢氏の奉納である。

詳細はこちらをご覧あれ:

 

 

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