「モーガンズ・クリークの奇跡」
(原題:The Miracle of Morgan's Creek)
1944年2月公開。
妊娠させた相手を探すシニカルなスクリュー・ボール・コメディ。
興行収入:9百万米ドル。
監督・脚本:プレストン・スタージェス
キャスト:
ノーバル・ジョーンズ:エディ・ブラッケン
トゥルーディ・コッケンロッカー: ベティ・ハットン
エミー・コッケンロッカー:ダイアナ・リン
コッケンロッカー巡査:ウィリアム・デマレスト
治安判事:ポーター・ホール
トゥエルク氏:エモリー・パーネル
ジョンソン氏:アル・ブリッジ
ラファティ氏:ジュリアス・タネン
新聞編集者:ヴィクトル・ポテル
マクギンティ知事:ブライアン・ドンレヴィ
ボス:アキム・タミロフ
あらすじ:
トゥルーディ・コッケンロッカー(ベティ・ハットン)は、田舎町モーガンズ・クリークの巡査の娘だ。
父親の命令に反して、彼女は兵士たちの乱暴な送別パーティーに出席し、ダンス中にシャンデリアに頭をぶつけてしまう。
翌朝、トゥルーディは放心状態で、ゆっくりと昨夜の出来事を思い出し始める。
彼女は兵士と結婚していたが、その名前を「名前にzが入っていた。ラツキーワツキーのように...それともジツキーヴィツキーだったのか?」ということ以外は思い出せない。
彼女は、自分も新郎も偽名を使っていたと信じているため、新郎との連絡方法も分からず、新郎がどんな顔をしていたのかも思い出せない。
彼女は結婚許可証も持っていない。
トゥルーディはその後、自分が妊娠したことを知る。
何年もトルーディに恋心を抱いている地元の4Fの少年ノーバル・ジョーンズ(エディ・ブラッケン)が助けに入るが、トルーディの過保護な父親が巻き込まれ、事態は複雑になる。
ノーバルとトルーディはある計画を立てる。
偽名で秘密裏に結婚し、ラツキーワツキーという偽名が書かれた結婚証明書をノーバルに渡し、スキャンダルを回避するというものだ。
その後、トゥルーディは離婚し、彼女とノーバルは合法的に結婚することになる。
ノーバルが第一次世界大戦のアンティークな「ドーボーイ」の制服を着て急遽行われた結婚式で、疲れ果てたノーバルが誤って本名に署名し、牧師が警察に通報した。
ノーバルはコッケンロッカー邸に連れて行かれ、そこで軍、州、連邦の役人がコッケンロッカー巡査と管轄権をめぐって争うことに。
ノーバルはトルーディの誘拐、軍人になりすましたこと、未成年者の道徳を損なったこと、逮捕と偽証に抵抗した容疑で告発されている。
治安判事が偽の結婚証明書を破棄した後、トルーディの父親はノーバルを逮捕し、町の刑務所に閉じ込めてしまう。その後、トゥルーディは父親に、結婚、妊娠、そしてノーバルが新郎のふりをしようとしたことについての真実を話す。
彼女の父親は、トゥルーディの本当の夫を見つけるためにノーバルを逃がすことに同意する。
探索を始めるにはお金が必要だったが、勤務先の銀行が夜閉まっていたため、ノーバルは巡査の協力を得て銀行に忍び込み、同額の債券を残したまま900ドルを奪う。
金庫を開けようとしたノーバルが防犯警報装置を作動させたので、トルーディと妹のエミー(ダイアナ・リン)は父親を警察署で縛り、強盗に犯されて無力化されたように見せかける。
何か月も隠れていた後、ノーバルは弁護士事務所に現れ、そこで彼の策略が信じられず巡査が解雇されたことと、コッケンロッカー一家が町を出て行ったことを知る。
ノーバルの弁護士は彼に失踪するよう勧めるが、ノーバルはトゥルーディを捜すことを決意する。
しかし、彼は町で銀行支店長に発見され、警察に通報された。
クリスマスの時期、妊娠の終わりが近づき、巡査は市議会に近づき、トゥルーディが本当の話をしてノーバルの無罪を晴らしたいと考えていると告げる。
しかし、そうする前に、トゥルーディは陣痛を起こし、病院に緊急搬送され、そこで6つ子、全員が男の子を出産する。
その知らせを受けたマギンティ知事とザ・ボスは、ノーバルを起訴を取り下げて釈放するよう要求する。
トゥルーディの最初の結婚は無効になり、結局トゥルーディとノーバルは結婚したと宣言される。
知事はノーバルに遡って州警備隊の任務を与え、合法的に制服を着る資格を与え、トゥルーディの父親は警察署長に任命される。
トゥルーディが6人の男の子を産んだことを知ったノーバルは圧倒された。
コメント:
モーガンズ・クリークという名前の田舎町でのお話である。
出征パーティの夜、酔っ払って記憶を失ったトルーディ(ベティ・ハットン)はゆきずりの兵隊の子供を妊娠してしまう。
厳格な父親(ウィリアム・デマレスト)の怒りを収めようとするトルーディに妹のエミー(ダイアナ・リン)がある提案をする。
それに巻き込まれていくトルーディの幼馴染のノーバル(エディ・ブラッケン)と他の三人のやりとりが、軽妙で人の良さがにじみ出て、その表情や動きから終始目が離せない。
ハリウッド正調コメディを得意としたP・スタージェス監督の、ノリのいい喜劇。
第二次世界大戦中のキャンプ地だったモーガン・クリークが舞台。
トルーティはパーティーで出会った女性と一夜をともに過ごす。
それがもとで彼女は妊娠してしまうが、ひそかに思いを寄せていた幼なじみのノーバルが、その子の親になることを申し出る……。
ストーリーそのものは他愛ないラブ・ストーリーだが、スタージェスのコメディ・センスがそこかしこに炸裂。
ヒトラーやムッソリーニまでもギャグで登場させ、絶妙のテンポで物語が語られていく。
喜劇映画の楽しみが満喫できる一編。
監督・脚本をつとめたのは、「レディ・イヴ」で知られるプレストン・スタージェス。
この人は、イリノイ州シカゴに生まれる。
母方の祖父母はアイルランドからの移民。
母の再婚相手が裕福な株式仲買人のソロモン・スタージェスだったため、幼年期はアメリカとヨーロッパを行き来して過ごす。
母親が経営する化粧品会社のニューヨーク支店で働くが、会社を辞めて発明家に転向。
しかし、やがて演劇に興味を覚え、劇作家としてキャリアをスタートする。
1929年に発表した戯曲『紳士酒場』が大好評を博し、才能に目をつけたハリウッドから脚本家としてオファーされる。そもそもハリウッドに進出したのは1931年に『紳士酒場』がジョン・M・スタールによって映画化された際、その出来に満足できなかったスタージェスが制作元のユニバーサル映画に抗議したのがきっかけだった。
1930年代は才気あふれる脚本家として地位を築く。
1933年に脚本を担当した『力と栄光』(別名『権力と栄光』)では主人公の人生を知人の回想形式で語るというナラタージュの手法を確立し、後の映画脚本に大きな影響を与える。
特に『市民ケーン』はこの映画の影響を大きく受けているとされる。
その後もミッチェル・ライゼンやウィリアム・ワイラーといった当時の第一線の映画監督たちと組んだ脚本を手がける。
1940年にはパラマウント映画の上層部を「脚本料は1ドルで構わないから」と根気強く説得し、自ら脚本を書いた政治コメディ『偉大なるマッギンティ』で映画監督デビュー。
脚本家出身の映画監督第1号となる。
前例のない脚本家出身の監督ということで不安の声もあったが、本作は大ヒットを記録し、またアカデミー脚本賞オリジナル部門を受賞するなど快挙を成し遂げる。
勢いに乗ったスタージェスは、立て続けに『七月のクリスマス』、本作『レディ・イヴ』を送り出し、ハリウッドに旋風を起こす。
スタージェスの作品はそれまでの映画には当たり前だった感傷的な場面、社会的メッセージを全て排し、スラップスティック・コメディとソフィスティケーティッド・コメディの要素をそれぞれ合わせた唐突なストーリー展開を持つものだった。
監督のみならず製作も手掛け、『サリヴァンの旅』『結婚五年目(再公開時題名:パームビーチ・ストーリー)』とまたもヒットを飛ばす。
1942年、フランスから亡命してきたルネ・クレール監督のハリウッド映画『奥様は魔女』ではプロデューサーを務める。
この当時、パラマウントではスタージェスとセシル・B・デミルが2大看板監督だったが、製作費が膨大な上に撮影スケジュールを守らなかったデミルが上層部から好意的に見られなかった一方、スタージェスは経済的に仕事を進めていたために信頼も厚かった。
また、サービス精神旺盛な性格から撮影現場も打ち解けた雰囲気があり、多くの俳優はデミルよりスタージェスの仕事を選んだという。
1944年の『凱旋の英雄万歳』と『モーガンズ・クリークの奇跡』は共にアカデミー脚本賞にノミネートされるが、この頃から製作費が高騰し始め、批評と興行面での失敗も続いたことから製作条件は次第に悪化。
『偉大なる瞬間』を最後にパラマウントを去った。
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