「幻の光」
1995年9月公開。
前夫の死を乗り越えて行く女性の心の軌跡を描く名作。
ヴェネツィア国際映画祭金オゼッラ賞(撮影賞)受賞。
1995年キネ旬ベストテン第4位。
原作:宮本輝
脚本:荻田芳久
監督:是枝裕和
キャスト:
- 江角マキコ:ゆみ子
- 浅野忠信:郁夫
- 内藤剛志:民雄
- 柏山剛毅:勇一
- 渡辺奈臣:友子
- 木内みどり:道子
- 柄本明:喜大
- 桜むつ子:とめの
- 赤井英和:マスター
- 市田ひろみ:初子
- 大杉漣:浩
- 橋本菊子:キヨ
- 吉野紗香:幼少時のゆみ子
- 寺田農:刑事
- 原田修一:警官
あらすじ:
ゆみ子が12歳の時、ゆみ子の祖母が失踪した。
以来、ゆみ子は自分が祖母を引き止められなかったことを深く悔やんでいた。
ゆみ子は25歳になって間もなく、祖母の生まれ変わりのように目の前に現れた郁夫と結婚するが、祖母の失踪はトラウマとなって今もゆみ子を苦しめていた。
さらに、夫の郁夫との間に息子の勇一も生まれ、ゆみ子は幸せな日々を送っていたある日、郁夫が自転車の鍵だけを残して列車に飛び込み、命を絶ってしまった。
ゆみ子は祖母に続いて夫と、大事な人を次々と見送ってしまったと途方に暮れる。
5年後、ゆみ子は日本海に面した奥能登の小さな村に住む民雄と再婚した。
先妻に先立たれた民雄には娘・友子がおり、春が来て夏が過ぎ、次第に勇一と友子も仲良くなじむようになって、ゆみ子にも平穏な日々が戻ってきていた。
半年後、弟の結婚式のために里帰りしたゆみ子は、否応無く再び前夫の郁夫への想いに取りつかれる。
冬のある日、漁師のとめの婆さんがゆみ子に蟹を取ってくると約束して舟を出した。
しかし、静かだった海は次第に荒れ始め、夜になってもとめのは帰って来なかった。
ゆみ子は、またしても自分が人を死に追いやったと絶望にとらわれる。
やがて、とめのは無事に帰ってきたのだが、ゆみ子の心は晴れなかった。
郁夫の想い出の品である自転車の鍵を民雄に見咎められたのをきっかけに、ついにゆみ子は家を出てしまう。
おりからの葬列の鈴がゆみ子を死へと誘う。
ゆみ子は海辺の岩場で燃える柩を見つめて、ただ佇んでいた。
追って来た民雄も静かにゆみ子の後ろ姿を眺める。
ゆみ子は民雄に「なぜ郁夫が自殺してしまったのか、いまだに解らない」と初めて打ち明けた。
民雄は漁師だった父の「海に誘われるんだ。沖の方に綺麗な光が見えて自分を誘うんだ」という言葉を思い出し、「誰にもそんな瞬間がある」とゆみ子の言葉に応えるのだった。
再び春が来て、穏やかな光の中にゆみ子たち家族四人の笑い声が響き渡っていた。
ゆみ子にもようやく平安な日々が訪れたようだ。
コメント:
原作は、宮本輝の同名短編小説。
新潮社の月刊誌『新潮』(1978年8月号)に掲載。
1979年に単行本化され、1983年に文庫本化された。
“生と死”“喪失と再生”をテーマに、宮本輝の告白体の同名小説を映画化した人間ドラマである。
これまでテレビのドキュメンタリーを数多く手掛けてきた是枝裕和の劇映画デビュー作となった。
また江角マキコの映画デビュー作となった作品でもある。
夫を原因不明の自殺で失った女性の喪の作業(グリーフワーク)を、静かな視線で描写している異色作。
グリーフワークとは、人との離別(特に死別)時に受ける悲しみと立ち直りのプロセスである。
モーニングワークともいう。
大切な人と死別したとき、遺族は大きな悲しみ(グリーフ、Grief)を感じ、長期にわたって、ショック期、喪失期、閉じこもり期、再生期といった期間を経て、身体的・精神的な変化をたどるとされている。
本作は、「死別」を乗り越える女性の心理を映像化した作品として、ヴェネツィア国際映画祭で金オゼッラ賞(撮影賞)を受賞するなど、国内外で高い評価を得た。
数々の映画賞を獲得してきている是枝裕和は、監督デビュー作である本作でもそほ非凡さをしっかり示していた。
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