ハリウッド・コメディ映画 第32作「影なき男」ミステリアス・コメデイ・シリーズ第1作! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「影なき男」

(原題:The Thin Man

 

The Thin Man (film) - Wikipedia

 

「影なき男」 プレビュー

 

1934年5月25日公開。

「マルタの鷹」の原作者ハメットの「影なき男」シリーズ第1作。

興行収入:$1,423,000

 

原作:ダシール・ハメット「影なき男」

脚本:フランシス・グッドリッチ、アルバート・ハケット

監督:W・S・ヴァン・ダイク

 

キャスト:

  • ニック・チャールズ:ウィリアム・パウエル
  • ノラ(ニックの妻):マーナ・ロイ
  • ドロシイ:モーリン・オサリヴァン
  • 顧問弁護士マコウレー:ポーター・ホール 

The Thin Man (1934) - IMDb

 

あらすじ:

発明家クライド・ワイナントは、女秘書のジュリア・ウルフとのいざこざから妻のミミと離別して永年独身生活を送っていた。

彼の娘のドロシイ(モーリン・オサリヴァン)と義弟のギルバートとは母方に引き取られていた。

ミミはクリスと言う若い男と同棲していたが、ドロシイは母を嫌って父のクライドを慕っている。

クライドは発明上の用件で誰にも行き先を知らさぬ秘密の旅に出た。

そして金の入用な時は顧問弁護士のマコウレーを通じて秘書のジュリアに金を送らせる事にしていた。

ドロシイはトミイという青年と恋に落ち、結婚する事になったが、その結婚日が迫っているのに父クライドからの消息は絶えたままだ。

母のミミは心配の余りジュリアの許へ来てクライドの行き先を聞こうと訪ねてくるとが、ジュリアは何人かに惨殺されていた。

クライドは依然として姿を晦ましたままなので、嫌疑は彼の上にかかった。

今は職をやめて田舎に引っ込んでいた名探偵ニック(ウィリアム・パウエル)は、偶然ニューヨークに出てきたのだが、クライドと周知の間柄であるというので、いやいや事件を依頼されてしまう。

クライドの失踪ご3ヵ月目に、第2の殺人事件が起こった。

それもジュリアに関係のある男だった。

ニックは単身クライドの留守宅へ踏み込んでまたひとつの死骸を発見した。

死後時日を経過しているので、何人とも判明し難かったが、服装その他からクライドに恨みを抱いていた男らしく、これも又クライドの犯行だと断定された。

しかし、ニックだけはこの死骸がクライド自身であると判定し、犯人の見当も付いたが、更にその確認を握るためにクライドの周囲の人間全部を自宅の晩餐に呼んだ。

そこには、ミミもドロシイもクリスも弁護士のマコウレーもジュリアの前の情夫のモレリも、前科者の雇人タナーも警察部長のギルドも、その他あらゆる関係者が網羅された。

ニックは会食中に立ち上がって、事件に関する独自の推察を純純と述べ、ついに土壇場まで押し詰めて会食者の一人を犯人だと指摘し、首尾よく彼を逮捕することが出来たのであった。

 

The Thin Man' Review: 1934 Movie

 

コメント:

 

「マルタの鷹」で知られる文豪・ダシール・ハメットの小説「影なき男」シリーズの第1作である。

本作がヒットして、その後シリーズ化されて合計6作も制作されている、ハリウッドでは有名なコメディだ。

全6作のタイトルは以下の通り:

  • The Thin Man(1934)
  • After the Thin Man (1936)
  • Another Thin Man (1939)
  • Shadow of the Thin Man (1941)
  • The Thin Man Goes Home (1945)
  • Song of the Thin Man (1947)

'30年代~'40年代にかけて通算6本が製作された犯罪ミステリー「影なき男」シリーズの第1弾。

主人公は元私立探偵ニックと資産家令嬢ノラのチャールズ夫妻。

かつて腕利きの名探偵だったニックだが、ノラが父親の莫大な資産を相続したことから現役を引退し、のんびり気ままに優雅な生活を送っている。もう仕事なんてコリゴリ、面倒なことには巻き込まれたくない。

なので、知り合いから難事件の捜査を依頼されても気が進まず、のらりくらりと断り続けるのだが、しかしお転婆で好奇心旺盛なノラに尻を叩かれ、結局は事件解決に一肌脱がねばならなくなる…というのがシリーズのお約束的なストーリー展開だ。

 

THE THIN MAN (1934) – AFI Movie Club | American Film Institute

 

事の発端はニューヨークの裕福な発明家ワイナント(エドワード・エリス)の失踪事件。

重大な用事があるとだけ言い残し、誰にも行き先を告げずに出かけたワイナントは、そのまま音信不通になってしまったのだ。

秘書ジュリア(ナタリー・ムーアヘッド)との不倫が原因で離婚したワイナントには、別れた妻ミミ(ミンナ・ゴンベル)と同居する娘ドロシー(モーリーン・オサリヴァン)に息子ギルバート(ウィリアム・ヘンリー)がいる。

そのドロシーが恋人トミー(ヘンリー・ワッズワース)と年末に結婚式を挙げることから、クリスマスまでには帰ってくると約束していたのだが、それから3カ月以上が経ってクリスマス間近になっても全く音沙汰がない。

変わり者のワイナントは過去にも行方知れずになったことはあったが、今回ばかりはドロシーも心配でならなかった。

 

その頃、ニック(ウィリアム・パウエル)とノラ(マーナ・ロイ)のチャールズ夫妻は、クリスマスの休暇で久しぶりにニューヨークを訪れていた。

たまたまレストランで2人を見かけて声をかけるドロシー。

かつてワイナントはニックの顧客だったのだ。

父親を探して欲しいと願い出るドロシーだったが、ニックは探偵業から足を洗って4年になるからと言ってやんわりと断る。

その直後、ワイナントがニューヨークへ戻ったと顧問弁護士マコーリー(ピーター・ホール)のもとに連絡が入る。

どうやら秘書ジュリアのアパートにいるらしい。

それを聞いた前妻ミミはジュリアの部屋へと向かう。

再婚した夫ジョーゲンソン(シーザー・ロメロ)は無職のヒモで、この3か月間ワイナントから養育費の仕送りがないため金に困っていたのだ。

ところが、アパートに到着したミミはジュリアの他殺体を発見する。

遺体の手にはワイナントの発明品が握られていた。

元夫が容疑者になったら金銭の当てがなくなる。

そう考えたミミは発明品を奪ったうえで警察に通報する。

 

ニックとノラは昔の仕事仲間や元依頼人、捕まえた前科者や懇意にしていた新聞記者などを招いて盛大にクリスマス・パーティを行う。

そこへドロシーがやって来る。

母親から証拠品の話を聞いた彼女は、父親を守るために自分がジュリア殺しの犯人だと告白するが、ニックはすぐにその嘘を見破る。

さらに、ミミやギルバートらもニックに相談するためパーティへ乱入。

現場に居合わせた新聞記者たちは、ニックがワイナント失踪事件の依頼を引き受けたものと早合点する。

困り果てたニックだったが、夫の名探偵ぶりを見たくて仕方がないノラに背中を押され、渋々ながら警察のギルド刑事(ナット・ペンドルトン)とタッグを組むことに。

ジュリア殺しの秘密を握っていた情報屋ナンヘイム(ハロルド・ヒューバー)が殺害され、警察はワイナントがジュリアとナンヘイムを殺して潜伏しているものと睨むが、しかしニックはいまひとつ腑に落ちないでいた。

そんな折、閉鎖されていたワイナントの研究所から白骨死体が発見され、事件は意外な方向へと展開していくこととなる…。

 

ニックはディナーのゲストに自分の理論をさらに詳しく説明した。

クライドの弁護士であるハーバート・マコウレーはパニックに陥り、ニックを射殺しようとする。

ニックは彼を殴り、マコウレーが殺人者であると宣言した。

つまり、真犯人は、顧問弁護士のハーバート・マコウレーであった。

 

原作はハードボイルド小説の大家ダシール・ハメットが'33年に発表した同名小説だが、しかし映画版ではハードボイルド要素など皆無に等しく、むしろライトなロマンティック・コメディの色合いが強い。

 

監督は『類猿人ターザン』('32)や『桑港』('36)などを大ヒットさせた娯楽職人W・S・ヴァン・ダイク。

『イースター・パレード』('49)や『略奪された七人の花嫁』('54)などのミュージカル映画でも知られる、アルバート・ハケットとフランシス・グッドリッチの夫妻が脚本を手掛けた。

 

ヴァン・ダイク監督はハケット&グッドリッチ夫妻に対して、「あくまでもハメットの原作は下敷きにするだけ」「ニックとノラの軽妙洒脱な会話のやり取りを重視するように」と指示したという。

これは監督のカラーというよりも、映画会社MGMのカラーに合わせたのだろう。

 

当時のハリウッドではスタジオごとに作風の傾向があり、ハリウッド最大規模の映画会社だったMGMは女性好みの「グラマーと洗練」をトレードマークにしていた。

男性向けのハードボイルド路線といえば、主にB級映画を得意としていたワーナー・ブラザーズの十八番だ。

なので、本作が大人向けの小粋で洒落た犯罪ミステリーに仕上がったのも、まあ、当然といえば当然の帰結であろう。

 

主演は、パラマウントからMGMへ移籍したばかりのウィリアム・パウエルと、妖艶なヴァンプ女優から上品な知性派女優へとイメチェンしたばかりのマーナ・ロイ。

 

2人とも本作の直前にクラーク・ゲーブル主演の『男の世界』('34)で共演し、これを契機にMGMの看板スターへと成長した。

 

「ワンテイク・ウッディ」との異名を取ったヴァン・ダイク監督は、特別な理由がない限りはワンテイクで撮影を済ませるという早撮りの名人だったようだ。

なぜなら、役者は気合の入ったワンテイクめが一番乗っているから。

あくまでも現場のノリと雰囲気を重視していたのだ。

それは本作も同様。

 

例えば、チャールズ夫妻の初登場シーンで、パウエルはバーカウンターで楽しげにカクテル・シェイカーを振っているのだが、実はこれ、パウエル本人には本番だと教えずに撮影していたらしい。

なるほど、どうりでリラックスしているわけだ。

 

パウエルとロイの軽妙な掛け合いシーンでも、ヴァン・ダイク監督は自由にアドリブを入れさせたという。

そもそも、両者は非常にウマが合った。

なにしろ、パウエルもロイも飾らない庶民的な人柄で、ハリウッド業界でも特に人望の厚かった人格者だ。

 

2人の共演シーンが驚くほどナチュラルで、本当に長年連れ添った夫婦のように見えるのは、そうした撮影現場の良い空気のなせる業だったのかもしれない。

 

父親の行方を探す若い女性ドロシーには、ヴァン・ダイク監督の『類猿人ターザン』でヒロインのジェーンを演じたモーリン・オサリヴァン。

ミア・ファローのお母さんである。

 

その身勝手な母親ミミを演じているのは、後にウィリアム・ワイラーの『我等の生涯の最良の年』('46)でもマーナ・ロイと共演しているミンナ・ゴンベル。

 

この映画は、シリアスなミステリー作品ではなく、ウィリアム・パウエルとマーナ・ロイを中心にしたお洒落で粋なコメディなので、そこが理解できると満足できるだろう。

 

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