「毒薬と老嬢」
(原題:Arsenic and Old Lace)
1944年9月1日公開。
4年間連続ブロードウェイで公演された大ヒット・コメディの映画化。
興行収入:4,784,000ドル。
脚本:ジュリアス・J・エプスタイン、フィリップ・G・エプスタイン
監督:フランク・キャプラ
キャスト:
モーティマー・ブルースター:ケーリー・グラント
エレイン・ハーバー・ブルースター:プリシラ・レイン
アビー・ブルースター:ジョセフィン・ハル
マーサ・ブルースター:ジーン・アデーア
ジョナサン・ブルースター:レイモンド・マッセイ
テディ:ジョン・アレグザンダー
アインスタイン博士:ピーター・ローレ
あらすじ:
アビー(ジョセフィン・ハル)とマーサ(ジーン・アデーア)のブルースター姉妹は、ブルックリンの山の手の大邸宅に住んでいる。
この老嬢たちは、親切心から、孤独な異性の老人を天国に送りたいという奇妙な考えに捕らわれていて、部屋を貸してやるといっては誘い込み、ヒ素の混じったブドウ酒の杯を与えるのであった。
老嬢たちには、三人の甥がある。
その一人テディ(ジョン・アレグザンダー)は自らを第26代大統領の故テディ・ルーズヴェルトであると思い込んでいる。
彼はここをパナマ運河であると信じ、地下の穴倉に運河を開さく中である。
運河は既に第11開門まで出来て、伯母たちが殺した老人の死体が関門ごとに葬られている。
他の二人の甥はモーティマー(ケーリー・グラント)とジョナサン(レイモンド・マッセイ)である。
前者は劇評家であるが正気である。
後者は狂気の犯罪者で法の手にある。
モーティマーは、ブルースター家の隣のハーパー牧師の娘のエレイン(プリシラ・レイン)と結婚し、その報告に伯母たちを訪れ、偶然伯母たちの部屋で死体を発見する。
伯母たちは誇らかに、それは彼女等の仕事であるといい、テディをよんで、運河の第12関門を掘れと命ずる。
テディはすべてパナマの黄熱病の犠牲者だと思っているのである。
ジョナサンはアインスタイン博士(ピーター・ローレ)と共にやって来る。
博士はジョナサンの共犯者であり、主治医である。
ジョナサンの顔を博士は自由自在に外科的に変装させる。
彼らも一個の死体を携えて来たが、モーティマーを訪ねて来たエレーンに発見されたので、ジョナサンは彼女とモーティマーを片づけるべく、二人をしばり上げさるぐつわをはめる。
彼は博士とともに、二人の処刑方法を構想中、この地域を受け持つ警官オハラが訪れ、続いて殺人犯係のルーニー警部がやって来る。
ジョナサンを見ると手配中の殺人犯であることを認め、アインシュタイン博士もろとも捕ばくする。
そこへハッピーデール精神病院長ウイザースプーンが、テディを収容するために現われる。
マーサとアビーもテディと共に精神病院に収容されることが決まった。
老嬢たちは去りぎわに、モーティマーにささやいた。
彼は真実の甥でなく、親類でもなく、預かって育てたあかの他人の子であると。
モーティマーは、ブルースター家の狂気の呪縛を免れて胸なでおろし、晴れやかにエレーンを抱くのであった。
コメント:
名匠・フランク・キャプラ監督の傑作である。
ハロウィンの日。
神父の娘エレインと結婚したばかりの演劇評論家モーティマー・ブルースターは、新婚旅行でナイアガラに旅立つ前に、ブルックリンにある叔母の家に挨拶に行く。
そこには叔母のアビーとマーサ、それに自分のことをテディ・ルーズベルト大統領だと信じている兄弟が住んでいた。
モーティマーは窓際の椅子の下に見知らぬ男の死体を発見。
叔母たちを問いただすと、身寄りのないメソジストの老人で、可哀想に思い毒入りワインで毒殺したのだという。
しかも、殺したのは彼だけではない。これまでに11人、部屋を借りに来た老人たちを殺害し、地下室に埋めていたというのだ。
モーティマーは新婚旅行どころではなくなる。
これ以上の殺人を止めさせようと、死体の墓掘りに利用されているテディを療養所へ緊急入院させるべく奔走する。
そんなところへもう1人の兄弟、連続殺人鬼のジョナサンが整形外科医であるアインスタイン博士、それに殺したばかりの死体と一緒に戻ってくる。
ジョナサンは死体を地下室に埋め、ボリス・カーロフそっくりに変えられた顔を別の顔に整形するつもりだった。
タクシーを待たせたまま、いっこうに新婚旅行に発とうとしないモーティマーを不審がって、エレインが家を訪ねてくる。
さらに、劇作家志望のオハラ巡査、テディを引き取りに来た療養院のウィザースプーン氏が入れ代わり立ち代わり家を訪れ、シッチャカメッチャカの状態になる。
最終的に、指名手配中のジョナサンは警察に逮捕され、叔母2人とテディは療養院に入院が決まる。
最後に叔母がモーティマーに今まで隠していた秘密を打ち明ける。
モーティマーはブルースター家の人間ではなく、コックの子供だったのだ。
モーティマーはやっと新妻と新婚旅行に出かけることができた。
あらすじだけを読むと、これは「コメディ映画」ではなく「ホラー映画」だと思えなくもない。
だが、映像の予告編を観ると、ストーリーはホラーだが、映画は間違いなくコメディだということが分かる。
主人公を演じるケーリー・グラントがここでも良い味を出している。
やはりこの人がAFIが選んだコメディ映画100作の上位に何度も登場する理由が理解できる。
おかしな顔やおかしなアクションで笑いを取ったバスター・キートンやチャップリンよりも、ケーリー・グラントの方がずっと上品でオシャレで、そして笑える演技が出来ているのだ。
こういう役者がハリウッドでは好まれるのだろう。
公開当時の批評もどこも肯定的だ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙は「全体として、昨日ストランド劇場で上映したワーナー映画『毒薬と老嬢』はとてもぞっとして愉快だった」。
『バラエティ』誌は「凝ったものではないが、キャプラ作品は原作戯曲のカラーと精神を汲み上げ、一方、有能な脚本家チーム、ジュリアス・J&フィリップ・G・エプスタインは効率的でタイトに凝縮された脚本に仕上げている。
キャプラならではの知的な演出で完全なものになった」。
『Harrison's Reports』誌は「爆笑エンターテイメント。今年の興行収入上位になること間違いなし」。
『ザ・ニューヨーカー』誌のジョン・ラードナーは「舞台同様、映画になっても笑える。本当に笑える」と。
公開から24年後、チャールズ・ハイアムとジョエル・グリーンバーグはその著書『Hollywood in the Forties 』でこう書いている。「フランク・キャプラは『毒薬と老嬢』をより誇張した緊迫感あるものにした」
アメリカン・フィルム・インスティチュートはこの映画をアメリカ喜劇映画ベスト100の30位に選出した。
日本語タイトルと原題とが、相当違っていて気になったのでチェックしてみた。
原題の「Arsenic and Old Lace」という意味が分かったので、参考までにアップする。
「Arsenic 」とは、「ヒ素」。毒薬だ。
「Old Lace」は、「古いレース」ではなかった。
「Old Lace」とは、「ブランデーなどのアルコール性飲料」。
つまり、「先の短い孤独な老人にヒ素と古酒をまぜた毒酒を飲ませて安らかに死なせてやること」というのが原題の意味する内容らしい。
「伯母たちが、誇らかに、それは彼女等の仕事であると言っている」ことから、どうやら主人公の叔母である年老いた女性たちが、殺人狂だったという物語なのだ。
やはりこれはホラーだ!
この映画は、TSUTAYAでレンタル可能:
https://movie-tsutaya.tsite.jp/netdvd/dvd/goodsDetail.do?titleID=0081757820