「女の勲章」
山崎豊子の代表作のひとつであるこの小説は、京マチ子主演で映画化されたあと、テレビドラマとしても何度も制作されている。
ファッション界にすい星のごとく現れた大阪出身の女性の生きざまを描く小説は、まさに格好のドラマ化の素材であった。
放送時期に沿って順番にレビューする。
1962年版
1962年4月4日から8月29日の毎週水曜20時30分 - 21時に、フジテレビ系にて放送された。
日清紡績(現:日清紡ホールディングス)の一社提供。
主演は、月丘夢路。
歴代では唯一、在阪準キー局の関西テレビが制作している。
キャスト:
- 大庭式子:月丘夢路
- 八代銀四郎:夏目俊二
- 津川倫子:芳村真理
- 坪田かつ美:伊吹友木子
- 大木富枝:環三千世
- 安田兼子:萬代峰子
スタッフ:
- 脚本:田中澄江
- 音楽:土田啓四郎
- 演出:野添泰男
コメント:
ヒロインを月丘夢路、敵役の八代銀四郎を夏目俊二が演じているが、個性が弱く、ドラマの迫力に欠ける感じ。
残念ながら、このドラマの視聴率の記録は見当たらない。
1976年版
1976年8月4日から12月1日に水曜ドラマシリーズ枠で、1962年版と同じくフジテレビにて放送された。
全18回。
主演は、三田佳子。
キャスト:
- 大庭式子:三田佳子
- 八代銀四郎:片岡孝夫
- 津川倫子:宇津宮雅代
- 坪田かつ美:山口いづみ
- 大木富枝:沢田雅美
- 曽根英生:清水章吾
- 白石教授:仲谷昇
- 安田兼子:佐々木すみ江
スタッフ:
- 脚本:鈴木尚之
- 演出:大野木直之、河村雄太郎
コメント:
ヒロインの大庭式子を三田佳子が熱演している。
ヒロインを利用し、最後に蹴落とす悪役・八代銀四郎を片岡孝夫が演じて、好評だったようだ。
さらに、ヒロインが慕う白石教授を仲谷昇が演じており、配役は申し分ない。
しかし、この連ドラも視聴率の記録が見つからない。
2017年版
2017年4月15・16日にフジテレビ系でスペシャルドラマとして2夜連続放送された。
(第1夜は『土曜プレミアム』枠を15分後拡大して放送された)
主演は松嶋菜々子。
視聴率は第1夜に8.1%、第2夜に6.2%をそれぞれ記録した(ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯・リアルタイム)。
キャスト:
- 大庭式子 - 松嶋菜々子
- 八代銀四郎 - 玉木宏
- 津川倫子 - ミムラ
- 坪田かつ美 - 相武紗季
- 大木富枝 - 木南晴夏
- 野本敬太 - 駿河太郎
- キヨ - 江波杏子
- 曾根英生 - 小澤征悦
- 安田兼子 - 浅野ゆう子
- 白石庸介 - 長塚京三
スタッフ:
- 脚本:浅野妙子
- 演出:西浦正記
- 音楽:得田真裕
- 主題歌:薬師丸ひろ子「追憶」(『Cinema Songs』)
コメント:
フジテレビが本腰を入れて臨んだとされるこの松嶋菜々子主演のドラマ。
結果は、驚異的ともいえる低視聴率で、残念作と評価されている。
ヒロイン・式子のビジネスパートナーを玉木宏、3人の弟子をミムラ、相武紗季、木南晴夏が演じた。
平均視聴率は、第一夜で8.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、第二夜で6.2%を記録。
同時間帯に放送された15日放送のKAT-TUN・亀梨和也主演『ボク、運命の人です。』(日本テレビ系)の12.0%や、16日放送の長谷川博己主演『小さな巨人』(TBS系)の13.7%を大きく下回った。
「フジは宣伝にかなりの費用を回していましたが、“嫌フジ”の風潮も手伝ってあえなく撃沈。」と報道された。
また、多くの登場人物が関西弁を話すなか、主人公は標準語。
式子は劇中で『土地の言葉を捨てて、新しい時代の人間になると決めた』とその理由を説明しているものの、視聴者からは『違和感しかない』『標準語で“船場、船場”言われても、説得力ない』といった声が相次いでいます」(テレビ誌記者)。
やはり、山崎豊子の初期作品は、ほとんどが大阪弁で、船場を中心にした因習深いビジネスの世界をバックにしたものが多い。
「女の勲章」は、大阪に限定せず、フランスへの出張も交えた国際的なシーンもあり、ファッションの世界という煌びやかな雰囲気があるのだが、ヒロインを徹底的に色と欲の餌食にする八代銀四郎という存在が大きすぎるのが玉に瑕といえるだろう。
この男が常に操る完璧な大阪弁と、悪漢としての魅力がこの小説のキモになっているため、そこをしっかり演じ切れる男優がいないと成り立たないのだ。
映画は、京マチ子が扮するヒロイン・式子を最初から最後まで牛耳る悪魔のような銀四郎を田宮二郎が演じ切っており、それが成功している。
テレビドラマでは、そこまでこの銀四郎になり切れる役者を採用できなかったのが、悔やまれる。
玉木宏では無理だろう。
2017年当時のカッコ良くて、あくの強い悪役男優といえば、香川照之か、豊川悦司だろう。
こういうあくの強い役者が必須だ。
ヒロインも、松嶋菜々子ちゃんでは可愛すぎる。
もっと色気がむんむんしていて、我の強いキャラクターでないと無理だ。
たとえば、米倉涼子か、中谷美紀、宮沢りえ。
テレビ業界は、山崎豊子の作品を成功させるドラマを真剣に検討して、ぜひチャレンジしてほしい。