「横堀川」
1966年9月15日公開。
「花のれん」にほかの作品も加えて映画化。
「男はつらいよ」シリーズ以前の名作。
原作:山崎豊子『暖簾』『花のれん』『ぼんち』
脚本:柳井隆雄
監督:大庭秀雄
キャスト:
倍賞千恵子:多加
中村扇雀:吉三郎
山口崇:八田吾平
中村鴈治郎:利兵衛
小沢昭一: ガマ口
小島秀哉: 利一
香山美子: 千代
亀井光代: 志野
浪花千栄子:きん
田村高廣:伊藤
あらすじ:
船場の昆布商浪花屋の一人娘・多加は美しい娘だった。
その上、浪花屋でのきびしい丁稚奉公に耐えている八田吾平(山口崇)を何くれと慰めてくれるほど心の優しい娘でもあった。
吾平はたった三十五銭をにぎりしめて淡路島から大阪へ出てきたのだった。
そして、船場の四つ橋のたもとで浪花屋の主人・利兵衛(中村鴈治郎)に拾われたのである。
その吾平がたった一人の肉親である母を亡くした時、多加は吾平と共に悲しんでくれた。
お蔭で吾平は熱心に仕事に取り組み、異例の若さで番頭になることが出来た。
そんな頃、多加は呉服問屋河島屋の跡取り吉三郎(中村扇雀)と結婚した。
しかし、生来の遊び好きの吉三郎のために多加は苦労しなければならなかった。
一方、吾平は番頭以上の商才を示し、主人の利兵街を驚かせるのだった。
利兵衛は吾平のために、遠縁の娘・千代(香山美子)と結婚させて、暖簾を分け与えた。
吾平の店はますます、順調に伸びていった。
多加は、相変らず放蕩三昧に明け暮れる吉三郎のために、女の細腕一つで老舗の暖簾を守っていた。
しかし、多加がいくら働いても、吉三郎はそれ以上に浪費するのであった。
こうして河島屋の屋台は次第に傾いていったのだが、それを知りながら多加は吉三郎に心底から惚れ抜いていたので、自分の苦労を苦労と思わなかった。
それをいいことに吉三郎は、寄席芸人ガマ口(小沢昭一)を引き連れて、連日のように乱痴気騒ぎをやっていた。
その有様に浪花屋から多加についてきたお梅は、歯がみして口惜しがった。
明治も終りに近づいたある日、隣家からの貰い火で浪花屋は全焼してしまった。
老いても商才を失なわない利兵衛は、間もなく浪花屋を新築し、再び繁盛させたが、卒中で倒れてしまった。
そして、利兵衛は、吾平に浪花屋の暖簾を頼んで七十四年の生涯を閉じたのだった。
ちょうどその頃、多加の河島もいよいよいけなくなり、ついに倒産してしまった。
吉三郎が最後のアガキで株に手を出したのが命とりになったのだ。
けれども、多加は、度重なる不幸にもめげずに、新しく思い立った寄席経営を始めた。
それは、常に積極的に生き抜こうとする、船場のごりょんさんとは別の人生を歩き始めた多加の姿であった。
コメント:
倍賞千恵子の浪花弁が聞ける珍しい作品である。
倍賞千恵子にとっては、あの大ヒット作「下町の太陽」の3年後、「男はつらいよ」第1作の3年前に当たる時期の作品だが、ひたむきに生きようとする女の姿をしっかりと演じ切っている。
昆布やの娘が嫁いだ先の夫は、グータラな落語バカ。
夫のためにコヤを開き、夫が死んでもコヤを続ける。
「花のれん」と同様で、それなりに見応えのある作品ではある。
「横堀川」という川は、山崎豊子の初期の船場ものの舞台として、何度も小説に登場する川の名前である。
大阪市内の土佐堀川と道頓堀川を南北に結んだ東横堀川(長さ3キロメートル)・西横堀川(長さ2.5キロメートル)をさす。
船場の商家が並んでいたところで、山崎豊子自身もその付近の商家で育ったようだ。
裕福な家庭で育った倍賞千恵子が中村扇雀のもとへ嫁ぐのだが、この中村が手の施しようがないほどの道楽者。
それでも倍賞はくじけることなく自らの商売センスを発揮、「花菱亭」をつくり、興行で成功を収め、夫を支えて行く。
道楽夫にちゃっかり妻と言えば「夫婦善哉」(1955年、豊田四郎監督)とかのような話を思い出すが、本作では途中、夫・中村が突然病に倒れ、そのまま息を引き取ってしまう。
そこが意外。
夫の遊び相手の女性を倍賞が夫の履物で殴るところが印象深い。
今まで堪えていた悲しみがバッと溢れ出るシーンだ。
泣かせる。
議員を演じたのは田村高廣。
流行りの安来節を聴いている倍賞が、田村に「唄として聴いているのか?商売として聴いているのか?」と問われる。
その時の心の揺れが印象的。
このあたりも味がある。
ラストは皆で安来節を踊って明るい幕引き。
ヒロインが持つ建設的な意志、精神的な強さが印象に残る作品だ。
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