「瘋癲老人日記」
1962年10月20日公開。
谷崎潤一郎の晩年期の傑作を映画化。
原作:谷崎潤一郎「瘋癲老人日記」
監督・脚本:木村恵吾
キャスト:
- 卯木督助:山村聡
- 卯木颯子:若尾文子
- 卯木浄吉:川崎敬三
- 卯木はま:東山千栄子
- 陸子:丹阿弥谷津子
- 五子:村田知栄子
- 佐々木:倉田マユミ
- 春久:石井竜一
あらすじ:
七十七歳の卯木督助(卯木督助)は、軽い脳溢血で寝たり起きたりの日日を送っている。
それに今では完全に不能である。
だが、--不能ニナッタ老人ニモ或ル種ノ性生活ハアルノダ--と思っている。
そんな督助の性と食欲だけの楽しみを息子・浄吉(川崎敬三)の嫁である颯子(若尾文子)は察している。
ある日、老人がベッドでぼんやりしていると、突然浴室の戸が開き、颯子が顔を出した。
「アタシ、シャワーノ時ダッテ、ココ閉メタコトナイノヨ」。
老人を信用しているからか、入って来いというのか、老いぼれの存在なぞ眼中にないのか、なんのためにそんなことを言うのだろう。
夜になりシャワーの音がして来た。
幸い誰もいない。
老人は浴室へにじりよった。
「入リタインデショ、早ク入ッテ……」。
老人のあぶない足元が水に濡れてすべりそうになる。
それでも颯子の足に取りすがる老人。
「足ニ接吻スルクライ、オ許シガ出タッテヨサソウナモノダ」
「ダメ! アタシソコハ弱イノヨ」--。
「アアショウガナイ、ジャア、モ一度、ヒザカラ下ナラ許シテヤル!一度ダケヨ」
その接吻の代償に老人は颯子に、従兄の春久(石井竜一)にバスを使わせることを承知させられた。
颯子と春久は出来ているのだろうか?……。
ある夜、また老人の部屋で颯子と二人になった。
やにわに背後から抱きすくめ首筋へ接吻する老人。
「オ爺チャン、イヤダッタラ、誰ガソンナコトシロト言ッタノヨ、ネッキングナンテ」
いきなり床に手をつき三拝九拝する老人。
「ジャ、ナンデモワタシノコトキク?」
結局老人は、三百万もする猫眼石の指輪をせしめられてしまった。
秋が来て、冷たい風が吹き始める。
京都へ来て老人にひとつのアイデアが生まれた。自分の墓に仏足石を彫ろうというのだ。
その足型は、颯子のものでなければならない。
宿で老人はいやがる颯子の足の裏に朱墨を塗り、ちょうど魚拓を作るような足型をとった。
何度も何度も良いものが出来るまで異常なまでに続けた。
晩秋の卯木家でブルドーザーの唸りが騒々しい。
庭の一角にプールを作ろうというのだ。
それを見つめる老人の若々しい眼。
「プール作ッテネ、ソシタラ、アタシ泳グノ見セテアゲル」。
老人はたった一つのこの言葉を何度もくりかえしていた。
コメント:
原作は、谷崎潤一郎の同名長編小説。息子の嫁に性欲を覚える不能老人の性倒錯(脚フェティシズム)が身辺雑記の日記形式で綴られた作品。
『中央公論』1961年(昭和36年)11月から1962年(昭和37年)5月まで連載。1962年(昭和37年)5月に中央公論社から刊行され、毎日芸術賞大賞を受賞した、
谷崎晩年の代表作。
耽美派の代表とも言える谷崎潤一郎原作の映画化。
官能的なというよりはユーモラスさに力点を置いた作り方になっている。
山村聡の老義父役が傑作。
妻や自分の娘には冷たく、ケチなのに、長男の嫁(若尾文子)にはデレデレで何でも言うことを聞いて、買ってしまう。
シャワーを浴びているところをわざと見せつけられて、足にキスするところまでは許されるが、膝上まで行こうとうすると足蹴にされるなど、散々な扱いを受けるのだが、それでもとにかくご執心。
揚句は自分の墓石用に彼女の足型を仏足代わりにする。
男は歳を取ると若い女性は皆綺麗に見えてしまうものだが、あのご執心ぶりは凄いし、それを山村聡がやっているところが余計に笑える。
カッコいい男優として邦画界でトップクラスだった山村聡がこういう役を演じるとは。
さすが、役者はなんでも出来るのだ。
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