「痴人の愛(1960)」
1960年4月17日公開。
船越英二と叶順子が主演した第2作。
原作:谷崎潤一郎「痴人の愛(1960)」
監督・脚本:木村恵吾
キャスト:
船越英二: | 河合譲治 |
叶順子: | ナオミ |
田宮二郎: | 熊谷正雄 |
川崎敬三: | 浜田裕太郎 |
石井竜一: | 関口竜三 |
大川修: | 中村三郎 |
あらすじ:
他人からは木石の典型のように思われている河合譲治にも秘密があった。
ナオミである。
池袋のアルバイト・サロンで彼女をみつけてから、収人のすべてをそそいで今日のような魅力ある女性に育て上げたのだ。
自分の思った通りの女を得たいという、譲治の奇妙な執念の結果だった。
ナオミはスポーツ・カーをねだった。
最近、ナオミの享楽の欲望は果てしもなく大きくなっていくようだ。
さすがに、これは譲治も承諾するわけにはいかなかった。
英語のレッスン中、ナオミはノートを破った。
譲治のはげしい声がとんだ。
ナオミは姿を消した。
やがて帰ってきたナオミと譲治の情痴の世界。
--以来、譲治の家でのナオミの生活は一段と奔放になった。
春から夏、譲治はその頃いまわしい噂を聞いた。
ナオミがボーイ・フレンドの誰かれかまわずに身をまかせているという。
彼女の頼みで譲治は鎌倉に離れを借りていた。
ある夜、譲治は遅くなる送別会の予定を早くくりあげて帰った。
ナオミはいなかった。
浜辺で譲治は見た。
ボーイ・フレンドに囲まれ、体に海草をまきつけて踊り狂うナオミを。男たちのはやし声に、全裸に近い体をくねらせる、
ナオミの痴態。
譲治はナオミを砂浜に突き倒した。
--東京へ帰った譲治は、決定的な事実に会わねばならなかった。
ナオミを寝室で待つ男がいたのだ。
秋。
譲治はナオミと別れていた。
ラジオを聞きながら、干物を焼く彼の前に人影が立った。
なれ親しんだ体臭。
ナオミだった。
顔をそむける彼の眼の前で、ナオミは着替えを始めた。
いつしか譲治はあえぎ始め、抱きついていた--。
コメント:
昭和24年に公開された宇野重吉と京マチ子による第1作から11年後に製作された第2作である。
船越英二と叶順子による名作の映画化第2作だ。
あらすじにある「木石」とは、人情や男女間の情を解さない人間のことだ。
ナオミ役を熱演した叶順子が強く印象に残る作品になっている。
叶順子は、パーツそれぞれが主張を持っている顔立ちのはっきりとした女優だった。
妖艶な雰囲気と肉感的な魅力がナオミのイメージに溶け込んでいて、船越英二演じる河合を翻弄し、意のままに動かしていく様子が無理なく伝わってくる。
愛くるしささえ感じる演技で、嫌らしさもなく淡々として演じていたところに好感が持てる。
この作品も、主人公の男が、ナオミという我がままで勝手で奔放な女にとことん振り回された結果、さらに彼女への狂おしいまでの熱愛の感情にわが身を任せるという悲劇的なエンドになっている。
これこそ谷崎潤一郎の「耽美主義」の映像化である。
この映画は、残念ながら動画配信、レンタル共に見当たらない。
DVDは下記にて販売されている: