「1900年」
(原題:Novecento)
1976年5月21日公開。
イタリア・フランス・西ドイツ・アメリカ合作映画。
北イタリアの農園を舞台にした歴史ドラマ。
オリジナルは上映時間316分のノーカット版。
キネマ旬報年間第2位。
脚本:フランコ・アルカッリ、ジュゼッペ・ベルトルッチ、ベルナルド・ベルトルッチ
監督:ベルナルド・ベルトルッチ
キャスト:
- アルフレード・ベルリンギエリ:ロバート・デ・ニーロ
- 地主の次男ジョヴァンニの息子。
- オルモ・ダルコ:ジェラール・ドパルデュー
- ベルリンギエリ家の小作人頭レオの孫。父なし子として生まれる。
- アダ・フィアストリ・ポーラン:ドミニク・サンダ
- アルフレードの妻。情緒不安定。
- アッティラ・メランキーエ:ドナルド・サザーランド
- ベルリンギエリ家の農園管理人でジョヴァンニの腹心の部下。ファシストの幹部として強力な権力を掌握し、農民達を苛め抜き、反抗した者を容赦なく虐殺。
- アルフレード・ベルリンギエリ:バート・ランカスター
- ジョヴァンニの父。孫に自分と同じ名前をつけて溺愛する。
あらすじ:
1900年の夏。
北イタリアの大農園にふたりの男児が誕生した。
地主であるアルフレード・ベルリンギエリの次男ジョヴァンニ(ロモロ・ヴァッリ)の子で祖父(バート・ランカスター)の名をそのまま継ぐアルフレードと、小作人頭で大家族の長レオ・ダルコ(スターリング・ヘイドン)の娘ロジーナ(マリア・モンティ)の子オルモだ。
それから七年後の農園。
長男のオッタヴィオ(ヴェルナー・ブランズ)は家風に逆らい放蕩の旅に出たままなので、今はジョヴァンニが権力をふるっている。
成長したアルフレード(パオロ・パヴェージ)とオルモ(ロベルト・マッカンティ)の二少年は、いつも喧嘩ばかりしているが、深い友情で結ばれていた。
祭りの日、老ベルリンギエリが自殺し、ジョヴァンニが自ら作った遺言で正式に当主となった。
1918年秋。
第一次大戦から復員するオルモ(ジェラール・ドパルデュー)。
喜ぶダルコ一家。しかし農園は横暴な地主たちに苦しめられており、別の土地に去ってゆく者もいた。
美しい女教師アニタ(ステファニア・サンドレッリ)をはじめ農婦たちが抵抗のデモを組む。
そんなアニタにオルモは惹かれた。
一方、新たなる十字軍結成をジョヴァンニは呼びかけるが、アルフレード(ロバート・デ・ニーロ)は賛同しない。
彼は町にいるオッタヴィオの邸で、詩を書く自由な女アダ(ドミニク・サンダ)に会い心を奪われる。
乾草小屋でのダンス・パーティで友情を誓うオルモと彼の子を宿したアニタ、そしてアルフレードとアダの四人。
しかし、国内はファシストの抬頭で揺らいでいた。
ジョヴァンニが死に、やがて当主となったアルフレード。
彼にファシストとして猛威をふるうアッチラ(ドナルド・サザーランド)と彼の恋人レジーナ(ラウラ・ベッティ)を追放して欲しいとたのむオルモ。
アルフレードとアダの結婚式の日、アッチラとレジーナが、ある地主の子を惨殺した。
その容疑をかけられたオルモを救わないアルフレードにアダは失望する。
1928年。
ファシズムの時代。
ピオッピ邸を狙うアッチラとレジーナが、クリスマス・イブの夜ピオッピ夫人(アリダ・ヴァリ)を惨殺。
黙認するアルフレード。
やがて、娘アニタ(アンナ・ヘンケル)と共にオルモが村を去る。
それを知ってアダも村を出る決心をする。
そして1945年。
農民たちは立ち上がった。
アッチラとレジーナを捕え、アルフレードも捕えられた。
しかし死んだと思われていたオルモが帰り、人民裁判で地主ベルリンギエリの死滅を宣告し、アルフレードは生き証人として生かすと告げた。
直後、終戦の知らせが村にとどくのだった。
コメント:
ベルナルド・ベルトルッチ監督によるイタリア・フランス・西ドイツ・アメリカ合作映画。
1901年生まれの、異なる階層出身の幼馴染の2人の男性の生き方を中心に、20世紀初頭から第一次世界大戦、ファシズムの台頭から第二次世界大戦の終了までのイタリア現代史を描く。
日本語タイトルの「1900年」は、誤訳だという。
原題の「Novecento」というイタリア語には、1900年、1900年代、20世紀と、いろいろな意味がある。
この映画にぴったりなのは「1900年代」なのだ。
5時間16分という長大な作品のため2部構成になっているが、全体としては切れ目のない1本の作品。
北イタリアの農園が舞台で、1901年に誕生した農園主の長男と、私生児として生まれた小作人の男子との主従の相克と友情の物語として描かれる。
幼少時は喧嘩を通して農園主長男アルフレードと小作人私生児オルモは友情を築き、アルフレードは進歩的な考えを持つようになる。父が死んで農園を継いだアルフレード(ロバート・デ・ニーロ)は、オルモが解雇を助言した管理人アッティラ(ドナルド・サザーランド)を存続させ、結婚式の日、小作人の子供殺しの冤罪を着せられたオルモ(ジェラール・ドパルデュー)を助けなかったために、二人は主従の関係に復してしまう。
ここにアルフレードの農園主としての責任・立場への相克があるが、庶民出の妻(ドミニク・サンダ)の目には変心と映り、失望して酒に溺れるようになる。
農民解放運動から共産党パルチザンとなるオルモと、ファシスト党で弾圧する側に回るアッティラ。
1900年代前半のイタリア近代史を農園を舞台に描き、5時間16分の長さにも拘らず退屈しない。
最終的には歴史通りにファシスト党が敗北し、数々の悪事をなしたアッティラは農民らに殺されてしまう。
一見、農民解放の階級闘争の勝利を描く作品のように見えるが、実は近代化の中でアイデンティティを失っていく農園主の物語なのである。
本作には祖父・父・息子と3代の農園主が登場するが、祖父(バート・ランカスター)は土を耕すことのない農園主の意味のない一生を顧みて自殺してしまう。
父(ロモロ・ヴァリ)は欲深い有産階級として小作人を搾取、息子のアルフレード(ロバート・デ・ニーロ)は友人と妻の信頼を失って農園経営の興味を失ってしまう。
アルフレードには有産階級への嫌悪から家を捨てて都会で暮らす伯父(ヴェルナー・ブルーンス)がいて、影響を受け、妻ともその紹介で知り合うが、その伯父もオルモの件でアルフレードに失望して去ってしまう。
終戦による農地解放で農園を失ったアルフレードは小作人たちによって人民裁判にかけられるが、オルモが農地解放で地主は死んだという詭弁で窮地を救う。
ラストシーンはそれから何十年か後の爺さんとなったアルフレードとオルモが、少年時代同様の喧嘩友達となった姿で、二人の間に立ちはだかる階級の壁がなくなったことを示して終わる。
デ・ニーロとドナルド・サザーランドの演技が光る。
特に、デ・ニーロは『タクシー・ドライバー』で一世風靡した直後に本作にも出演して、イタリア人としてのプライドを示している。
若き日のデニーロが、カッコいい!
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