「イノセント」
(原題:L'innocente)
1976年5月18日公開。
死ぬまで神に盾突き、自分の好きなように生きた男の物語。
原作:ガブリエーレ・ダヌンツィオ『罪なき者』
脚本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ、エンリコ・メディオーリ、ルキノ・ヴィスコンティ
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
キャスト:
トゥリオ・エルミル:ジャンカルロ・ジャンニーニ
ジュリアーナ:ラウラ・アントネッリ
テレーザ・ラッフォ:ジェニファー・オニール
ステファノ・エガーノ伯爵:マッシモ・ジロッティ
フェデリコ・エルミル:ディディエ・オードパン
侯爵夫人:マリー・デュボワ
フィリッポ・ダルボリオ:マルク・ポレル
トゥリオの母:リナ・モレリ
あらすじ:
20世紀のローマ。
今しも、ある貴族の館でコンサートが開かれようとしていた。
当夜の主役、トゥリオ伯爵(ジャンカルロ・ジャンニーニ)は社交界にゴシップを提供している男だった。
妻のジュリアーナ(ラウラ・アントネッリ)とは結婚して数年たつが、愛はさめていた。
彼は、ここしばらく、男を虜にせずにはおかない未亡人の公爵夫人、テレザ(ジェニファー・オニール)に夢中だった。
そして、ジュリアーナにしばしの別れをつげ、テレザを連れてフィレンツェへと旅立った。
一方、ローマの邸宅には、弟のフェデリコ(ディディエ・オードパン)が里帰りしてきた。
彼は友達で作家のフィリポ(マルク・ポレル)を連れてきたが、いつしかジュリアーナとフィリポは互いに惹かれ合うものを感じるようになる。
やがて、テレザと別れて、フィレンツェからトゥリオが帰ってきた。
彼は、明るさを取り戻しているジュリアーナに不審を抱く。
やがて、トゥリオが決定的に打ちのめされる日がやってきた。
ジュリアーナが妊娠したのだ。
フィリポの子供だと感じたトゥリオは、相続人ができたことを嬉ぶ母(リナ・モレリ)やフェデリコを傍らに、苦悩を深める。
そこで、神の力を信じないリアリストである彼は、子供を堕胎させようとするが、ジュリアーナは拒み、子供が生まれる.
だが、雪降るクリスマスの夜、トゥリオは、子供を寒さの中に置き去りにし、死なせてしまう。
驚きのあまり失神したジュリアーナは、一生フィリポを愛し続けることをトゥリオに告げ僧院へ入ってしまう。数カ月後、テレザを連れて自宅へ戻ったトゥリオは、彼女の口からもう愛のないことを聞かされ、その思いがけない言葉に、自分がすべてに敗れたことを悟った。
トゥリオは、永遠のイノセントの世界を夢みて、拳銃の引き金を引くのだった。
コメント:
20世紀初めの、イタリア貴族社会の絢爛たる文化を背景に、男女の愛憎を中心に人間の本質、人生を描いた名作。
『ルートヴィヒ』撮影中に心臓発作で倒れたヴィスコンティ監督が、その後残った左半身マヒのまま車椅子に乗りながら演出を手掛け、ダビングの完成を待たずに死去したため、彼の遺作となった。
「イノセント」とは、罪なき者という意味。
原題の「L'innocente) も同じ意味である。
原作と同じ。
これは、神に盾突く人間の傲慢さを描いている異色作である。
貴族であるエルミル家の長男トゥリオ(ジャンカルロ・ジャン二―二)は、未亡人の伯爵夫人テレザ(ジェニファー・オニール)の官能的な美しさの虜となり、関係が冷え切っている妻のジュリアナ(ラウラ・アントネッリ)にもそのことを公言する。
一人置かれたジュリアナは、トゥリオの弟(ディディエ・オードパン)が紹介した売れっ子の小説家フィリポ・ダルボリオ(マルク・ポレル)と密かに愛し合うようになる。
トゥリオはそのことに感付くと、ダルボリオに激しい嫉妬を覚え、今度はジュリアナに肉体的欲情をぶつけるようになる。
そうしているうちに、ジュリアナが妊娠していることが分かり、事情を知らない周囲は喜ぶが、トゥリオは自分の子でないことが明らかであることから激昂し、ジュリアナに堕胎を迫る。
ダルボリオはアフリカで熱病に罹り死亡したとの報が入るが、ジュリアナは産むことを決意し、難産の末、無事に男児が生まれる。
トゥリオはその後もその赤子の存在が疎ましくてならず、みんながクリスマスのミサに行って屋敷に誰もいない間に、窓を開け放ち赤子を寒風にさらすことによって死に至らしめる。
ジュリアナはトゥリオを呪い、二人の関係は完全に破綻し、テレザもトゥリオに愛想を尽かす。
トゥリオは精神的に追い詰められ、ピストルで胸を撃ち自ら命を絶つ。
主人公のトゥリオは信仰やモラルなどを一切否定し押しのけて、女たちに対し自己の欲望を貫こうとする。
この世は人間対人間の関係しかないのであり、地上のことは地上で解決するのだという無神論的で背徳的な考えで思い通りの世界を実現しようとする。
しかしそれは、必然的に相手の存在を否定することになり、大きな反動が自分に降りかかって来て、結局この世の居場所を亡くしてしまう。
神に楯突く、近世以降の人間の性(さが)の行く末であろうか。
宮廷絵画のような耽美的な美しさに満ちた映像に終始圧倒される。
しかし人間の営みをとり囲んでいる周りの美しさとは裏腹に、人間の本性に潜むエゴと傲慢さを妥協のないリアリズムで描き切った、監督ルキノ・ヴィスコンティの絢爛にして恐るべき最期の一品である。
こんな人間は日本にもけっこう多く存在していたのではないだろうか。
もしかしたら、今の日本にもいたりして。
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