「お国と五平」
1952年4月10日公開。
谷崎潤一郎の戯曲を映画化。
武家の妻とその従者の男が敵討ちをする話だが、実は三角関係の痴情がからんでいた。
原作:谷崎潤一郎「お国と五平」
脚本:八住利雄
監督:成瀬巳喜男
キャスト
- お国:木暮実千代
- 五平:大谷友右衛門
- 友之丞:山村聡
- 伊織(お国の夫):田崎潤
- お国の母:三好栄子
- 旅籠の女中A:広瀬嘉子
- 旅籠の女中B:津路京子
- 薬売り:柳谷寛
- 医者:藤原釜足
- 女中:音羽久米子
- 番頭:小倉繁
あらすじ:
お國(木暮実千代)は、かつて友之丞(山村聡)と恋を語らった仲だったが、彼の遊惰にあきたりなく、伊織(田崎潤)に走り、その妻となった。
あきらめきれぬ友之丞は伊織を闇討ちにした。
そこでお國は従者・五平(大谷友右衛門)を連れて仇討ちの旅に出て、諸国を放浪するも、仇の友之丞を発見できず、いつしか五年の年月が空しく過ぎた。
その間に、風の便りで國元では最早二人の噂をする者もなくなったという。
やがてお國は長い旅の疲れで病の床についたが、五平はまめまめしく看病をし、病が癒えたある祭の夜、二人はついに主従の垣を乗り越えて深い仲になっていた。
夏がすぎ、秋の一日、二人が旅路の疲れを路傍の石でやすめていたとき、何処からともなく友之丞の好きな尺八の音がして、二人の前に本人がついに姿を現した。
五平が勝負をいどむと、友之丞は嫌だといって逃げまわり、二人の仲を知っているらしい口ぶりに五平はかっとなってその背から斬りつけた。
止めを刺そうとする五平に、友之丞は「お國が一度は自分にも身をまかせた女だ」と云う。
五平は「武家の掟をなしとげたのじゃ」というお國の足を抱いて、自分をいつまでも可愛がって下さいと乞うのであった。
静かな微笑がお國の顔に浮かんだ。
國元へ帰る二人のあとを追うようにむせび泣く尺八の音が聞こえた。
コメント:
この作品は、あまり知られていないが、原作は谷崎の戯曲である。
1922年(大正11年)6月、雑誌『新小説』に掲載され、7月に谷崎本人の演出により帝国劇場で上演された。
単行本は同年7月に春陽堂より刊行された。
谷崎潤一郎は、小説だけでなく、多くの戯曲も残している。
その中で最も多く舞台化されているのが、この作品だという。
この戯曲は、闇討ちされた夫の敵討ちのため、従者・五平と共に各地を放浪するお国と、虚無僧姿でずっと2人の跡をつけていた敵・友之丞(お国の元許嫁)の3人の物語である。
1人の女を巡って争う2人の男の三角関係で、「恋」や「悪」について応酬する議論劇となっている。
舞台劇として衛星劇場に登場したものがこちら:
残念ながら、映画の動画は全くネット上で発見できなかった。
数年前には、都内のラピュタ阿佐ヶ谷や神保町シアターで上映されたようだが、最近は音沙汰無し。
DVDが発売されているようだ:
ストーリーは、やはり谷崎潤一郎の耽美主義が十分に描かれた作品となっている。
初恋の相手と添い遂げず、他の男の嫁いでしまった女。
初恋の相手の男は、彼女を諦めきれず、ついに夫となった男を殺害し、蓄電してしまう。
残された女は、従者の男を連れて、敵討ちの旅に出る。
ところが、仇の姿を発見できず旅を続けていた途中で、女は従者と深い仲になってしまう。
その後、ようやく仇の男が現れ、従者の五平の手で無事敵討ちが出来たのだ。
だが、仇の男は、ずっと前から影のようにこの二人のあとをつけていて、二人が深い仲になっていることを知っていた。
男は死ぬ前に、
「俺とお前とどこが違うのだ。
お前がお国と深い仲になっていることを知っているぞ。
俺はお前よりもずっと前にお国と良い仲だったのだ。」
と、反論する。
だが、お国は、国に帰ったら五平と再婚して、彼を出世させることを計画しており、昔の男には全く未練はなかった。
女が現実主義者であることをしっかり誇示している作品だ。
見方によっては、お国という女が、常に自分にとって最も良い相手を選んできたとも言える。
まさに、お国は相当な悪女である。
これぞファムファタールだ。
小暮美千代という女優の風貌は、このヒロインにぴったり。
この作品は、一生を常に女の魅力に振り回されてきた谷崎潤一郎ならではの、笑える愛憎劇なのだ。
ぜひこの映画を動画配信して欲しい。