「悪名桜」
1966年3月12日公開。
悪名シリーズ第12作。
原作:今東光
脚本:依田義賢
監督:田中徳三
出演者:
勝新太郎、田宮二郎、市原悦子、須賀不二男、藤岡琢也、沢村貞子、多々良純、酒井修、守田学、高杉玄、浜田雄史
あらすじ:
大阪周辺の繁華街でやきとり屋になっていた朝吉(勝新太郎)と清次(田宮二郎)は暴力団に襲われた新聞記者を助けて一躍街の英雄にされた。
朝吉を刺しにきた愚連隊の少年・猛(酒井修)は、逆に朝吉に捕まって、やきとり屋を手伝わされることになった。
また、八尾からやってきた幼馴染の菊枝(市原悦子)は、朝吉の父の死に水をとってきたといい、その遺言で女房にしてほしいと居坐ってしまった。
悪名の報いで父の墓参さえ許されない朝吉だけに、猛をまともにしてやりたいと、その親・沢村亀之助(多々良純)をたずねた。
ところが、朝吉らの家主であり界隈の大地主でもある沢村は、妻・房枝(沢村貞子)と共に体面ばかりを重んじて、朝吉の意をくまないばかりか、息子・猛がやきとり屋にいることを嫌い、なじみのやくざ大鯛組に取り戻しを頼んだ。
朝吉は意地でも猛を真人間に叩きあげる決意をした。
だが、ある日大鯛組が大挙してやきとり屋になぐり込み、朝吉や清次の奪戦も空しく、家は壊されて、猛は脱走してしまった。
そんな折も折、清次は菊枝が妊娠しているのを知り、朝吉の子だと誤解し、愛相をつかして去っていった。
しかし、菊枝はいきずりの男にだまされて子をはらんでいたのだ。
そんなこととは知らぬ清次は、出かけの駄賃にと、大鯛組の後藤(須賀不二男)をおどし、二十万円を捲きあげて朝吉の家へ投げこんだ。
また猛は大鯛組のやくざと争って一人を傷つけ、ABCクラブへ駆けこんだ。
ABCクラブの組長・乾は猛をダシに沢村と手を握り、界隈に娯楽センターを作り、その共同経営をすすめた。
やがて大鯛組、ABCクラブ、沢村、それに朝吉と、それぞれの思惑が入り乱れ、虚々実々のかけ引きが展開された。
そんなある日、ABC幹部におだてられだ猛は、大鯛組の幹部・後藤を射殺し、朝吉の家へとびこんできた。
朝吉は誤解をとき、舞いもどってきた清次同道で猛を自首させることにしたが、途中で猛はABC組員に射殺された。
憤懣やるかたない朝吉は、菊枝を八尾に送りかえすと、清次とともに、ABCクラブ、次いで大鯛組へとなぐりこみ、完膚なきまでに二つの組をたたきのめし、旅に出て行った。
それから数日、朝吉と清次のもとに、菊枝から三つ児が生れたという、明るい知らせが届いた。
コメント:
いつまでも任侠家業をしていられなくなったからか、堅気になり細々と焼き鳥屋を営む朝吉・清次。
お客さんと談笑して、商いでも名コンビぶりが垣間見えるのが微笑ましい。
そんな中、二組のヤクザの抗争が起き、なし崩し的に巻き込まれる。
焼き鳥屋の大家の息子がなかなかのヤンチャで、新興のヤクザの組に入りたがる。
見放す親に怒る朝吉。
注目なのはヤクザの組を“暴力団”だと連呼していること。
斬ったはったの任侠の世界ではなく、反社会勢力としてハッキリ言い切っている。
実は今作以前の悪名シリーズには無かった描写だ。
朝吉・清次は変わらずとも、世の仁侠道は過去の遺物と明確に表した描写。
堅気で焼き鳥屋を営む事といい、社会の時勢が変わったのだと伝わる。
悪名シリーズで相当なエポックな出来事だ。
さらに、今回はゲストヒロインが存在しないのだ。
代わりに市原悦子演じる幼なじみの女が、押し掛け女房的に居座る。
ヒロインと朝吉が恋愛劇にならないのも新鮮。
同郷の菊枝(市原悦子)が押しかけ女房になろうと朝吉&清次の住家に押しかけてくる。
そして、朝吉は不良少年の猛を同居させて鍛えなおそうとする。
そのために、朝吉、清次、菊枝、猛の4人のおかしな同居生活が始まるというエピソードが笑える。
親が見捨てることで子どもがぐれる、という教育問題をテーマにした作品だ。
どんなに世話を焼いても反抗して朝吉の言うことを聞かなかった猛だが、「朝吉さんの気持ちが嬉しかった、本当の父親は朝吉さんだ」という言葉を残して息を引き取る。
この作品の大きな魅力は、菊枝を演じる市原悦子の存在だ。
ただの陽気な押しかけ女房ではなく複雑な事情や計算も抱えているが、それでもなお生き生きとタフで優しい人物を演じ切る。
こういう役をやらせたら、この女優の右に出る人はいない。
ほんとうに上手い女優だ。
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