「わが青春のフロレンス」
(原題:METELLO)
1970年4月16日公開。
イタリアのベストセラー小説「メテロ」の映画化。
キネマ旬報ベストテン第4位。
原作:B・プラトリーニ「メテロ」
脚本:ルイジ・バッツォーニ、 マウロ・ボロニーニ、スーゾ・チェッキ・ダミーコ
監督:マウロ・ボロニーニ
キャスト:
マッシモ・ラニエリ:メテロ
オッタヴィア・ピッコロ:エルシリア
フランク・ウォルフ: ベット
ティナ・オーモン: イディナ
ルチア・ボゼー: ビオラ
あらすじ:
1880年、監獄から一人の男が出て来た。灰色の壁に寄り添って一人待っていた女が近づいて来る。
女は赤ん坊を抱えていた。「生まれたか……名前は?」「メテロ……」。
そしてその夜、生活の疲れと出産の疲れが重なったメテロの母は死んだ。
数日後、砂取り作業員で革命家だった父もアルノ河の氾濫で濁流に呑まれて死んでしまう。
メテロ(マッシモ・ラニエリ)は田舎に預けられて育ったが、十七歳の時、世の不景気のため移往する一家を離れて両親が住んでいたフロレンスに戻る決心をした。
父の古い友人でアナキストのベット(F・ウォルフ)は煉瓦工の仕事を捜してくれた。
彼の下宿で世話をうけながら、メテロは熱烈な社会の完全変革をめざす思想を彼から教えられる。
しかし、或る日、彼は酔って姿を消した。
捜しに出たメテロは監獄に行ってみるが、“ベット”という名を喋っただけでブチ込まれてしまう。
牢獄には政治犯もいた。
「マルクスを知っているか?社会主義の方が現実的だ、君の親父を知っている、立派な男だったぞ」
メテロの体の血は熱くなった。
初めて階級を意識したのだ。
未成年で無実だったからすぐに釈放されたが、もう、かつての少年メテロではなかった--。
煉瓦職人に戻った彼は、或る日、仕事場の隣にある家の庭仕事を頼まれ、未亡人ビオラ(L・ボゼー)に誘惑される。
彼の恋情は真剣だった。
しかし、彼には兵役が待っていた。
1095日の兵役は彼の肉体を逞しいものに変えた。
だが、階級のために闘う思想も鍛えあげられていった。
そしてフロレンスに帰ったメテロは以前の会社に戻り社会主義労働者グループに入った。
久し振りに会ったビオラはちっとも変わっていなかったが、結婚していた。
子供までいた。貴方の子かも知れないと彼女は言った。
しかし、もうビオラは自由の身ではなかった。
メテロ達の働く現場で人員整理のゴタゴタが起き、その騒ぎの最中、一人の男が誤って腐った梯子から落ちる。
「娘を呼んでくれ。死んだら組合の旗と一緒に弔ってくれ」と言って死んだ。
その男の葬式の日メテロはエルシリア(O・ピッコロ)と会った。
世話になった父の礼を言う清楚な姿はメテロの心に刻まれる。
組合の赤旗で護られた葬列は官憲の不当弾圧で蹴散らされ、抵抗したメテロと同志達は投獄された。
翌日、牢獄の外から各々の身内の者が声をかけて来た。
その中で「サラニ・メテロ、エルシリアです。感謝しています」
彼は鉄格子にしがみついて答えた。
「結婚するぞ!エルシリア!手紙をくれ」
一年以上の刑が宣告されたが周りは自分の主義のために闘っている同志達ばかりだった。
「手紙をくれと言ったので書きました。よく留置所にいた父にも書いたものです」
メテロはエルシリアの手紙を貧り読んだ。
彼女の父も闘士でありよく投獄され、彼女は造花の内職で生計を助けていた。
まだ愛した経験がないから、同情なのか愛情なのか分らないというエルシリアだったが、メテロが出獄すると二人は結婚し、子供も出来た。
組合運動が活発化し、メテロは集会のリーダー格となった。
最低貸金を要求する運動はフロレンス市中に拡がり、遂にストライキが宣言され二〇世紀初頭の伝説的争議となった。
この頃から機械が導入され労働者の危機感が高まったのだ。
メテロ達の職場もストに突入した。
集会のない日、公園をブラつくメテロはアパートの隣に住む人妻イディナ(T・オーモン)に声をかけられる。
典型的な有閑夫人で日頃からメテロに気のあるそぶりを示し、労働者の妻のエルシリアにはない魅惑的な眼差しを持っていた。
そして、妻の留守中二人は過ちを犯してしまう。
帰宅したエルシリアがその逢瀬を目撃したのには気付かない。
煉瓦工のストは四十日以上に渡って続けられ、スト基金は底をつき、職場復帰する者は厚遇するという資本家側の奸策に日和り始める者が出て来る。
メテロは屈伏しないと頑張った。
一方エルシリアは外で夫と密会を続けるイディナを待伏せ、部屋に連れ込んでいきなり力いっぱい平手打ちを喰わせる。
夫に手を出さないで!!
遂に対決の時が来た。
資本家側にシッポをふった連中が、ストを破って仕事にかかるというのだ。
仕事場に駆けつけたメテロ達の前には軍隊の銃口が待ちうけ、資本家と裏切り者がその後にいた。
「皆裏切りはやめろ!募金が着く頃だ」「鐘を鳴らせ仕事だ」と近づいて来た社長は言った。
「初めて雇ってやった時はまだ子供だったが……」
メテロは答えた
「私の父の頃は労働者が弱すぎたから搾取は簡単だった。だが今は違う!」
乱闘になり、軍隊が発砲した。
その時、資本家側が労働者の要求に折れ、スト中止の指令が入った。
労働者が初めて自らの血と汗で勝利の第一歩を得たのだ。
騒乱罪でやがて逮捕の手がのびる事を知ったメテロは妻の許へ別れを告げにいく。
エルシリアは夫の闘いと共に呼吸し、黙して理解する事を知っている労働者の妻だった。
メテロはその豊かな女らしさに烈しい愛を確認する。
六ヵ月の拘留後、外には息子の手を引き、身重の姿の妻が待っていた。
彼が捕っている間、誰かが金を届けてくれたと妻がいった。
「女の子が生まれたらビオラと名を付けよう」「……もうこの中へは絶対入らない、誓うよ」
「いいわよ、父の誓いと同じだわ」。
エルシリアはメテロを見つめ、息子の肩を抱きしめながら呟いた。
コメント:
二十世紀初頭、芸術の都から工業都市へ変わりつつあるフロレンス(フィレンツェ)を舞台に労働者として階級意識に目覚め、激動の青春を生きる若者と彼が愛した女達を描く。
「家族日誌」などで知られるイタリアの作家、B・プラトリーニのベストセラー小説「メテロ」を映画化した文芸映画の名作である。
20世紀初頭のフロレンス。
若い労働者のメテロは、社会主義者の友人の影響を受け、階級意識に目覚め、次第に労働運動の闘士に成長していく。
その間に彼は、年上の未亡人と恋に落ちて、別れた後、仕事仲間の娘、エルシリアと結婚する。
メテロは組合運動で何度か投獄され、ストライキ中に隣家の若い女と関係を持つが、最後には彼をひたむきに待ち続ける妻・エルシリアへの愛を見いだす。
20世紀初頭の時代色が見事に再現され、新人ラニエリとピッコロの演技が新鮮である。
日本語タイトルは「わが青春のフロレンス」。
フロレンスとは人の名前ではない。
イタリアの都市、フィレンツェのことだ。
本作公開当時、日本ではフロレンスが一般的だった。
ヴェネチアも、ベニスが一般的だった。
日本人は、ほとんどの外国の固有名詞を英語名で覚えさせられていたのだ。
映画は、戦後イタリアの不況時代でのレンガ職人たちのストライキの季節を描く。
その中で、恋愛模様や不倫や家族の誕生などが盛り込まれていく。
話は分かりやすく、展開も面白い。
まさに名作映画だ。
イタリア映画というと、ぶっ飛んだ乱痴気パーティや見たくない同性愛や少年愛などがテーマの作品がこの当時も多かったが、やはり本作のような深みのある社会派の名作があると心が休まる。
舞台となっているフィレンツェは、ローマと並ぶイタリアの古都として世界中から観光客が訪れる街である。
イタリアに旅行する際は、一度は行ってみたい所だ。
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