「ひまわり」
(原題: I Girasoli )
1970年3月13日公開。
戦争によって引き裂かれた夫婦の行く末を描く名作。
脚本:チェーザレ・ザヴァッティーニ、アントニオ・グエラ、ゲオルギー・ムディヴァニ
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
キャスト:
ソフィア・ローレン:ジョバンナ
マルチェロ・マストロヤンニ:アントニオ
リュドミラ・サベーリエワ:マーシャ
アンナ・カレーナ:アントニオの母
あらすじ:
貧しいお針子のジョバンナ(ソフィア・ローレン)と電気技師のアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、ベスビアス火山をあおぐ美しいナポリの海岸で出逢い、恋におちた。
だが、その二人の上に、第二次大戦の暗い影が落ちはじめた。
ナポリで結婚式をあげた二人は、新婚旅行の計画を立てたが、アントニオの徴兵日まで、14日間しか残されていなかった。
思いあまった末、アントニオは精神病を装い、徴兵を逃れようとしたが、夢破ぶられ、そのために、酷寒のソ連戦線に送られてしまった。
前線では、ソ連の厳寒の中で、イタリア兵が次々と倒れていった。
アントニオも死の一歩手前までいったが、ソ連娘マーシャ(リュドミラ・サベーリエワ)に助けられた。
年月は過ぎ、一人イタリアに残され、アントニオの母(アンナ・カレーナ)と淋しく暮していたジョバンナのもとへ、夫の行方不明という通知が届いた。
これを信じきれない彼女は、最後にアントニオに会ったという復員兵の話を聞き、ソ連へ出かける決意を固めるのだった。
異国の地モスクワにおりたった彼女は、おそってくる不安にもめげす、アントニオを探しつづけた。
そして何日目かに、彼女はモスクワ郊外の住宅地で一人の清楚な女性に声をかけた。
この女性こそ今はアントニオと結婚し、子供までもうけたマーシャであった。
すべてを察したジョバンナは、引き裂かれるような衝撃を受けて、よろめく足どりのまま、ひとり駅へ向かった。
逃げるように汽車に飛び乗った彼女だったが、それを務めから戻ったアントニオが見てしまった。
ミラノに戻ったジョバンナは、傷心の幾月かを過ごしていたが、ある嵐の夜、アントニオから電話を受けた。
彼もあの日以後、落ち着きを失った生活の中で、苦しみぬき、いまマーシャのはからいでイタリアにやってきたとのことだった。迷ったあげく、二人はついに再会した。
しかし、二人の感情のすれ違いは、どうしようもなかった。
そして、ジョバンナに、現在の夫・エトレ(G・ロンゴ)の話と、二人の間に出来た赤ん坊(C・ポンテイ・ジュニア)を見せられたアントニオは、別離の時が来たことを悟るのだった。
翌日、モスクワ行の汽車にのるアントニオを、ジョバンナは見送りに来た。
万感の思いを胸に去って行く彼を見送るこのホームは、何年か前に、やはり彼女が戦場へおもむく若き夫を見送ったそのホームだった。
コメント:
戦争によって引き裂かれた夫婦の行く末を悲哀たっぷりに描いた作品で、地平線にまで及ぶ画面一面のヒマワリ畑が評判となった。
数あるローレン主演の映画の中で最も日本で愛されている作品である
妻(ソフィア・ローレン)が、夫(マルチェロ・マストロヤンニ)の生死を確かめにロシアに渡ったが、夫がロシア女性とのあいだに子供までもうけている生活ぶりを目の当たりにする。
さらに、ロシア女性が駅のホームに仕事帰りの夫を迎えに行くと、夫が妻ソフィア・ローレンと視線が合った時、妻は咄嗟に身を翻して列車に飛び乗って号泣する。
このシーンは悲痛であるが、これが最初のクライマックスだ。
思いがけない再会の瞬間だったのがそのまま別れになる急激な展開が鮮やかな演出で、哀しみを痛烈に強める。
このつらい哀しみをどこへもぶつけられない、
その後、マストロヤンニがロシア女性(リュドミラ・サベーリエワ)に送り出されて、妻(ソフィア・ローレン)に会いに来る。
妻は再婚し、子どもも生まれている。そして夫はロシア女性のもとへ帰っていく。
個人の誰が悪いわけではない。
ぶつけようのない引き裂かれた悲哀が心に澱のように深く静かに沈んでいく。
それでも人は現実を踏まえて生きていく。
生きていかねばならない。
このエンディングが、最後のそして最高のクライマックスになっている。
監督ヴィットリオ・デシーカと、プロデューサーのカルロ・ポンティは、メロドラマに始まって静かで痛烈な反戦映画に仕上げた。
反戦でありながら、それを叫ぶのではなく、1人の男と2人の女の愛情物語に包み込んだ話術はさすがである。
こんな不幸な出来事は、絶対に起こってはならないが、おそらく現実には、世界のどこかでこの映画と似通った不幸を経験している人たちが多数存在するのではないだろうか。
これまでの二度にわたる世界大戦のみならず、その後も地球のあちこちで常に民族紛争や宗教紛争が起こっている。
そして2年前にロシアがウクライナに侵攻するというとんでもないことが起こった。
本作で描かれている広大なひまわり畑のロケ地は、ウクライナだったという。
何か因縁を感じさせるような映画である。
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