「悪名一番」
1963年12月28日公開。
悪名シリーズ第8作
悪名コンビが東京に乗り込んで人助けする痛快劇。
原作：今東光
脚本：依田義賢
監督：田中徳三
出演者： 勝新太郎、 田宮二郎、 江波杏子、 藤原礼子、 雪代敬子、 丸井太郎、 茶川一郎、 芦屋雁之助、 芦屋小雁、 伊井友三郎、安部徹、 名和宏
あらすじ：
年の瀬も押しつまった頃、朝吉（勝新太郎）と清次（田宮二郎）のもとに、お照（藤原礼子）が店の朋輩のもめごとを、もちこんできた。
大衆の零細な資金を集めて、町の金融業を営む大黒金融の不良社員が、預金を持ち逃げしたため、支払不能に陥ったというのだ。
話を聞いた朝吉と清次は、大阪支社に乗り込んだ。
気の毒な預金者の依頼を引受け、東京本社に善後策をかけあうため、持ち逃げ犯人の大野平助を追ってトラックで東上した。
平助の姉の妙子を訪ねた朝吉、清次の二人は、四国で名前をかたっていた偽せ者の一郎（芦屋雁之助）と二郎（芦屋小雁）に再会した。
朝吉と清次は早速大黒金融の本社へ乗りこんだが、社長の郡（安部徹）は、彼等に会おうとしなかった。
接待に出て来た美貌秘書・圭子（江波杏子）に、くいさがった朝吉は、豪華なナイトクラブで郡を発見した。
関東の顔役・工藤（名和宏）らのいならぶ中、田舎者の朝吉は、その嘲笑に耐えた。
一方清次は、上野でおぎん（茶川一郎）に会い工藤組にもぐりこんだ。
しかもそこで、監禁されている平助を発見し、彼の口から持ち送げの真相を聞いた。
恋人の圭子が四百万の分け前を約束に、一億円近い金の擬装拐帯犯人になって遁走中だというのだ。
黒い悪の組織の動めく中、朝吉の身のうえにも、工藤の手が動いているようだった。
そんな時、使い込み金の唯一の証拠となる郡の手帖が金庫から消え、圭子が平助を求めて工藤事務所に来た所を、清次は、二人をさんざん痛めつけることで、工藤にとりいった。
更に、二人をバラすことをたのまれた清次は、二人を連れて脱出する機会を待った。
ついに朝吉が工藤を怪しいとにらんだ直後、平助は、川田組へ一千万で売られることになった。
単身、工藤事務所にのりこんだ朝吉は、平助と圭子をのがして監禁されている清次とおぎんを救うため、一郎、二郎を伴って工藤事務所を奇襲した。
郡も工藤も朝吉の鉄挙のもとに倒れ、朝吉、清次の二人は、感謝されて、大阪に帰った。
コメント：
朝吉たちが初めて東京に乗り込み、東京タワーが映る。
これまで地方が舞台になることが多かったシリーズ中初めて「時代が実感できた瞬間」かもしれない。
高いビル群を見上げて驚いたり、サラリーマンと同乗するエレベータに乗ったりジャズが流れるクラブに入ってアンバランスぶりを描いたりするシーンが面白い。
当時の日本人は、東京の街中を実際に歩いたことがある人間が少なかっただろうから、東京観光の意味合いもあって、これは受けたのではないだろうか。
今回の敵は、悪徳金融業者の人間が法的手続きを盾にして朝吉に手出しをさせないようにしており、、これは手強い。
だが、そんなビジネスライクな前半から、後半は江戸っ子弁の親分とからんでのいつも通りの極道色が強くなり、定番の安定感を重視。
芦谷雁之助＆小雁兄弟も殴り込みに加わって、粉末殺虫剤などの粉類を撒いて大混乱に陥れる活躍ぶり。
これで、大いに盛り上がって気持ちよい仕上がりになっている。
今回は朝吉と清次の東京行き。
関西では「悪名」がとどろく２人も、東京では「田舎者」とバカにされる。
まだ集団就職の真っ最中だったし、「上京」という言葉が特別な意味を持っていた時代の雰囲気が良く出ている。
朝吉らと同じように東京でバカにされる田舎者も多かっただろうから、そこがグッとくる。
痛快なのは、東京でも関西と同じやり方を押し通そうとして朝吉が意地を張るところ。
思わず応援したくなる。
朝吉が東京に来て最初に行く先が靖国神社というのもいい。
勝：靖国神社に誰が祀られてるのか知らんのか。
田宮：知りまへんなぁ。
勝：お前は日本人ちゃう。
田宮：わて日本人でっせぇ、毎日、米の飯食ってまんがな。
こんな会話があって笑える。
清次が靖国神社をバカにして、朝吉と仲違いしたりして、このエピソードもまた、ホントによく出来ていると感心。
そして、ラストには仲直りした清次が「死んだら靖国神社に入れてもらえますか」と言う。
まだまだ面白い「悪名」シリーズ。
日本の娯楽映画史に残る名シリーズだ。
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